終章  僕らの夏休み解放作戦

 夏休みの教室に男子一人と女子二人、彼らは罪人だ。

 自らが犯した、テストで三教科赤点という罪によってここに収容されている。

 罪には罰。学校は優しいのでもれなく罪人には罰を用意してくれる、補修という名の罰を。今日はその二日目、まだ朝のホームルームが始まる前のひとときの安らぎの時間、男子はゲームをやることに集中しており、女子二人は楽しそうにおしゃべりしている。

「でねっ、またあそこの店員がさ『コチラアタタメマスカー?』って、あたし卵しか買ってないんだよ、温めるわけねーだろ! って思いながら笑顔で結構ですって言ってやったわ」

 光凛は相変わらず机に腰掛け、トレードマークのポニーテールを揺らしながらハキハキと話している。

「あはは、それはひどいね、生卵チンしたらゆで卵になっちゃうもんね」

 愛も相変わらず子猫のように笑いながら話す。

「いやならないから! 爆発しちゃうから!」

「え! そうなんだ」

「もう、相変わらずめぐは面白いんだから」

「そう? 面白いならよかった、私もひーちゃんと話していると面白いし楽しいよ」

「そう? よかった」

 二人で顔を合わせて笑い合う。

 いつもこうやって話して笑ってきたけど、今は昨日よりもいっそう楽しく感じる。

 ガラガラッ

「おっはよーす!」

「明、おはよー」

「炎堂くんおはよ」

 勢いよくドアを開け、相変わらず元気のいい明が教室に入ってくる。

 教室に入った明の目にいつもと様子が違う清司が入ってきた。

「お、清司がゲームやってるなんて珍しいな、何やってんだ?」

「ラブラブ萌え萌えプリンセス! お姫様との恋は燃え上がるほど危険がいっぱい!? ていうゲームだよ」

 めがねを直しながらはっきりとした口調で清司はこたえた。

「お、おう、ギャルゲーか」

「うん、やりたいことをやることにしたよ、昨日親とちゃんと話し合って自分の気持ちを伝えたんだ、そしたら親も理解してくれたよ、おかげで今は気分がすっきりしてるよ。」

「そうか、おまえなんだかたくましくなったなぁ」

「おかげさまでね」

 今まで見たことないような凜々しい表情を見せる清司、その表情に少し困惑しながらも嬉しく思う明。

 そのとき不意に光凛が明に話しかけてきた。

「そうだ明、映画のことなんだけど」

「え、あ、おう」

 どこか恥ずかしそうに話しかけた光凛に、どこか恥ずかしそうに言葉を返す明。

「なによ、まさか忘れたわけじゃないでしょうね」

「いや、ちゃんと覚えてるよ」

 頭をかきながら、目線をそらしながらゆっくりと明は答えた。

「じゃあなによその気のない返事は、もしかしてあたしと行くのいや?」

 光凛の表情が次第に不安色に変わっていく。

 あわてて明はフォローする。

「いやそんなことはぜんぜんないんだけどよ、ほら、そのなんつーか……」

「炎堂lくん、ひーちゃんと二人で行くのがはずかしいんでしょ」

 歯切れの悪い明の言葉に、小悪魔のような笑みを浮かべた愛のツッコミが入る。

「べ、べべべ別に恥ずかしくなんてないやい! ただ、その、なんていうか、ちょっと恥ずかしかっただけで」

 そんな明にあきれた様子で光凛が

言葉を出す。

「はぁ、今更恥ずかしがることなんてないでしょうに、ほんとにバカなんだから、めぐもそう思うでしょ?」

「うーん、私は炎堂くんのそういうとこ素敵だと思うよ」

 褒められると明はチョロい。

「君は天使だ」

 天使にすがろうとする明を制止するように光凛がツッコむ。

「こら、調子に乗るな、めぐに近づくな」

「はい、すいません」

「よろしい」

 満悦な光凛の笑顔を見た愛が何かに気づく。

「なんかひーちゃんと炎堂くん仲良くなったね、何かあったの?」

「何というか、昨日光凛がな」

「べ、別に何もないわよ! 明、変なこと言わないの」

「はい、すいません」

 二人の様子を見た愛はまさに小悪魔的な笑顔を浮かべた天使。

「ふーん、まぁひーちゃんがそう言うならそうなんだろうね」

「そ、そうよ、おほほほ……」

 そんなやりとりを微笑ましく見ていた清司も笑顔のままその中にまざり出す。

「そういえば明、僕に対する損害賠償は何にするか決めたの? ラーメンでも奢ってくれるのかな?」

 その言葉を聞いた明は自信に満ちた怪しい笑みを浮かべた。

「ふふふ、たしかにラーメンってのも良いかもしれないが、もっと良い償いを考えてきたぜ、それは……」

「それは?」

 三人同時に聞き返した。

「新・夏休み解放作戦だ!」

「ええ! またやるの?」

 驚く光凛。

「懲りないねぇ」

 やれやれという感じの清司。

「炎堂くんはほんとたくましいね」

 優しい笑顔のままの愛。

「で、どうするお前ら、やるのかやらないのか?」

 挑戦的な笑顔を皆に向ける明。

 その、笑顔にまず清司が応えた。

「やるよ、面白そうだし、自分でやってみたいと思うからね」

 次に愛が両手を体の前でグッと構えるポーズで応える。

「私もやるよ、負けっぱなしはくやしいもんね」

「光凛はどうすんだ?」

 明と目が合った光凛は一瞬優しい笑顔を見せた後、すぐにしょうがないなという表情で。

「はいはい、やりますよ、あたしがいないと明ダメだもんね」

「悔しいがその通りだ、光凛がいてくれると頼もしいぜ」

 お互い目を合わせたまま笑い合う、それにつられるように清司も愛も笑い出す。

 皆がお互いのやる気を確かめ合ったあと、光凛が明に尋ねた。

「で、具体的にはどうするの? 今日もゴリヤマとお姉様……じゃなくてゆかり先生が監督してるわけだけど」

「ふっふっふ、今回は昨日と比べても史上最強で無敵なうえにまーヴェラスでパーフェクトな作戦だ! まぁ、耳を貸せって」

 明を中心に集まってひそひそこそこそと作戦会議を始める。

 夏休みはまだまだ始まったばかり、とはいえ補修なんかに貴重な時間を使っている暇はない、こんどこそは仲間と一緒に夏休みを取り返す、そのためにあーだこーだと作戦会議で騒ぎ出す。

 これもまた貴重な青春の一ページ。

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僕らの夏休み解放作戦 聖 天馬 @tenma00

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