〜あっしは無力だ…〜

 帰りの車の中、あっしは2人に何で田中くんを守っているのか訊いてみた。舘川さんが胸元から警察手帳を取り出して、説明してくれた。

「気になって調べたところ、萩組の債権者リストに田中さんの名前があったんです。萩組は取り立ての為なら時間問わずやってきて、債務者を精神的に追い詰めたり、または殺したりするんです」

「そうなんだ……なんだか萩組ってヤバそうだね。そんなところに何で田中くんち、借金してんだろう?」

「実は田中さんの借金は田中さんの作ったものではありません。ハメられたようです。田中さんの会社の同僚に……」

「ハメられた?」

「はい。どうやらギャンブルにハマってお金がなくなり、萩組から借金をしたようです。更に連帯保証人として田中さんの名前を勝手に使ったとのこと。現在、当の本人は国内を逃亡しているみたいです」

 なんてひどい話だ。田中くん、そんな状況なのに学校では、そんな素ぶりなかった……。相談してくれていたら、もっと早く解決したかもしれないのに……。でも、それを言ったら、あっしの家がヤクザだってバレてしまう。

「……あっしは無力だ。田中くんが困っているのに何もできない……」

 落ち込んでいると、2人が励ましてくれた。

「そんな落ち込まないでください。その為に俺たちがいるんです。必ず救いますから」

「そうですよ。泥舟に乗ったつもりでいてください!!」

「お前、泥舟だと沈むぞ」

「舘川さん、しっかりして」

 彼は恥ずかしそうに頭をかいている。それにしても、さっきの女性……気になるな。田中くん杞憂だといいんだけど……。



※※

 


 病院帰り、俺はイライラしていた。なんなんだよ、百鬼くんってば。人のこと根掘り葉掘り聞いてきてさ。一体何なんだよ……。俺はやり場のないストレスを感じていた。

「どうしたの玲央くん。さっきの子と会ってから、イライラしてるみたい」

 やっぱり伝わっていたみたい。俺は「ごめんなさい」と謝った。

「あたくしは別にいいんだけど。なんだか、さっきの子誰かと似てる気がするの。名前は何て言うの?」

「百鬼獅恩くんです」

 名前を聞いた瞬間、彼女は怪しく笑っていた。

「ねえ、玲央くん。あたくしとちょっと寄り道しない?」

 そう言って家とは反対方向に歩き始めた。



※※



 あっしらは一旦、家に帰ってきた。マコトたちは親父に、さっきの出来事を報告していた。

「分かった。報告ありがとう。もうすぐ夕メシの時間だな。舘川くんも食っていくか?」

「いいんですか?やった」

「一樹のご飯美味しいからね」

「獅恩、食堂に連絡入れといてくれ」

「分かった〜」



※※



「ごちそうさまでした!!」

「舘川さんどうだった?」

 あっしが質問すると、とても満足そうな表情で答えた。

「めちゃくちゃ美味かったです。栄養バランスも考えられてるし。また食べに来たいです!!」

 たまたま通りかかった一樹が笑顔で「ありがとうございます。またいつでも食べにいらしてください」と言った。

「じゃあ戻ろうか」

「はい」

 あっしはやっぱり田中くんのことが気掛かりだった。だから、2人についていきたいと親父に相談すると、「ダメだ」とキッパリ言われてしまった。

「何でダメなんだよ?」

「お前が行ったら足手まといになるからだ」

「……分かったよ」

 あっしは親父と部屋に戻って、リビングでスマホを眺めていた。

(田中くんに電話してみようかな。出てくれるかは分からないけど……)

 田中くんに電話をかけてみたが、留守番電話に繋がってしまった。やっぱりまだ怒っているのかな。スマホを眺めていると、親父が入浴セットを持ってやって来た。

「風呂入りに行かないか?」

「うーん、今はいいや。先に入ってきなよ」

「じゃあ入りに行くとき教えてくれ」

「分かった」

 1人で行けばいいのに。親父本当にあっしのこと好きだな。もう一度、ダメ元で掛けてみようとした瞬間、着信が鳴った。画面を見るとマコトからだった。一体どうしたんだろう。

「もしもし、どうしたの?」

「獅恩様、玲央さんが……いないんです。家にもどこにも……」

 あっしはそれを聞いて驚いた。何で?田中くんは失踪なんてしないハズ……。あっしが困惑していると、マコトが続けて言った。

「それで行きそうな場所があれば知りたかったんです。今、敦が田中さんと捜索しています」

「ごめん……分からないや……」

「そうですか、分かりました。突然すみませんでした」

 そこで電話が切れた。あっしはスマホを耳に当てたまま固まった。田中くんが……いなくなった。あっしがほうけていると、親父が「どうした?」と訊ねた。いてもたってもいられず、家を出ようとしたとき、親父に止められた。

「待て獅恩!!こんな時間にどこへ行くんだ?」

「クラスメイトがいなくなったんだって!!心配だから行ってくる!!」

「待て待て、お前が行ったところで何も変わらねえだろ。2人に任せて家にいろ」

「そんなことは分かってる!!でも……放っておけないんだ!!」

 あっしが心からそう叫ぶと、親父は静かに言った。

「……ったく、頑固なところはアイツ譲りか。血は争えねえな……」

 親父はあっしの頭に手を置いた。

「今回の件ヤクザが絡んでいるかもしれない。危なくなったら、すぐに逃げろ。いいな?」

「うん。分かった。ありがとう親父!!」



続く。


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