2
ユヅリン。
それがこのキャラクターの名前だった。
一応言っておくが某アイドルグループのように『。』までが正式名称ではない。普通にユヅリンだ。
本名をアレンジしただけの安易なネーミングであるが、わりと気に入ってたりする。
分身と謳うだけに性別は女性だ。だがそのビジュアルは中の人であるあたしとはちょっと…いや著しくかけ離れていて、某その子さんもビックリの超美白フェイスと、その下に付いている身体はグラビアアイドルも真っ青の特盛ゴージャスボディである。
服のコーディネートも、今日は舞台女優が纏うようなクラシカルで豪奢なコスチュームを中心に組んだ。
そして顔の造形は現実味の薄い人工的な面立ちである。特に瞳の大きさが顕著で、暗いところでは猫のように光る。なんだそりゃって話だが、それもそのはず、このユヅリンはそもそも人間という設定ではない。
FPO3には『種族』という概念があり、その数は4種類にのぼる。
まず一つ目は「人間」。これは説明不要だろう。次に「魔族」。これはファンタジー物の定番であるエルフ族をモチーフにしているらしく、耳が大きいのが特徴だ。性質としては体力が低めで魔法力が高めに設定されている。3つ目は「鬼族」。これをこのゲームでは『きぞく』と読ませる。頭部に角があるのが特徴である。性質はパワーとスピードに優れるが、やや打たれ弱いといった傾向がある。そして最後の一つが「機人」。きじんと読ませる。いわゆるメカ人間だが、完全なロボットというわけではない。生身の部分と機械を組み合わせたサイボーグ的な存在といえばお分かり頂けるだろうか。
人間はバランスに優れ、どんな職業でもそつなくこなせるのが強みだ。魔族は魔力が高いので魔法使い系統の職業に向いている。鬼族も割とオールラウンダーであるが、打たれ強くはないので接近戦には注意が必要だ。そして機人は、体力・防御力に優れるので最前線で皆の楯となる戦士系の職業に適する。腕力も鬼族と並んで強いが、スピードと魔力はもうひとつといったところだ。
あたしのユズリンは、この機人という種族である。
前述のようにこのゲームには性別の設定があり、もちろん男性キャラも作れる。ただしキャラクターメイキングは男女別になっており、一つのキャラクターにつき一つの性別しか選べない。男体化・女体化は不可なのだ。種族についても同様で、一度決めた種族を後から変更することは出来ない。
このゲームにおいてユヅリンは機人女子ということになる。機人女子は通称としてプレイヤーから『ロボ子』『メカ娘』『機娘さん(きこさん)』などと呼ばれて親しまれている。
さらに既出の『職業』というものもあるのだが、詳細は今度にしよう。あまり余裕こいてると定時クエストに間に合わなくなってしまう。
戦闘ゲームにとっての職業とは、簡単に言えば戦い方のスタイルや役割みたいなものだ。とりあえず一つだけ説明すると、現在ユヅリンの職業は「戦士」に設定している。あらゆるゲームでお馴染みの打撃系筆頭職、体力と腕力にものいわせ巨大な剣を振り回し並み居るモンスター共をなぎ倒すってアレである。ゲームで職業といえばまずこれが出てくるというメジャーなやつだ。
FOP3でも例に漏れず戦士は職業選択欄の最上部に位置し、使用率も最も高い人気職だ。大剣でバッサバッサと敵を撫で斬りにする爽快感がうけてるのだろう。あたしも単純に使ってて気持ちいいから戦士を選ぶことが多い。
ファミレスのウェイトレスなんてやってるとイヤな客も結構いたりするから、そのストレス解消に戦士はピッタリなのだ。
それにしても、さっきからあたしは誰に向けて説明的思考を繰り返してるのだろう。いつのまにか小説の主人公にでもなったのだろうか(笑)。これじゃ急いだ意味が無い。
そうだ、きっとこれは全速力でチャリを飛ばしてきた疲れのせいに違いない。数分でもボーっとしたかったのだ。ともかくいい加減拠点に行かないと固定からハブられてしまう。
「やば! あと2分」
時刻はもうすぐ9時になろうとしている。あたしはダッシュでワープゲートに飛び込んで、仲間たちが待つ集合エリアへと移動した。
*
ユニオン(FOP3内のチーム的なもの)の拠点であるいつもの集合場所に近づいて行くと、ざっと十数人とおぼしき仲間達の姿が見えてきた。
【こーん!】
あたしはいつものように狐の鳴き声みたいな挨拶チャットをかます。
【こーん】【こんこん】【ゆづこーん】山びこのように仲間達から挨拶が帰ってくる。
別にこれは狐とは何の関係もなく、単なる「こんばんわ」の略である。
【も~! ユヅリン遅いっ。1分前だよ】
ユニオンメイトのサツキからさっそく叱られた。
【いや~、悪い悪い。仕事の上がり間際にちょっとトラブっちゃってw】
あたしはすかさず弁解(事実ではあるが)する。
【ちょうど残り1枠だったから焦らなくていいけど】
サツキから好ましい報告が来た。
【お、ラッキー】あたしは反射的に本音を漏らす。
【ラッキーじゃない! あんたもう来ないと思って、フレに応援頼もうとしてチャット打ってたとこなんだからねっ】
余計なひと言のせいで、サツキから更なる叱責を受けるハメになった。
【ごみ~ん。DMする時間すら惜しかったのよ。かなーりギリだったからさー】
これも事実である。信号待ちにガッツリ捕まったら9時に間に合わなかったかもしれない。
【次連絡しなかったらコロス!】
サツキがご丁寧にも、怒った顔のビジュアル付きでそうチャットを返してきた。
これは絵文字ということじゃなく、ゲーム内のキャラクターがアップになったビジュアルが文字とセットで現れるのだ。FOP3のチャットには実に多彩な機能があり、顔付きチャットもその一つだ。しかしサツキは怒った顔も可愛い。
戦闘前に一波乱あったが、どうにか定時クエストには参加できそうだ。よぉし、今夜も暴れるぞぉっ!
つづく
こじらせ女子のオンゲ♡LOVE ひかりんちょ @hikarincho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。こじらせ女子のオンゲ♡LOVEの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます