第22話 タヌキの昔語り――郷土部隊
おいら きちろべえ っていうんだ
れっきとした 山田家の 住人だよ
といっても 部屋は 床下だけどね
このうちは 古くから つづく 農家でさ
そう たいした 土地持ち じゃないけど
かと いって とびきり 貧しくも ない
この 村では ごく ふつうの 農家だよ
ええっと 家族構成はね
じっちゃん ばっちゃん
とっちゃん かっちゃん
あんちゃん ねえちゃん
その 下に チビ ども
犬の ゴン 猫の ミケ🐕🐈
それから おれね おれ
タヌキの きちろべえさ😸🍶
あ まだ ほかにも いた
庭に いる ヤギや ブタ🐐🐖
ニワトリ それに ウサギ🐓🐇
ぜんぶ 足したら いくつに なる
そんな ことを おれに きくなよ
とらぬ タヌキの なんとやらって
あれれ? 使い方が ちがってる?
*
いや お察しの とおり そりゃあ にぎやかな ものさ
人間 だけでも すったもんだ いろいろある ところへ
わんわん にゃあにゃあ めーめー ぶーぶー そのうえ
こけこっこー だの みゅ(あ これ ウサギの声)だの
まあ なんだね そう 言っちゃあ なんだけど
うるさく ないのは ぽんぽこぽんと 腹づつみ
打つ ぐらいが 関の山の おれさま ぐらいさ
それも あんた こうして ひっそりと 床下で
ごく 控え目に 腹を さすって いるんだから
かわいいって もんじゃないかね ぽんぽんぽん
*
ところが そんな 山田家の 一見 平穏な 暮らしも
未来永劫に 保障されていた わけでは なかったこと
迂闊にも さすがの おれさまも 知らずに いたのさ
戦争が はじまって しばらく 経ったときの こと
夜 おそく 山田家の 門を たたく やつが いる
ねまきの かっつぁまが 急いで 出て みると 役場 からの つかいだった
若者が 目を 伏せて 言うには「おめでとう ございます 召集令状 です」
かっつぁまの 顔が 真っ白に なったのが 床下の おれさまにも わかった
*
郷土の 部隊に 入隊する とっつぁまは
近所の ひとたちに 万歳で おくられた
軍服を 着た とっつぁまは 別人だった
連隊の 門まで こっそり ついて 行ったのは
とっつぁまに かわいがって もらった からさ
おれさまが 床下に 棲めるのも とっつぁまの
おかげだし あったかい 人柄が 大好きでなあ
連隊の 門の なかに はいっていく まえ
ちらりと こちらを ふりかえって くれた
それが 今生の 別れに なっちまった……
*
それからの 山田家を おとずれた 運命を
おれさまは とても 平静に かたれないよ
いつしか みな ちりぢりに なっちまって
いま この 茅屋に のこって いる のは
文字どおり 古ダヌキの おれさま だけさ
どこかの 山おくの 朽ちかけた 百姓家で
さびしく ひとり 腹づつみを 打つ 音が
いまも 聞こえるとか 聞こえないとか……
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