CROWN CLOWN
@sakurahiro0226
第1話
微かに木の香りがする教室の窓際の席で、僕はただただ、毎日のように嫌味を言う教師の授業を傍聴していた。
内容は歴史。どう見ても理系の顔をしてるが、彼の得意分野は元々歴史のようだ。
怒鳴るように大きな声を出しながら、教師──
「今から1000年前、平安時代中期頃に鬼という生き物は生まれた。
元々は蝦夷との戦いの為に生み出された生物兵器のようなものだ。
その時代は何故か科学技術が相当凄まじいものだったようだな。それらしい遺物も、当時建てられた寺で見つかっている」
よく彼が朝礼の時に語る、鬼と人との歴史。
周りを見なくとも、みんなうんざりした様子で聞いているという姿を想像するのは難しいことではなかった。
鬼と人との歴史は長い。
蝦夷侵攻をある程度進めた後、朝廷が鬼の存在を恐れて鬼を狩る令である鬼狩令を出してからは鬼は害獣として思われ、虐げられる日々が続いた。
長い年月が経ち、今となっては古い考えに片足を踏み込んでいる鬼への差別意識だが、玉置は昔に取り残された人間らしく、ことある事に鬼の生徒に遠回しに罵倒したりしている。
そして───鬼と人との間に生まれた僕にも当然、玉置は持ち前の毒牙を向けるのである。
「フン、私からすれば鬼は蝿みたいな存在だが、それより下だと思う生き物もいる。
それが、鬼と人とのハーフだ。
奴らは蝿以下……糞だ糞!!
鬼とかいう人に折角同類と認めてもらえたのにその恩を忘れ、暴れに暴れている!!!!
そんな鬼の血を引いた人の半端モノなんぞ、誰が珍しいと思うものか!!!!
知っているか、巴?
つい先日、隣のクラスの
犯人は誰だと思う?
最近起こる連続殺人犯の伊藤 守斗という鬼の仕業らしいぞ、鬼の殺人犯!!!!
全く、そういったことをしてしまう鬼は怖い怖い、鬼はやはり子を持つべきでは無いと思うなぁ。
そういえば……君の親は片方が鬼だったな、すまないねこんな話をしてしまって。
いやなに、君に対して嫌味を言ってやろうだとか、そういった意図はないから気にしないでくれ。
これは単に忘れてしまっていただけなのでな。君の親が、鬼であるということをねぇ」
「……そうですか」
最後に粘り気がある彼の雑言をいつものように、サラリと流す。
例え怒りに身を任せたとしても、オチは皆に取り押さえられるだけ。
こんな大人数で取り押さえられたらどう考えても無理だ、僕なんかがまともに太刀打ちできるわけが無い。
力をつけてやり返そうとも思わない、それこそ玉置の思うツボだから。
玉置はどうしても鬼のイメージを下げたいのだろう。
今更そんなことをしても意味が無いというのに。
それこそ、テロリストのような犯罪を行われない限り、鬼に対するイメージは変わらないだろう。
歴史の被害者、今まで散々な目にあってきた哀れな存在。
淘汰されてきたその分の喜びを与えられるべき存在だ、と。
……まぁ、僕はそれまで甘い汁を啜ってきた人の血も混じってるから、喜びなんていらないけれど。
いつも通り流して、玉置の立場が危うくなってしまえばいい。
そう思い、何も言わない僕の代わりに…否、自分自身に我慢できなくなったのだろう。
隣の女子が席を立ち上がり、教師を睨んだ。
その少女……僕の義理の姉である
「玉置先生、先程の発言は如何なものかと思われます」
「あ、麻上か…そうだな、うむ。
流石に橘花の事を話に出したのはマズかったな、この話はもうやめておこう。
さて、授業の続きを始めようか!!」
光の気迫に圧され、玉置は冷や汗を書きながら脱線した話を元に戻す。
「嫌な逃げ方」、と光は呟きながら席に座り直した。
彼女の正義感の強さに半ば呆れながら、そして僕なんかを庇おうと動く光に感謝しつつも、そのせいで彼女に皺寄せがこられたらたまったもんじゃないので彼女に対して小言を言う。
「……あのさ、少しは自分のことも気にしたらどうなんだ?
