〜実を結んだ瞬間〜
日々の厳しい訓練で体が悲鳴を上げ始めていた。全身ひどい筋肉痛で夜も寝られなかったし、アザもたくさんできた。
一体いつまで続くんだろう……。
いつになったら俺は先輩たちのように、獅龍組と一緒に働けるんだろうか。それに厳しすぎる訓練についていくのがやっとで、体も心も限界を迎えていた。もう……辞めたい。あんなに苦労して入れた部署なのに……専属チームは忍耐力がない人は目指したらいけなかったんだ……。俺は自分の弱さに悔しくて涙が止まらなかった。
その日の帰り道、どこからか銃声が響いた。俺は辺りを見渡して発砲元を探した。すると、向こうの通りの家からヤクザの怒鳴り声も聞こえてきた。
「早く金出せよコラァ!!」
現場に辿り着くと、一人の男性がヤクザに絡まれているのを見た。銃を突きつけられ、震える彼の姿――放っておけるわけがなかった。
「おいお前!!その人から離れろ!!」
迷う暇はなかった。俺は全力で走り出し、ヤクザに向かってタックルした。全身筋肉痛で激しい動きがしんどかったが、カタギを守るためだと鞭を打った。男が倒れた拍子に銃を奪い、馬乗りになって、男の腕を掴み腕十字を決めた。体が悲鳴を上げても、反撃の隙を与えずに押さえ込んだ。全力で押さえ込んでいるときに、近隣の方が通報してくれたのか、応援が到着して男は逮捕された。駆けつけたのは俺の先輩たちだった。
「舘川お前、お手柄だぞ!!コイツは萩組の下っ端なんだ」
俺が息を整えていると、ふと背後から低くて静かな声が聞こえてきた。
「訓練の成果が出ているようだな」
一瞬、時が止まった。あの声……。振り返ると、そこには普段冷徹で、表情一つ変えないあの上司が立っていた。いつも厳しく、何をしても褒めてくれたことなんて一度もない人が、今、俺を褒めたんだ。信じられなかった。
「無駄な動きはまだまだ多いが、ヤクザ相手に一歩も引かず守り抜いたのは大したもんだ。これからも精進しろ」
彼はそう言うと、俺の肩をポンと軽く叩いた。今まで感じたことのない温かさが、その一瞬だけで伝わってきた。
「はい……!ありがとうございます!」
一瞬だったが、上司に認められたんだ。その瞬間、今まで積み重ねてきた努力が報われた気がした。体中の痛みや疲れが消えるような感覚だった。
※※
そして翌朝、俺は目覚めた時から決意を固めていた。上司に見てもらうためにも、そして俺自身が認められるためにも――。広いトラックに立つと、いつも以上に体は軽かった。
「よし、今日も全力で行くぞ」
ストレッチをしているときに、上司に呼び出された。
「舘川、ちょっと来い」
「はい!!」
向かった先は会議室だった。そこには、マコトさんがいた。
「敦、昨日はお手柄だったな」
「ありがとうございます」
マコトさんにも褒められて嬉しいけど、何で呼ばれたんだろう……。俺が不安に駆られていると、上司がタバコに火を付けた。
「あの……俺はどうして呼ばれたんですか?」
彼は煙を吐きながら言った。
「お前にはマコトのサポートに入ってもらうことになった」
「えっ?サポートですか?俺が?!」
それを聞いてとても驚いた。まさか俺が選ばれるなんて思わなかったから……。あまりにも嬉しくて涙が出そうになるのを堪えた。
「……それで仕事内容だが、お前が昨日捕まえた男は萩組の構成員だ。それは知っているか?」
「はい。先輩たちから聞きました」
彼は手元にある数枚の資料を机の上に広げた。
「これを見ろ。専属チームが今まで集めた奴らの情報が書かれている」
俺はその資料に目を通し、思わず息を呑んだ。そこには、萩組が強引な借金の取り立てを行っているという証拠と手口がずらりと並んでいた。
「表向きは大きな動きはないが、裏ではこうして強引なやり方で金を集めている。金を集めるためなら手段を選ばず、深夜に家を襲ったり、家族を人質に取るなんて日常茶飯事だ。最近じゃ、弱いカタギを狙い撃ちにして、返済能力がなくなったところで追い詰めて殺している。まるで、獲物が力尽きるのを待つハイエナのようにな」
続けてマコトさんが言った。
「かなり悪質だから◯△町の警察に協力してもらって、パトロールをしてもらっている。ヤツらは警察が来ると逃げるらしいからな。だから、カタギを安心させる為にも、早いとこ事務所を潰さなきゃならない」
萩組がそんなひどいやり方でカタギを追い詰めているなんて……。俺の中に怒りが湧き上がった。守るべきカタギたちが、そんな連中の犠牲になっているなんて許せない。彼の黒いサングラスが差し込んできた光にキラリと光る。
「良い目をしとるやないの。それなら大丈夫そうやな。なあ兄貴」
「これは、あくまでもお試しだ。当然ヘマしたら任務から降ろす。やるからには結果を残せ!!努力しない奴はチームにはいらねえからな」
それから、マコトさんが俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「敦、これはお前にとって試練でもあるんだ。カタギを守るために行動する。それができれば、専属チームの一員として一歩踏み出すことができる。チャンスをものにしろ」
俺は一瞬息を詰まらせたが、次の瞬間には心の中で覚悟を決めていた。俺には守るべきものがある。カタギたちの安全を脅かす萩組を、この手で止めてやる。
「はい、任せてください!」
彼は俺の決意を確認するように、じっと見つめた後、タバコを灰皿に押し付けた。
「任務は危険を伴うことがある。命を捨てる覚悟はあるか?」
その問いに、俺は迷うことなく答えた。
「もちろんです。カタギと獅龍組を守るためなら、どんなことでもやり抜きます!」
彼らは無言で頷き、部屋から立ち去った。
「これからよろしくな。一緒に頑張ろうぜ」
「はい!!こちらこそご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
こうして俺の獅龍組専属チームとしての活動が本格的に始まった。
続く。
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