10話.[苦しくならない]

「こら、いい加減にしなさい」


 ん? と意識を向けてみたら砂を犬みたいにばしゃばしゃやっている子がいた。

 自分が小さいときも砂で遊んだことがあるからなんだか微笑ましかったけど、お母さん的にはどうにかして止めたいみたいだ。

 ずっと見ていたら不審者扱いされそうだったから立ってこの場を去ることにした。

 春だからどうしてものんびりしたくなるのがなんとも言えないところだ。


「いきなり公園で寝てくるとか訳の分からないことを言ってきやがって」

「凄く暖かいでしょ? だから気持ちいいかなと思ったんだけど……」


 実際は小さい子がいっぱい来ていて寝られるレベルじゃなかった。

 利用者がたくさんいるということはベンチを利用したい人もいるわけだからそこでぐーすか寝ているわけにもいかないし。

 だからお母さんやお父さんと遊びに来ている小さい子を見て過ごしただけ、ということになるのかなと。


「それにその割には追ってこなかったじゃない」

「俺は聡子自身がすぐに帰ってきてくれると思っていたんだけどな」

「だからこうして帰ってきたじゃない、寧ろ意地を張って外で待っている方がおかしいでしょ」


 喉が乾いたから鍵を開けて中へ、とはできなかった。

 玄関の扉に押さえつけてきたから真っ直ぐに正義を見る。


「なに怒ってるのよ」

「……今日も出かけたかったんだよ」

「えぇ、それなら先にそう言いなさいよ、そうしたらあんたを優先していたのに」


 なんで公園に行く前に言わないのかが分からない。

 長年一緒にいるとはいっても察することができることばかりじゃない。


「……まあいい、家でゆっくりしようぜ」

「そうね、ずっと押さえつけられていても嫌だし」

「悪かった」

「いいわよ、飲み物でも飲みましょ」


 ただ、最近はこういうことが増えているのが気になっている。

 なんか合っていないんだよなと、それを直接そのときに言ってくれない正義も原因のような気がするけど。

 やっぱり恋人じゃないときの方が自然にいられるのかもしれない。

 恋人だから◯◯しなければならないとか考えてしまっているときがあるから……。


「聡子からすれば面倒くさいかもしれないけど、俺は毎週時間があれば必ずどこかに行きたいって思ってるんだ」

「うん」

「でも、頻度が高すぎると迷惑なんじゃないかって不安になるときもあるわけで」

「それは私も同じね、難しいわね」

「ああ、難しい」


 一緒にいたいことは確かなんだ。

 お昼寝とかだって一緒にできればもっといい行為になる。


「今日ので分かったけど、どこかに行くことが全てじゃないよな」

「そうね、お金も必要になるからね」

「ああ、聡子は外出するのをそこまで好んでいないから家で過ごすのもいいなと」

「正義はどこかに行きたいだろうから少し申し訳ないけどね」

「いや、それよりも相手が嫌にならないような一日にしたいんだ」


 合わせてもらうばかりじゃあれだから二週間に一度はと言ってみたら嬉しそうな顔をしてくれて少し安心できた。

 それならお金的にもそこまで苦しくならない。


「これまで通り緩い感じでいくか」

「そうね、それが一番だわ」


 手を握って上下に振る。

 いまとなってはこれも普通になって新鮮さを感じないはずなのになんかよかったのだった。

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65作品目 Rinora @rianora_

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