第11話   お相手は誰ですか?

「つっかれたー」

 あたりも暗くなり、少しだけ急いで帰っている途中で、健は上半身の力を全部抜いてだらっと垂らしていた。

そんなにだらけて転ばないかと心配になるけど、実際のところ僕も同じようにしたいほど体が痛かった。


 先生を問いただした後、人が良すぎる有馬さんが「仕事はしていこうかな」と言ったので、帰りたいところではあったけどみんなで手分けして作業に取り掛かった。

最初に取り掛かったときはまだ、最近の資料なのである程度まとまっていてこれならすぐに終わると思ったのに、古くなっていくごとに資料がないやらで結局こんなに遅くなってしまった。


「遅くなったけど、今日で終わってよかったね」

「ほんとにそれな。明日もしようとか言われてたら逃げ出そうかと思ったぜ」

「うん??....その場合、健は手伝う必要ないでしょ?」


 そう言われた健は少しだけこっちに目を向けた後、深いため息をついた。

そんなため息ついてたらどんどん老けて早死にするだろうに健も大変なんだね。

僕が哀れむように健を見たからか、健は「やれやれ」とでも言いたげな様子で両手を上に向け、首を横に振っていた。


「なぁ、ケイ。俺はケイのこと他のやつとはどこかずれたやつだとは思ってるけど、いい友達だと思ってるんだ」

「ありがとう?....であってるよね?」

「だから、いつでも手伝うっと決めたんだ。これからもなんかあったら俺に言えよ!!」


 健は恥ずかしいのか顔を逸らしたけど、代わりに電灯の明かりで耳が真っ赤になっているのが見えた。

恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。まぁでも、そう言ってくれるのが健の良さなんだけど。


「そ、そういえばケイは見たか?あの不思議な光景」


 不思議な光景??

健は恥ずかしいのを隠すためか唐突に話題を変えてきた。

なんとも抽象的な表現だな。でもまぁ、見たか?って今聞いてるから多分今日のことだよね。

うーむ。今日一日を振り返ってみたけど、これといって不思議なものを見た覚えはない。


「いやー、見てないと思うけど」

「まじかー、もったいねぇ。あんな光景、もう一生見れないかもしれないのに」

 なんとも不思議なもので、答えを伸ばされるとさっきまであんまり興味が無かったのに健が何を見たのか気になってきた。

健のやつ、いつの間にこんなうまい話し方を身につけたんだ?

僕が話に食いついたのを見計らってか健はニヤッと笑い、周りに聞こえないように声を小さくして続けた。


「実はさ、可愛い女子ランキングで上位に入ったあの有馬さんが、今日の放課後男子を追いかけてたんだよ」

「ふーん、それは大変だったね」

「えっ!?」

「....えっ?」

「ケ、ケイ。お前本当に男なのか?」

「ねぇ健。今自分がすごい失礼なこと言ってるって事実を自覚した方がいいと僕は思うよ」


 鳩が豆鉄砲を食らった顔はこんなですよって子供に説明しやすい顔で健は固まっていた。

ほんとに失礼な発言だよ。自分が驚くことが他人も驚いてくれると思ってるなんて。

僕が失望していると、やっとのことで健は自分を取り戻した。


「ケイ。有馬さんと言えば中学で告白された回数一位で、断った回数も一位の人なんだぞ」

「分かった。分かったから。ちょっと離れて」


 僕としては健がその情報をどこから持ってきたのかの方が気になってきたよ。

健はまだ説明したりない様子だったけど、これ以上聞いても話が終わらないから今回の出来事について聞くことにした。


「それで、その追いかけられてた男子は誰だったの?」

「いやーそれがさ。俺も誰だろうと思って目を凝らしたんだけど、結構離れてたもんだから全然見えなくて」

「あー、なるほど。それで僕に聞いたってことか」

「そういうこと。あの羨ましい男子を見つけてやりたいね」


 ぐぬぬっと羨ましがっている健ではあるけど、健も女子からは相当人気があったように思えるんだけど…。

そんな僕の考えを見抜いてか健は一言、「俺も可愛い女の子に追いかけられたい」とだけ言った。


「まぁ、プライベートな話には首を突っ込まない方が身のためだよ」

「そうなんだけどさ。やっぱ気になるんだよなー」

「ところでさ、よく追いかけられてるのが男子だと分かったね。結構距離あったんでしょ」

「へっ?....ばかいうなよ、ケイ。さすがに男子と女子を間違えることは無いだろ」

「そうかなー?だって放課後の学校だよ。残ってるのは部活動の生徒とか僕達みたいな生徒だけだと思うんだけど…」

「あー、そういうことか。いや、それは違うんだよ。男子生徒が着てたのは、部活動の格好じゃなくて制服だったんだ」



「よし!それじゃあ、聞き込みだな、ケイ」

「ねえ、健。今回は僕、全然役に立たないと思うから帰っていいかな」

「探し物でケイに勝てる奴なんてこの学校にいないだろ。....絶対に見つけてやる」

「はぁー、帰りたい」

 まさか、藍染さんの件から数日でまたこんなことになるなんて…。

昨日の有馬さんが追いかけていた男子生徒をどうにかして見つけたいという健により無理やり駆り出されていた。


「なぁケイ。いつもみたいにパッと頼むよ」

 手を合わせてお願いされても無理なもんは無理なんだよね。

白が探せるのは僕がある程度の情報を知っている物だけで、今回みたいに『有馬さんに追いかけられていた男子』では失敗する。

ただ、どこまで白が探せるのかを僕も詳しく知っているわけではないから試してみないことには分からないんだけど…。


 だから今回、健に呼びだされた時点でこうなるんじゃないかって思って先に白に聞いてみたんだけど、悩んだ後に首を横に振って見つからなかったみたいだった。

見つけられなかったのが残念だったのか、白はしゅんとして落ち込んでしまったので頭を撫でて元気づけておいた。


「こういうのはあんまり詮索しない方が良いから今回は止めってことでいいでしょ?」

「まぁ、そうだよな。本当はケイがお世話になってる有馬さんの恋を応援してあげたかったんだけど」

「....健は僕のなんなのさ?」

「保護者」

「あきれた....即答するんだね」


 珍しく健が人のプライベートなことを詮索しようとしてたから何かあるとは思ってたけど、まさか恋のキューピットになろうとしているとは。

笑いだすのをどうにか我慢して自分たちの教室に戻ろうとしていると後ろから聞きなじみのある声に呼び止められた。


「内田君。ちょっといいかな?」

「有馬さんどうしたの?まさか、また学級委員長の仕事?」

「うんうん、そうじゃなくてね。あの、えっと........ここじゃ話しにくいから屋上に行かない?」


 有馬さんの言葉を聞いて健がニヤッとして横腹を小突いてきたけど、この誘いにはデジャブを感じる。

屋上に着くと、有馬さんは緊張した様子で僕のことを見た。

相手に重要なことを頼むときにはやっぱり緊張するものなんだろうね。

僕はただ自分の予想が外れてほしいと心の底から願うばかりだった。


「私と一緒に犯人を捜してくれませんか?」


....へ?

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探し物を頼まれたので、今日も幽霊少女に聞いてみる。 ミイ @miku4429

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