第四編
ミミカがこの世のものではないものを目にしている理由。
彼女が自身で「死」を願うほどに恐ろしいものに襲われている理由。
それは私がミミカの名前を書いたからだ。
血のような真っ赤な紙に彼女の名前を書き、そして赤い箱の中に入れたのだ。
ミミカがマミの名前を書いた時、私は思った。
もしミミカが書いたこの赤い紙が見つかって、マミが教師の強い
もしも、マミと一緒に担任に相談に行ったのが私だったとバレたなら。
次のいじめのターゲットに私はなるかもしれない。
私はその時、自分の人生で初めて「人を傷つけたい」と思ったのだ。
ミミカのやり方でミミカを傷つけたい、と。
ミミカは電話の先で泣き叫び続けたあと、声にもならない悲鳴をあげて、そのまま静かになった。
しばらく待ってもミミカの声が聞こえてこないことを確認し、私は彼女との通話を切り、携帯電話を屋上から投げ捨てた。この携帯を使うことなんてもうないのだから。
呪いは確かに存在したのだ。
マミやミミカの身に起きたことがそれを雄弁に物語っている。
そして私が何かに手を引かれるようにこの屋上に立っているという事実そのものが、私にとって揺るぎのない証拠だった。
思えば、全く意味のないことをしてしまった。
呪いは確かに存在したのだから、放っておけばミミカは自ら身を滅ぼしたというのに。
私が命を懸けて彼女を呪う意味なんて全くなかったのに。
もしも、呪いの存在を少しでも信じていれば。
あるいはそもそもミミカの卑劣なやり口に、正々堂々と立ち向かっていたのなら。
誰も命を落とさない選択肢は、すぐそこにあったのではないか。
しかし、私には今となってはどうでもいいことだった。
ただ、身を乗り出したい、そのことしか私の頭にはなかった。
私が柵から身を乗り出した時、暖かい風が髪を撫でてくれた。
その風はとても優しくて、そして心地の良い香りがした。
自分の身をすべて任せることが出来る、そんな心穏やかな匂いだった。
短編小説「選択」 こがまな。 @manakoga
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