第46話 秋の月――乳児院
こうこうと あかるい 満月が 地上を 照らして います
つい 先ごろ まで この国は 戦争の 真っただ中にあり
無限の がまんを 強いられる 歳月を 送って いました
*
とある まちの とある 家の 門の まえに
なにか ちいさな ものが 置かれて います
月光の なかで かすかに 動いている 気配
とつぜん かぼそい 泣き声が あがりました
「ふぎゃあ ふぎゃあ ふんぎゃあ ふんぎゃあ」
泣き声は だんだんに 大きく なります(';')
汚れた うすい 布きれに 包まれた それは
この世に 生まれた ただひとつの あかしの
手足を けんめいに 動かして いるようです
澄んだ 月の あかりが やさしく やさしく
消え入りそうな いのちを 見守って います
*
仏壇に 向かい 祈りを ささげている 耳が かすかな 異変を とらえました
――あら? 猫 かしら……
声は ますます はげしく なるので 下駄を はいて 外へ 出て みました
――まあ あかちゃん!
わたしは もう 夢中で その子を 抱きあげて いました すると あんなに
ぐずって いた のが 泣きやみ にこっと 愛らしく 笑って くれたのです
*
そのころ わたしは 絶望の どん底に ありました
父と 3人の 兄たちを 戦争で 戦中 戦後の 栄養失調で 母も うしない
想いを よせて いた ひとも 学徒動員で 南の島へ 出征 したきりで……
せめて 犬や 猫が いてくれた ならば 🐕🐈
でも 戦中の 「犬の供出命令」で サブローが 連れて 行かれた つぎの 日
猫の ミケまで どこかへ すがたを 消して しまいました いまの わたしは
この だだっ広い 屋敷に たった ひとりぼっち なのです (ノД`)・゜・。
*
そんな わたしが 門の まえに 捨てられて いた その子を
神さまの 贈りものと 思ったこと わかって いただけますか
ええええ それは たいせつに 宝物の ように 育てましたよ
うわさが 広まった のでしょうか 親の いない子や いても
育てて もらえない子が 集まって くる ように なりました
わたしは ひとり のこらず 受け入れました せっかく 尊い
いのちを さずけられながら 食べものも 着るものも 雨露を
しのぐ 家も ない 子を どうして 見捨てて おけましょう
いつしか わが家は 「天使の家」 と 呼ばれる ようになり
近所の おくさんたちが 手伝って くれるように なりました
行政からも 認めて いただき 現在の 施設が できたのです
*
あれから 70年 あまり――
当初は 戦災孤児や 戦後の 行き場を なくした 子どもたち でしたが
現在は 親の 虐待や 育児放棄 外国から 来日した シングルマザーの
子どもなど 社会の 変化に 合わせた 顔ぶれに 変わって きています
でも 一片の 罪も ない 子どもらの すべてを 無条件で 受け入れる
当園の 基本的な スタンスに いっさい 変わりは ありません 👼🏡
*
今夜も はるかに とおい 秋の夜の ような 満月が 冴え 冴えと……
あのとき 孤独な わたしに 大きな 贈りものを くださった 神さまと
たくさんの よろこびと 希望と 活力を くれた 愛する 子どもたちに
こころからの ありがとうを 申し述べます (人''▽`)ありがとう☆
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