第59話 さくらとモモ――軍馬徴発①
高原都市の 校外の 村で 馬の 赤ちゃんが うまれました
いまにも こぼれそうな まなこを いっぱいに 見ひらいた
とても かわいらしい 女の子 🐎
赤ちゃんには モモ という 名前が つけられました
桃の花が ぽっ ぽっと ゆめの ように 咲き始めて いた からです
赤ちゃんは 折れそうな ほど かぼそい 4本の あしを けんめいに
つっぱらせて 自分の ちからで 立ち上がろうと がんばって います
かあさん馬の さくらが やさしげな まなざしで 見まもって います
*
しめった 土の におい
あまやかな 蜜の におい
あたり 一面 うす桃色の 蓮華の 花びらで うまって います
はるか かなたで 高い 山並みが ぼうっと かすんで います
カッ カッ カッ カッ
かあさんの 馬が 楽しそうに 走り 出しました
クッ クッ クッ クッ
子どもの 馬も あわてて あとを 追いかけます
カッ カッ カッ カッ
クッ クッ クッ クッ
蓮華田の うえを ざわやかな 風が わたります
*
ピー ヒョロヒョロ ピー ヒョロロ
高い 空の うえの ほうで トンビが 1羽 輪を 描いて います
デデー ポポ デデー ポ
鎮守の 森の てっぺんで 山鳩が のんびりと 鳴き はじめました
水が はられた 田んぼで かあさんの ウマが はたらいて います
おやおや 子どもの 馬は どこに いるのかしら
あらあら いました いました 土手の 木かげに
小さな 影が 蝶々を 追い ぴょこん ぴょこん
*
とっぷりと 日が 暮れました
うまやの 天井で はだか 電球が ゆれて います
ほおずき色の あかりに ぼんやり 照らし出されて
親子の 馬は なかよく 干し草を 食んで います
仔馬は ときどき 食べるのを やめては かあさん馬に あまえます
かあさん馬は そんな 仔馬が かわいくて かわいくて なりません
うまやの 窓から 青く すきとおった 月光が さしこんで います
母馬仔馬は ぴったり よりそい しずかな 寝息を 立てて います
――おやすみなさい さくら かあさん
おやすみなさい おてんば モモちゃん
さっき まで にぎやかに 聞こえて いた カエルの 声も とだえ
いつの まにか あたりは ひっそりと しずまり かえって います
――キン キラ リ~ン
キラ キラ リ~ン
金銀の 砂粒を まいた ような 夜空 から 星が こぼれ ました
*
それは そのころ どの農家でも 見られた ふつうの 光景 でした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます