第33話 シャボン玉の母ちゃん――戦災孤児
シャボン玉 とんだ
屋根まで とんだ
屋根まで とんで
こわれて 消えた
*
ちさ子は おうちの まえの はらっぱで
石けん水を 麦わらで かきまわし ながら
よほど 近よらなければ 聞こえない ほど
小さな ちいさな 声で うたいはじめます
おうちと いっても ふつうの 家ではなく
がけの 斜面に ほられた 洞くつ です
ほらあなの ような おうちの まえで
のびた おかっぱに シラミを たからせ
やぶれた 夏服で しゃがんでいるのです
石けんと いっても 粗悪な まがいもの
ほとんど あわも たたない のですけど
いそがしそうな としえ おばちゃんが
「ほら これで あそんで いなさいね」
あのとき から かじかんだ ままの
ちさ子の 手に のせて くれたので
*
麦わらを 口に ちかづけ そっと ふいて みます
できかけた シャボン玉は パチンと こわれました
ちさ子は あきらめず もういちど ふいて みます
少し 大きい シャボン玉が できましたが パチン
*
シャボン玉 消えた
とばずに 消えた
うまれて すぐに
こわれて 消えた
*
ちさ子は また 麦わらを 口に もって いきます
花びらの ような くちびるに 血が にじんで……
なんどめかの とき ちさ子は 目を みはりました
みごとな シャボン玉が 七色に ひかって います
その 丸い ひかりの なかに 母ちゃんが います
空襲の とき はなれ ばなれに なって しまった
母ちゃんが やさしい 笑顔で 浮いて いるのです
としえ おばちゃんにも 見て もらいたく なって
口から 麦わらを はなすと シャボン玉は パチン
われて 母ちゃんの 笑顔も 消えて しまいました
*
風 風 吹くな
シャボン玉 とばそ
*
泣いている ちさ子に 風が やさしく 言いました
「さあ もう一度 ふいて ごらん なさい (*''ω''*)
そのうちに きっと いいことが あります からね」
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