4

なんだ、今のは。

夢?それにしてはあまりにもはっきりと覚えている。

幻?だったら触れる事が出来ないはず。

しばらくそのままでいたけれど、いくら考えてもさっぱりわからないので、祖父母の家に戻る事にした。


それにしても、カッタとは今までに会った記憶がないはずなのに、あのおじいちゃんにはどことなく見覚えがあるような気がする。

前に来た時どこかですれ違った?それとも家に立ち寄った誰か?

いや、もっと別の場所で見たような……。


「……あ、あの人!」


唐突に閃いた。

早くこの事を確かめたくて、僕は暑さも忘れて走り出した。

すぐに流れ出した汗も気にせず、家へ着くなり勢いそのままに目的の場所へと向かう。


「はぁっ、はぁっ、やっぱり……」


視線の先には仏壇に並べて飾ってある写真。

その中にさっき見たおじいちゃんの写真もあった。

色褪せた白黒写真。小さい枠の中で、さっき見たのと同じ笑顔を浮かべたひいじいちゃんがいた。


「カッタはひいじいちゃんだったのかな……?」


きっとそうだという気はするものの、確かめる術はない。

むしろ余計に、自分が長い夢を見ていたんじゃないかという気分になってくる。


「そうだ、竹とんぼ」


あまり信じたくはないけれど、もしも今日までの事が全て幻だったなら。

あの日一緒に作った竹とんぼも存在しないはず。

泊まっている部屋に向かいすぐに荷物を確かめると、そこにはちゃんとあの竹とんぼがあった。

これがここにあるって事はやっぱりカッタは幻なんかじゃなくて、でもそれだとさっき見た現象に説明が付けられなくて、というかそもそもカッタはどこの誰なのかもわからないままだし……。


「勝太、今日はもう帰ってたのか」


ますます混乱する思考を遮ったのは父の声だった。僕の手元の竹とんぼを見て、懐かしげに目を細める。


「ん?竹とんぼか。懐かしいなぁ。どこから見付けてきたんだ?俺も昔よくじいちゃんに作ってもらったよ」

「え……」


父なら知っているかもしれない。

僕の知らないひいじいちゃんの事を。


「あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「なんだ?」

「ひいじいちゃんってどんな人だったの?」

「お前のひいじいちゃんっていうと、四郎じいちゃんか。そうだなぁ、手先が器用で何でも作っちゃう人だったな。何かが壊れても大抵は自分で直してしまうし、じいちゃんが作ってくれた竹とんぼは面白いくらいよく飛ぶんだ」

「他には?」

「明るくて前向きな人だった。勉強も好きだったらしくて、本当は進学したかったけど、まだ日常的に戦争があった時代の人だったから、諦めるしかなかったって話してくれた事があった。だから子どもたちには出来るだけ自由に進路を選ばせてあげたいってよく言ってたな」

「父さんも何か言われた事ある?」

「あるぞ。父さんが高校生の頃、行きたい大学があって、でも今の実力じゃ合格出来るかは五分五分だったもんで志望校を変えようとした時だ。『やる前から諦めるな!まだ時間があるんだからやるだけ頑張ってみろ!万が一ダメだった時は俺が何とかしてやる』って活を入れられたよ。今思ってみると、何とかするってどうするつもりだったんだろうな、ははっ」


初めて会った日、笹舟勝負をした時に言われた言葉が蘇り、父の語るひいじいちゃんの姿がカッタに重なる。

これが単なる偶然とは思えない。


「ねぇ、ひいじいちゃんってさ、カッタって呼ばれたりしてた……?」

「あぁ、よく知ってるな。誰かから聞いたのか?」


瞬間。鼓動が大きく跳ねた。

やっぱりあの少年は……。


「じいちゃんが勝負事が好きだったってのは前にも話したろうけど、何彼なにかにつけて勝負だ!って言い出す人でさ、あれはもう口癖だったんだろうな。それ以上に純粋に誰かと競うのが楽しかったんだろう。自分が勝った時には『勝った勝った!』って繰り返し喜ぶもんだから、いつの間にか周りから“カッタ”って呼ばれるようになったらしい」


そうなんだ。そうだったんだ。

だからまた会えるかどうかを聞いた時、みんなが忘れてなかったらなんて言ったんだ。

茄子の牛に乗って帰るって言ったのも、お盆だから帰ってきたって事だったんだ。


「……父さん、僕、ひいじいちゃんに会ったよ」


気付いたらそう言葉が零れていた。

父は最初驚いた顔をしたものの、少しして「……そうか」と優しく笑った。


「実はな、勝太の名前を付ける時、じいちゃんの事を思い出したんだ」

「え?」

「四郎じいちゃんと縁のある日だってのもあったんだろうが、生まれてきた勝太を見た途端、じいちゃんの笑った顔が浮かんで頭から離れなくてなぁ。それで名前に“勝”の字を付けたんだよ」

「そうなんだ」

「今年は勝太が受験の年だろ?ある種、人生で初めての大きな勝負とも言える。だから会いに来たのかもしれないな。いや、ただ単にひ孫と遊びたかっただけかな」


僕が覚えていたらまた会えるだろうか。

もしまた会えたら、もっといろいろ話してみたい事がある。そして今度は僕からボードゲームやテレビゲームに誘ってみよう。


中学最後の夏休みに出会った、七日間だけの不思議な友達。


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七日間の友達 柚城佳歩 @kahon

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