第三編

「お願い助けて!目の前にずっといるの……マミがいるの……教室から落ちたときのマミがずっと私のことを呼んでいるの!」

 携帯電話の向こう側から聞こえてくるミミカの声は、教室でのマミの様子と瓜二つだった。


 ミミカには、この世の者でなくなったマミのことが見えるようだった。

 私はミミカに「今見えるのは現実のものじゃない、罪悪感が生んだ幻よ」と何度も呼びかけた。

 しかし、ミミカの悲鳴はどんどんと大きくなり、私の言葉はほとんどが彼女の声にかき消されていまった。

「私が全て悪かったの。お願い、殺すなら早く殺して……。もうこれ以上、血を見せないで、私に見せないで……! こんな怖ろしい思いはしたくないの……」


 ミミカが電話の向こうで「誰か」に対してわめき散らす。

 おそらく私が認識することができないであろう「誰か」に対して。

「どうして早く殺さないの?どうしてこんな苦しめるの?」


 なぜミミカが怖ろしいものを見続けているのか。

 その理由はミミカが思っているよりも遥かに簡単だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る