第26話 星座めぐり――争いと和解




 いまから、およそ137億年ばかりむかし――

「無」だった世界に宇宙が誕生し、そこに太陽系(水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星・冥王星&小惑星・彗星)ほかの天体が生まれました。


 そして、いま、年齢100億年以上の長老から、生まれ立ての赤ちゃん星まで、無数の星ぼしが、夜の空で、それぞれの生命を精いっぱい明るく輝かせています。


 これから語るのは、その星ぼしにまつわるギリシャ神話をもとに、神がみの世界にも共通の争いと和解の鍵を読み解こうとする、きわめて無謀な(笑)試みです。

 

 

 ✬てんびん座

 

 争いごとも起こらず、神も人間たちも、地球で平和に暮らしていた黄金時代。

 弱肉強食を始めた人間たちを見限って、天上へかえる神が続出する銀の時代。

 自己主張ばかりしている人間たちが、とうとう殺し合いまで始めた銅の時代。

 神と人間との間に生まれた英雄にも去られ、再び殺し合いを始めた鉄の時代。

 

 人間たちの魂魄を天秤にかけて善悪を計っていた正義の女神・アストライアは、ついに下界に愛想を尽かして天上の神の国へかえり、星座になってしまいました。

 

 

 ✬みずがめ座

 

 争うばかりの人間に呆れた大神・ゼウスは、天災で世界を滅ぼそうとしました。


 大神の企てを知ったプロメテウス神は純真な心をもちつづける息子・デカリオンとその妻・ピュラを箱舟に乗せて救い出しましたが、生き残ったのは自分たちだけと知った夫婦はさびしくなり、法の女神・テミスに教えを乞い、人類再生の糸口を見つけました。人類第二の祖と崇められたデカリオンはやがて星座になりました。

 

 

 ✬オリオン座

 

 美しい狩人・オリオンはメロペ姫に恋をしました。

 でも、父・オイノピオンのはかりごとに阻まれて実りませんでした。


 つぎに、オリオンは月の女神・アルテミスに恋をしました。

 意にそぐわない求愛を持て余したアルテミスは、大地の女神・ガイアに相談し、オリオンは猛毒のサソリに殺されてしまいました。けれども、オリオンの美しさを惜しんだ大神・ゼウスはオリオンを空に上げ、星座として明々と輝かせたのです。

 

 

 ✬さそり座

 

 一方のサソリもまた、大地の女神・ガイアによって星座にまつられました。


 そんな過去のいきさつから、いまなおサソリを恐れる美しい狩人・オリオンは、東の空からサソリが昇り始めると、大急ぎで西の空へ身を隠してしまうのです。

 

 

 ✬おうし座

 

 山の頂から下界を見下ろしていた大神・ゼウスは、海岸で遊んでいた美しい娘・エウローペに一目惚れし、妻・ヘーラの目を逃れるため1頭の牡牛に変身します。


 雪のように白く、透きとおる角と、やさしい目をもつ牛の背にエウローペがまたがると、とつぜん疾走し始め、クレタ島に着いたゼウスは恋の想いを遂げました。

 

 

 ✬かに座

 

 移り気で、あちこちの女性に心を惹かれてばかりいる大神・ゼウスの妻・へーラは、邪恋の結果として誕生した夫の子・ヘラクレスをこころよく思っていなかったので、エウリュステウス王のもとで12年間を仕えるように策略を練りました。


 エウリュステウス王はヘラクレスに、9本の首をもつ化け蛇・ヒドラを退治するように命じました。ヘラクレスを亡き者にする絶好のチャンスと思ったヘーラは、1匹の巨大な蟹をつかわせました。しかし、蟹はあえなく踏みつぶされてしまい、ヘラクレスの甥の機転により、化け蛇・ヒドラも倒されてしまいました。


 蟹と蛇を憐れんだヘーラは2匹を空に上げ、かに座&うみへび座にしました。

 

 

 ✬カシオペア座

 

 娘のアンドロメダと、母親である自身の美貌を自慢したため、娘を海獣の生贄に捧げなければならなくなったカシオペアは、「高言の罪」により、いまなお椅子に縛りつけられたまま、1日1回、北の空をまわりながら、逆さまにされるのです。

 

 

 ✬うお座

 

 神がみがナイル川のほとりで宴会を開いていると、恐ろしい力をもつ怪物・チュフォンがあらわれました。愛と美の女神・アフロディテとその息子・エロスは川へ飛びこんで魚に変身し、互いを紐で結びました。この母子が魚座になったのです。

 

 

 ✬いるか座

 

 女神・アンフィトリテに心を奪われた海神・ポセイドンは強引に妻にしてしまいましたが、逃げ出したアンフィトリテは海神・オケアノスに匿ってもらいました。


 行方不明の妻の居場所を探し出してくれた1頭のイルカのおかげで、ポセイドンはアンフィトリテと和解できました。イルカは空に昇り、いるか座になりました。

 

 

 ✬おおいぬ座

 

