〜完全に嫌われた…〜

 もうダメだと思っていたとき、俺の上に乗っていた男が何者かに吹き飛ばされていた。突然の出来事に俺は困惑した。一体何が起こったのだろうか……。そのとき俺は、堅いの良いイケメンに抱き起こされた。

「大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます」

 刑事さんらしき男性が警官たちに「連れて行ってください」と指示を出していた。男たちは警察に連れて行かれた。父さんは俺を抱きしめた。

「玲央!!無事で良かった」

 父さんの腕に触れた瞬間、全身の力が一気に抜けていくのを感じた。今まで張り詰めていた体が、温かい安心感に包まれていく。『怖かったよ……』その言葉が震える声と一緒に、自然に口からこぼれ落ちた。

「お取り込み中申し訳ございません。私たち警察の舘川と……」

「加藤マコトと申します」

「田中玲司と申します。こちらは息子の玲央です」

 俺は2人にお辞儀をした。殴られたせいで顔が痛い。父さんが冷やすものを持ってきて顔に当ててくれた。

「顔、めちゃくちゃ腫れてる。内出血もしてるな。明日学校終わったら病院行ってきな」

「うん……」

「田中さん、良かったら萩組を検挙するまで護衛しましょうか?」

「え?いいんですか?」

「はい。ここ最近頻繁に現れているみたいですし。それにお二人も寝不足のようですからね。少しでもお力になれればと思いまして」

 舘川刑事さん優しいな。

「それじゃあ明日から早速、刑事の手配をしておきます。それでは俺たちはこれで」

 お二人が家から出て行った。良かった……これで安心して眠れるんだ。その日は父さんと一緒の部屋で眠った。



※※



 教室で漫画を読んでいると、「おはよう」と田中くんに声をかけられた。顔を上げて挨拶を返そうとしたとき、あっしはひどく驚いた。

「ど、どうしたの?!その顔……パンパンに腫れてんじゃん」

「あはは……ちょっと階段で派手に転んじゃってさ。帰ったら病院行くんだ」

 その割には腕とかアザがないのがおかしい……。一体どういう転び方をしたんだろう。田中くんが席に着くと、クラスの子たちも彼を見てヒソヒソ話していた。絶対何かあるな。給食の時間に問いただすことにした。



※※



 給食の時間になり、ご飯を食べながら話を切り出した。

「ねえ、田中くん。やっぱりその怪我さ、転んだ割には不自然だと思うんだよね。本当は何があったのか話してくれないかな?」

 田中くんの箸が止まった。そして、あっしと目を逸らす。

「や、やだな。疑ってんの?本当に転んだんだって」

「それなら、何で俺の目を見て言わないんだ?」

 あっしが問い詰めると、田中くんが机を思い切り叩いた。

「……もういいでしょ?この話は」

 温厚な田中くんが怒ったから、クラスのみんなも驚いていた。ヤバい……怒らせちゃったかな。田中くんは机を戻して教室から出て行ってしまった。


 すっかり田中くんとの間に溝ができてしまった。



※※



 放課後、あっしは昼間のことを謝りたくて、田中くんのもとへ行った。

「田中くん!!さっきは……」

 田中くんは無視してさっさと帰ってしまった。そんな……話もさせてもらえないなんて。さすがにショックが大きかった。

「待って!!田中くん」

 正門を出たところで、ようやく追いついた。すると、ピンク色の髪の女性が田中くんに話しかけているのが見えた。あれは……誰?物陰に隠れて耳をすませて2人の会話を聞いた。

「田中玲央くんよね?あたくしは組対の咲良さくら。警察官よ。同僚に頼まれて護衛にきたの。よろしくね」

「そうなんですね。よろしくお願いいたします」

「顔の怪我痛そうだね……今から病院行くんでしょ?あたくしもついていっていいかしら?」

「はい、大丈夫です」

 2人で病院へと向かって行った。警察がついているなら安心だな。あっしが帰宅しようとしたら、「獅恩様」と呼ばれて周りを見渡すと、マコトが車で来ていた。

「マコト!!舘川さん、どうしたの?」

「仕事でこの辺りまで来ていたので。良かったら、このまま一緒に帰りませんか?」

「うん」

 すると、舘川さんがあっしをじっと見つめながら「獅恩さんって、学校では意外に地味ですね。オタクっぽいっていうか」って言ってきた。

 彼は口元に手を置いて笑いをこらえている。あっしは内心、ムッとした。

「敦、獅恩様に失礼だろ」

「すみません!!さあ乗ってください」

 舘川さんが後部座席の扉を開けてくれた。しかし、2人一緒にここにいたなんて珍しい。気になったので訊いてみた。

「この学校にヤクザに狙われている学生がいて、見回りを」

「へぇ。なんだか物騒だね。そういえば、今日クラスメイトがさ、顔パンパンに腫らしてきたんだよ。階段で転んだって言ってたけど、絶対ウソ。誰かに殴られたとしか思えないんだよね」

 2人はそれを聞いて驚いた表情をしていた。助手席にいた舘川さんが、あっしを見る。なんだ、一体どうしたんだろう。

「あの……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「田中玲央くん……」

 2人の話を聞いて今まで謎だった部分が繋がった気がする。田中くんがヤクザに狙われているなんて……一体どうして?

「俺たちが護衛しているのは彼です。まさか獅恩様のお友達だなんて驚きました」

「友達じゃないけどね……それよりさ、さっき田中くんと一緒にいた女性がいたんだけどさ。その人も警察なの?確か組対って言ってたけど……」

 2人はあっしの話を聞いて、ひどく驚いている。それから舘川さんはマコトに「今すぐ引き返した方がいいのでは?」と焦った様子で言っていた。

「え?何?」

「……実は組対には女性がいないんですよ。もしかしたら偽物かもしれません……」

「なんだって!?」

「獅恩様すみません。ちょっと寄り道します」

 舘川さんがパトランプを付けて、マコトが急いで車を走らせる。田中くん無事だといいんだけど……。どこの病院行ったんだろうか。舘川さんが調べてくれた病院は車で10分の◯△総合病院だった。病院の入口は一つだけなので、3人で中へ入って2人を探した。すると、待合室で座っている田中くんを見つけた。

「田中くん!!」

 呼びかけると驚いた表情で、あっしを見ている。

「何でここに……?」

 すると、隣にいた女性があっしを見ながら田中くんに訊ねた。

「なーに、この子。玲央くんの友達?」

 すると、田中くんは立ち上がって「ただのクラスメイトです」と言って、その場から離れようとしていた。

「待って!!今すぐその人から離れて。その人は……」

「うっさいなあ!!それを言うために、わざわざ来たのかよ。もう俺に構うな!!咲良さん行こう」

 ダメだ……完全に嫌われてしまった。もう田中くんに、あっしの声は届かない……。あっしが拳を握って立ち尽くしていると、2人に声をかけられた。

「獅恩様、あとは俺たちに任せてください。彼の家にあとで行ってきますので」

「うん……」



続く。

 









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