〜田中くんのピンチ〜

ー◯△町ー



 俺たちが現場に戻ると、家主だろうか。「玲央ー」と叫びながら周辺を歩いている田中さんを見つけた。

「どうしたんだろう」

 敦は彼に声を掛けた。

「一体何があったんですか?」

 すると彼は慌てた様子で俺たちに言った。

「じ、実は帰宅したら息子が家にいないんです!!家出とかするような子じゃないので、誰かに連れ去られたかもしれなくて……」

「分かりました。俺たちと一緒に捜しましょう!!その前に一本電話かけてもいいですか?」

 獅恩様に聞いてみるか。まだ22時だし、きっとまだ起きているはず。

「敦、獅恩様に電話をかける」

「かしこまりました」

 獅恩様どうか出てくれ……。すると、スリーコール内に繋がった。

『もしもし、マコト?どうしたの?』

「ちょっと玲央さんのことで伺いたいことがありまして……」

『どうかしたの?』

「それが……いないんです。家にもどこにも……」

『えっ!?』

「それで行きそうな場所があれば知りたかったんです」

『ごめん……分からないや……』

「そうですか、分かりました。突然すみませんでした」

 電話を切って敦に「獅恩様も知らないらしい」と伝えた。すると、田中さんの顔が真っ青になった。

「……そんな……玲央まで失ったら俺は……美希に顔向けできない」

 田中さんがその場で崩れ落ちてしまった。そのとき、背後から何者かが近づいてくる気配を感じた。俺たちが田中さんの前に出る。すると、額に萩の刺青が入った男と部下らしき男の姿が。コイツ見たことあるぞ……。

「マコトさん……コイツ井上穂高ほだかです。コイツは平気で人殺しもするような男ですよ」

「ああ……」

 奴は俺の頬の刺青を見てニヤリと笑った。

「さすが獅龍組。俺のことは知っているというワケか」

「何しに来た!?」

「金の回収とお前ら獅龍組を潰す為に」

「そんなことさせねえぞ!!お前らは俺たちが潰す!!」

「やれるもんならやってみな!!」



※※



 一方、俺は豪邸のような場所に連れてこられていた。門の前には鋭い目つきをした男たちが、睨みをきかせている。彼女が正面をきっていると、男たちは道を開けて彼女に会釈をした。咲良さんって偉い人なんだなと思いながら中へ入る。廊下を歩いていると、血塗れの日本刀が飾られているのが見えた。なんだか生々しいなあ……。

 長い廊下を歩くと、やがて大きな扉の前で立ち止まる。

「さあ玲央くん入って」

 傍らにいた男たちが扉を開けると、奥には広々とした部屋が広がっていた。低いテーブルを囲んで、数人の男たちが座っており、その真ん中に和服の男性が座っている。みんな、俺を怖い顔で睨んでいる。俺は全身に寒気が走った。それになんだか、この部屋……血の香りがする。俺はちょっと気分が悪くなった。

「玲央くん、顔色悪いけど大丈夫?」

「はい……ちなみにここは本当に警察なんですか?」

 それを聞いた男たちが高笑いをしている。俺はもうワケが分からなかった。

「なんだ小僧。ここがどこだか知らずについてきたのか?」

「はい……」

「ごめんねーー、玲央くん。騙すつもりじゃなかったんだけど、ここは萩組というヤクザの事務所なの⭐︎そして、あなたは人質よ」

「えっ……?」

 俺はそれを聞いてひどく驚いた。まさか咲良さんがヤクザだったなんて……。俺は後退りしてここから出ようとしたとき、扉が開かなかった。慌てて開けようとしたけど、びくともしない。

「誰か!!助けて!!」

 扉を叩いていると咲良さんが、俺の口元に布を強く当てた。咲良さん何で……。

「ごめんねーー玲央くん。悪いけど、眠っててね」



※※



 家を慌てて飛び出して走っていると、真斗さんに声を掛けられた。

「おい獅恩!!こんな時間にどこ行くんだよ!?」

「真斗さん!!クラスメイトがいなくなったんだ!!ちょっと捜しに行ってくる!!」

「おいおい、ここは警察に任せればいいだろ!!」

「それじゃあダメなんだって!!もしかしたら、悪い人に捕まってるかもしれなくて……」

「悪い人?」

「も、もしかしたら萩組かもしれない」

 彼は少しの間考えた後、パトカーの鍵を手にして言った。

「……萩組が関わってんなら尚更連れて行けないな。危険過ぎる」

「どうして?」

「萩組はな、目的の為なら手段を選ばない連中だからだ。それに殺しだって平気でするんだぞ!!お前が行っても邪魔になるだけだ!!」

 あっしらが話していると、不意に背後から声が響いた。

「行かせてやれ」

 振り返ると、そこには親父が立っていた。厳しい表情をして、その威圧感に真斗さんは一瞬言葉を失う。

「し……獅斗様」

「獅恩が決めたことだ。こいつなりに覚悟を決めてるんだろう」

「親父……」

 親父がゆっくりと近づいてくる。真斗さんは困惑しながら言った。

「でも……危険過ぎます。萩組が相手ですよ!!獅恩にはまだ早すぎる気がするのですが……」

「危険を承知で動くのが百鬼家の役目だ。獅恩にもそれを教える時が来たんだろう。ヤクザ相手に命をかけるとは、どういうことか……」

 親父の言葉は重く、真斗さんもその威圧感に逆らうことはできなかった。そして、少しの間考えた末、彼はあっしに目を向けた。

「……分かりました。俺が責任を持って獅恩を守ります」

「頼んだぞ。獅恩、お前もしっかりやれ。真斗の言うことをしっかり聞けよ」

「うん分かった!!」

 あっしらが出ようとしたとき、殺気を感じた。な、何だ……?すると、怖そうな男の人たちが現れた。真斗さんは、あっしと親父の前に立ちはだかった。男たちの頬に彫られた刺青を見て、真斗さんは叫んだ。

「お前ら、萩組か!?」

「ああ。ビジネスに邪魔な獅龍組を潰しに来た。そこにいる百鬼獅斗も一緒にな」

 親父は慌てる様子もなく、ただ黙って男たちを見ている。あっしはちょっとビビってしまっている……。

「悪いがお前らのビジネスとやらは、ここで終わりだ。アタシたちが、それを止めるから」

「へぇーー、やれるもんならやってみろよ!!病弱が!!」



続く。

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