 ケパロスと妻・プロクリスはとても仲のいい夫婦でした。

 でも、ケパロスに横恋慕した曙の女神・エオスが強引に奪ってしまったのです。


 いつまで経っても妻を忘れられないケパロスを見て、エオスはプロクリスのもとにもどすことにしたのですが、そのとき、ケパロスの耳に邪悪を吹きこみました。


 そそのかされたケパロスは、別の男に変装して妻を誘惑しました。

 心を寄せかけた男の正体を知って家を飛び出したプロクリスは、やがてクレタ島へたどり着いて、ミノス王の愛人になりました。


 ミノス王は愛人・プロクリスに、狙った獲物を必ず捕らえる猟犬・ライラプスと槍とを贈りましたが、ミノス王の妻の嫉妬を恐れたプロクリスは、夫・ケパロスのもとにもどり、夫に猟犬と槍をわたしました。


 狐退治に出かけたケパロスが槍を投げようとしたとき、猟犬と狐が傷つくことを恐れた大神・ゼウスは、猟犬・ライラプスを天に上げて、おおいぬ座にしました。

 

 

 ✬こいぬ座

 

 地味ゆたかな国イカリアを治めるイカリオス王は、信仰する酒神・バッカスから1本の葡萄の木を賜り、美味しい酒のつくり方も教わりました。イカリオス王は

その美酒を領民にもふるまいましたが、のまま大量に飲んでひどく酔っぱらった領民は、毒を飲まされたと思いこみ、王を殺して葡萄の木の下に埋めました。


 イカリオス王の娘・エーリゴネーは愛犬・メーラを連れ、酒袋を持って出かけたまま帰らない父親を探しに出かけました。1本の葡萄の木のそばを通りかかると、愛犬・メーラがとつぜん騒ぎ出し、慕わしそうに木に身体をすり寄せました。


 父の死を知ったエーリゴネーは自ら死を選びました。愛犬・メーラは愛する父と娘の亡骸から離れずにいましたが、やがて天に昇って、こいぬ座になりました。

 

 

 ✬ふたご座

 

 スパルタ国の勇士・カストルとポルックスは、とても仲のいい兄弟でした。

 ただし、カストルは人間の子で、ポルックスは不死身の神の子どもでした。


 あるとき、カストルは叔父の娘を強引に妻にしたことから従兄弟と争いになり、従兄弟の放った矢に当たって死んでしまいました。悲嘆に暮れる弟・ポルックスを憐れんだ大神・ゼウスは、ポルックスを神にしようと説得しましたが、ポルックスは「兄・カストルと一緒でなければいやだ」と言って聞き入れません。


 大神・ゼウスは仕方なく、死んだカストルにもポルックスの不死性を分け与え、兄と弟を1日おきに天上界と人間界で暮らさせることにしたのです。

 やがて、兄弟は天に昇って、ふたご座になりました。

 

 

 ✬はくちょう座

 

 太陽神・アポロンの息子・パエトンが、友人にその事実を信じさせる手がかりを求めて宮殿を訪ねたところ、アポロンは、おまえの父親である証拠に望みをひとつ適えてやろうと言います。


 パエトンは即座に「太陽を曳く馬車を運転したい」と言いましたが、太陽神・アポロンは渋りました。気性の荒い馬はアポロン以外を寄せつけなかったからです。


 どうしてもと望むパエトンに手綱をわたすと、案の定、馬は暴走し始め、馬車が近づいた街や森は、ことごとく太陽の熱でやかれてしまいました。大神・ゼウスは雷光を放ってパエトンを殺しました。亡骸は下界のエリダヌス川に落ちました。


 一部始終を見ていたパエトンの親友のキュグナスは、エリダヌス川でいつまでもパエトンの亡骸を探しつづけていたので、ふたりの友情を憐れんだ大神・ゼウスはふたりを空に昇らせ、白鳥のすがたに変えてやりました。

 

 

 ✬うしかい座

 

 大神・ゼウスの率いるオリュンポス神族との闘いにやぶれた巨人・アトラスは、永遠に天を担ぎ、支えつづける罰を与えられました。


 あるとき、勇者・ヘラクレスが12の功業のひとつ、金の林檎を取りに行く途中で通りかかったので、代わりに自分が行ってやると、天支えの代行を頼みました。そして、もどって来ると、ヘラクレスに天支えの罰を押しつけて立ち去ろうとしましたが、ヘラクレスのほうが一枚上手だったので、策謀は適いませんでした。


 のち、半神の英雄・ペルセウスが、だれでも石にしてしまう妖怪・メドゥーサを退治したとき、天支えの辛さに堪えきれなくなったアトラスは、メドゥーサの毒を浴びて石にしてもらいました。やがてアトラスは星になりましたが、哀れなことにいまでも天を支えつづけているのだとか……。

 

      *

 

 星座にまつわるエピソードのかずかず、いかがでしたか。神や星の世界にも争いごとは絶えませんが、そのつど愛と智恵で解決して来たようです。ならば、わたしたち地球星の住人は、一歩進んで紛争発生の事前回避を図ろうではありませんか。

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