「ショート」一粒の幸せ。

たのし

一粒の幸せ

僕の住む街には、少し変わった女の子がいる。


2日に一回アメを一粒いろんなところに置いていくのだ。


その子は年齢10歳くらいの僕と同じくらい、家は小麦加工問屋に勤めるお父さんと2人暮らしで貧しい様子。


いつも布をあてがったズボンにサイズが大きいポロシャツ。ツバが破れた帽子を被っている。


その子はお父さんが勤める問屋のご主人宅の食後の皿洗いの仕事を1日3回行って少ない金子を貰っている。


それで、アメを買い家の軒先に広場のベンチ下。木の木陰などいろんな所にアメを置いていく。


いつしか、噂は広まりその子は変な子扱いされ噂が飛び交っていた。


頭のおかしい子。

汚い子。

意味がわからない。

馬鹿な子。


いつしか、町中ではその子は避けられるようになり、その子の置いたアメを蹴るものなど現れた。


蹴る様子を遠くから見ていたその子は蹴った大人がいなくなると、そそくさとやって来て、細い棒を地面に突き刺し、グリグリと穴を掘るとホッとした表情を浮かべニコニコとポシェットからアメを取り出しそこに置いて去って行った。



狭い街柄その子をよく見るのだが、2日に1回雨だろうが、風が強い日だろうが、寒い日だろうが、町のあちこちにアメを一粒置いて回っていた。


ある日の暑い日公園のベンチでアイスを食べ体の暑さを取り除いていた時、後ろから人の気配を感じ振り返ると、その子が座り込んで地面に棒を突き立てグリグリしていた。


流石の僕も話しかけずにはいられなくなり


「いつも、何をしているの?」


っと聞いた。


女の子は立ち上がりポシェットからアメを一粒出して包み紙を破きながら


「アメをあげているのよ。」


っと、ニコニコしながら答えた。


「アメを。誰に。」


っと僕はキョロキョロしながら聞くと、彼女はまた座り込み


「この子達によ。」


っとアメを一粒地面に置いた。


僕は目を凝らしてみると小さなアリの巣からアリ達が出てきてアメに群がり始めていた。


「今日もご苦労様。また来るわね。」


彼女はそう言って僕に見向きもせずに歩き出した。


「待ってよ。」


その子は立ち止まり僕の方へ振り返ると


「どうしたの。」っと答えた。


「アリに毎回アメをあげているの。」


っと聞くと、ニコニコしながら「そうよ。」っと答えた。


「君アリにアメを与えるために働いているの。」っと聞くと、「そうだけど。」っと彼女は答えた。


「ちょっとまって。働いていたらアメじゃなくて、君の好きなもの買えるじゃないか。美味しい食べ物に綺麗な花とか洋服だって仕立てられるよ。なのに何で。」


っと僕が聞くと、


「働いて頂いたお金で私が自分の欲しいものを買ったら私1人しか幸せに出来ないけど、アリにアメをあげたら沢山のアリが幸せになるじゃない。それに死んだお母さんがいろんなものに沢山の優しさを配りなさい。そしたら、あなたも幸せになれるわって言ってたらからそうしているの。さすが私のお母さんだわ。だって私今、幸せですもの。」


彼女はそう言うと僕にペコリとお辞儀をして歩いて行った。


僕の手からは溶けたアイスがドロドロと溶け始めている。滴るアイスの汁が地面に垂れアリの行列の進路に落ちた。アリ達はそれを触角で確認すると口に砂ごと加えて重そうに巣に持ち帰っていた。


1匹、また1匹と重そうにアリの巣に持ち帰っていた。


あくる日僕はお母さんから貰ったお小遣いでお菓子を選んでいる。


ビスケットを取り売り場に持って行く、レジのおばちゃんがお会計をしようとした時、


「やっぱりこれじゃなくて」


っとビスケットを棚に戻しアメを5個持ってレジに向かった。



このアメで何匹のアリが幸せになれるかな。


僕は小銭をおばちゃんに渡すと、日差しが強い外に走り出た。



おしまい



-tano-

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