〜将来の不安と動き出した萩組〜
最近、家では萩組の話で持ちきりだった。あの戦闘部隊が警視庁の怖そうな人たちに鍛えられているってマコトが言ってたし……。あっしもいつか同じような訓練を受けるのかと思うと、気持ちが落ち着かない。夕飯の最中、そんなことを考えながら箸を動かしていたけど、どうにも手が止まる。それを見ていた親父が心配して訊ねてきた。
「どうした獅恩。食欲ないのか?」
あっしは心の中の不安を親父にぶつけた。
「……マコトから警視庁の訓練の話を聞いてさ、あっしも将来、あの訓練を受けるんだろうなって思って……」
言葉を絞り出すように答えると、親父は一瞬黙り込んだ。
「お前が本気で獅龍組の跡取りになるのなら、訓練を受けてほしいけどな。だけど、今はまだそんなこと考えなくていい。とりあえず20歳までには決めてくれたらいいから。それまで学校生活楽しみな」
親父がそう言ってくれて安心した。正直あっしは家を継ぐかどうかはまだ決めていない。やりたいことが見つかるかもしれないし。それに覚悟だってまだない……。それにこんな中途半端な気持ちで組長は務まらない。親父の言う通り今は学校生活を楽しもう。
「ほら、早く食わねえと学校遅れるぞ」
そう言われて時計を見ると、8時前だった。やばいやばい、これは小走りで行くしかねえな。
※※
予鈴の前に教室に着いた。田中くんに挨拶しようと思ったら、姿が見えない。今日はお休みかな……そう思っていたら予鈴と同時に入ってきた。しかも、制服も息も乱れている。
「おはよう田中くん。珍しいね」
「おはよう……。いやあ、寝坊しちゃってさ。ダッシュで来た。全力で走ったからめちゃくちゃ暑い〜」
そう言って上着を脱いだ。田中くんって普段きっちりしているのに珍しいな。
この日を境に田中くんは授業中もボーっとしたり、休み時間は寝ていることが多くなった。放課後は一緒に帰ってくれるけど、あっしの話は全部右から左に抜けていっているようだ。本当どうしたんだろう……。
「田中くん、あのさ……」
話を聞いてみようとした瞬間、ちょうど交差点に差し掛かってしまった。
「じゃあ俺はここで。また明日ね、百鬼くん!!」
「あ、ちょっと……」
走り去っていってしまった……。しかし、本当に気になるな。人の家庭状況に首を突っ込むのは良くないけど……友達でもないのに。いや、友達でも踏み込まれたくないことだってあるよな。
※※
「ただいま……」
荷物をリビングに投げて体をソファに預ける。最近本当眠れないから、帰ったら昼寝するようになった。父さんは仕事で帰りが遅くて、いつも俺が寝ているときに帰ってくる。1時間くらい寝てから買い物行こうかな。テーブルには夕飯代として千円札が置かれていた。お釣りは貯金して、欲しいものができたときに使うつもりだ。鬼丸の刀のDVDは絶対買うんだ。百鬼くんと一緒に見られたらサイコーだ。とりあえず今は寝よう。
1時間後、スマホのアラームで目が覚めた。さっきよりは頭もスッキリしたかな。私服に着替えてスーパーへ向かう。今日は何を作ろうかな。タイムセールしているらしく、覗いてみたら主婦の皆さまの勢いがすごい。仕方ない、こっちは諦めよう。店内を一周して何食べようか考えていた。決めた、今日は焼きそばにしよう。それからデザートにアイスを食べようかな。買い物を終えて帰宅し、すぐに夕飯の用意して早めに寝る準備をした。熟睡さえしちゃえば大丈夫だろう。しかし、夜中になった瞬間、外から聞こえる怒鳴り声でやっぱり目が覚めてしまった。窓から恐る恐る覗くと、ヤクザたちが騒いでいた。俺は一階に降りて玄関を覗きに行くと、父さんが奴らに頭を下げていた。
「すみません、近所迷惑になってしまうので夜中に来るのは勘弁してくれませんか?」
「うるせえな!!だったら金を早く返せよ!!いつまで待たせんだ」
「すみません……なにせ大金なものですぐには用意できません……」
「はあ?!なめとんかお前!!」
男は父さんに掴みかかった。
「父さん!!」
俺は気付いたら男を突き飛ばしていた。父さんは俺がきたことに驚いていた。
「玲央!?危ないから中にいなさい!!」
すると、男たちは俺を見ながら言った。
「ほお?俺たちに楯突こうというのか面白い!!」
次の瞬間、男に胸ぐらを掴まれて投げ飛ばされた。
「玲央!!」
「ガキのくせに生意気だな!!見せしめに俺たちに逆らうとどうなるか教えてやるよ」
男は俺の体にまたがり、顔を何度も殴ってきた。父さんは男に泣きながら懇願した。
「お願いします……息子に手を上げないでください!!」
「よく見ておけ!!俺たちに逆らったらこうなるんだ!!」
そのとき、男が懐から銃を取り出して俺の頭に突きつけた。
「ちょうどいいや。こいつにも生命保険かかってんだろ?なら、こいつを殺したら少しでも返済のアテにはなるだろうよ」
「やめてください!!玲央まで失いたくない……」
ああ……俺死ぬんだ。そのとき、外から男たちの叫び声が聞こえてきた。
続く。
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