第60話 さくらとモモ――軍馬徴発②
ところが ある朝 役所 から 1枚の 紙きれが とどいた のです
――軍馬徴発命令 (ノД`)・゜・。
幼い ももちゃんを のこし さくらは 戦地へ 行かねばなりません
*
出発の朝――
たかし兄さんは いつもより 念入りに 手入れを して くれました
でも さくらは 棒のように 四肢を つっぱらせて 立って います
大好きな ニンジンを やっても 食べようともせず 赤く うるんだ
ひとみで モモちゃんの すがた ばかりを 追って いる のです💦
モモちゃんも しきりに 小首を かしげて かあさんを 見ています
たかし兄さんの 目から ポタポタ 大粒の しずくが こぼれました
うまやの 外には 残酷な ほどの 青空が ひろがって います 🌞
門の 前に 7人の 家族が せいぞろい して 見おくって います
たかし兄さんは さくらの 耳もとに 口をつけて ささやき ました
「ちびの ことは 心配 いらないよ お国の ために 尽くすんだぞ」
いまは もう すっかり あきらめきって しまった のでしょうか
さくらかあさんは 長い 首を たれて しずかに 聞いて います
*
国民学校の 校庭に 徴発 された 馬たちが あつまって 来ました
つきそいの 飼い主は みんな うなだれ 悲しみを こらえています
村長さんの あいさつばかりが いやに 立派に 聞こえる のでした
*
郷土部隊 までの 道は まるで おとむらいの 行列の ようでした
人も 馬も そろって 打ち ひしがれ うつむいて 歩いて います
馬と いっても 家族 として 睦み 合って 暮らして きたのです
なのに とつぜん 引き離され 二度と 会うことが かなわない……
――そんな むごい ことが あって いいものだろうか
みんな そう 思って いるのですが うっかり 口には 出せません
ひとに 知られない ように そっと なみだを ながす ばかりです
――出征軍馬馬魂碑
路傍の 石碑も だまって ゆううつな 行進を 見おくって います
はるか むかし 遠い 他国の 土に なった 馬たちの たましいは
千里の 空を 飛んで なつかしい 故郷へ もどった のでしょうか
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