僕と光って結局のところ他人なワケなんだしさ。
僕のせいで君に皺寄せが来たら後味悪いしさ」
「トモくんのそういうとこ嫌い」
一蹴だった。
腰まで伸ばした茶色い髪を指でクルクルと巻きながら、彼女は僕を睨む。
少しキツめな雰囲気だった、不機嫌なのは分かることなので大人しく口を閉じておく。
玉置が怯えているのは恐らく、光のお父さんにして僕の義父である洸一さんに対してだろう。
光が凄んだところで、結局は猫みたいな愛らしさが残ってしまっている。
玉置が洸一さんに怯えている理由、それは大物政治家だというところだろう。
麻上洸一、一時はこの国の外務大臣を務めていた敏腕の政治家である。
今はこの市の議長を務めており、仮に光がこのことを洸一さんに言ったら自身の立場がマズくなってしまうと思ったのだろう。
……まぁ、実際のところ光はそんなことしないのだろうけど。
彼女は父親に頼ろうと思わずに自身で揉め事を解決しようとする。
父親譲りなのだろうか、正義感が人一倍強い少女なのだ。
「嫌いでいいよ、どうせ僕は君のお父さんに憐れみを持たれて拾われた捨て子だったんだし、もっと幸せになりたいなんて思ったらバチが当たるよ。
鬼と人の間に生まれた半端な生き物だって罵倒されながら、生きていくのも、幸せを得た分の不幸だって割り切って生きていくよ」
少し本心を隠しながら、どうにか彼女を納得させようと試みてみる。
───好きだ、僕は、麻上光のことが。
真っ直ぐさを忘れていない心、凛とした姿勢、透き通るような綺麗な声。
全てが愛おしくて、たまらない。
幼い頃から抱き続けた彼女への好意は日に日に増していってる。
だからこそ、彼女には損をさせたくない。
彼女の真っ直ぐさが祟って、誰かに恨まれてやり返されて不幸な目に遭うのだけは避けたいのだ。
しかし、問題なのは彼女が僕の考えていることは大体お見通しということだろうか。
いくら僕がどう言おうが、彼女は今も尚、僕の言うことをばっさりと否定するのだった。
「拾われた時点で幸せを全部使い切った、なんてマイナスに捉えて考えないで。
確かにトモくんは鬼と人とのハーフだけどさ、そういう人って隣のクラスにもいるじゃん。
ほら、
なんかプロのチームから推薦受けたって、喜んでたよ?
夢がかなった、てさ。
だからトモくんにだって夢を叶えれる権利はあるし、もっと幸せになる権利もある。
まぁ、これは鬼にも人にも言えることだけど」
「僕の夢は君が幸せになること、それだけだよ。
それ以外ない。
君がいいとこの企業について、良い人と結婚して、良い老後を過ごせるっていうならそれでいいんだ」
そう言い終わった頃に、終わりのチャイムがなる。
なんていいタイミング、我ながらかなり恥ずかしい。
たまに変にカッコつけようとしてはすごい恥ずかしいことを言い、勝手に悶える癖、そろそろ治したいな。
今、羞恥心で顔が真っ赤になってるであろう僕は逃げるようにそそくさと立ち上がって教室から出るのだった。
出た直後、ふとある人物の視線を感じた。
時間を確認すると、もう昼休憩の時間で、昼休憩にはとあるヤツとの約束があった、急がないと。
僕は、ソイツと約束してる決められた集合場所へと急いで向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼休み、屋上にて。
本来なら入れない場所となっているそこは、とある人物が教師に脅しをかけて自分やその仲間と僕だけ入れるようにしていた。
その人物は今、僕の目の前にいて、僕が抵抗出来ないように仲間に抑えさせながら僕の腹部や胸部目掛けて蹴る、殴るといった行為を繰り返し、楽しんでいた。
「楽しそうにヒソヒソとなぁ!!
してんじゃねぇぞ
えぇ? なんとか言ったらどうなのさ!!」
「……グッ、つぅ……!」
鈍い痛みが走る、奔り続ける。
僕が痛みを我慢してる様子を、嬉々として笑いながら、ソイツ───僕と同姓同名の人物である
そして、理不尽極まりない恨み節を、ボールと共に僕にぶつけるのだった。
「ホントさぁ……パチモンのクセに俺の女とべちゃくちゃ喋るとかさぁ…やめてくんない?
すっげえ腹立つんだよ─────なっ!!」
「っ!……ッつ………!!」
野球ボールを放り投げ、それが僕の
息が出来ず、苦しみ悶える僕を見て、嬉しそうにケタケタと笑いながら、彼は染めた金の髪を整えた。
一歩、二歩と近付いてくる同姓同名の男。
まるで悪魔を思わせるソイツは、僕の事を見下した目を向け、僕の惨めな姿を嘲笑した。
そんな中、僕は、言わなきゃいいことを言った。
「君の女じゃないだろ……
仮に光が君のことを好きだったとしても全力で妨害する。
君みたいな屑、絶対、アイツに指一本触れさせない……!!」
「そういうのはさぁもっと強くなってから言えよぉ!!
なぁ、このパチモンがよォ!!!!」
一発、二発。
疲れを知らないのか、それとも疲れよりも楽しさの方が勝っているのかは分からないが彼は、僕に対して暴行をゆるめることなく行い続ける。
僕と同姓同名の男、麻上は光のことが好きらしく、義理とはいえ家族関係である僕に嫉妬している。
嫉妬というか、邪魔だと思っているのだろうか。
ある程度、僕を痛めつけた後に麻上は僕の頭を掴み、顔を覗く。
先程と同様の嘲笑を浮かべながら、麻上は僕に対して挑発をするのだった。
「あと、言葉間違えたわ。
アレは俺の玩具だ。
俺専用の性処理用の玩具、それをお前に汚されたくないのよ。
お前、使用済みの自慰用道具貰って嬉しいと思うかよ?
思わねぇよな、汚いもんな?」
「お前……光に何するつもり───が、ぁぅ……!!」
感情が沸騰した僕の言葉を遮るように、麻上は僕の渠を殴る。
そして、冷たい声で僕の耳に囁いた。
その、邪悪と呼べる欲を。醜悪なその本性を。
「えー?
何って決まってんじゃん?
襲うんだよアイツをさ。
精神的にも肉体的にもボロボロにしてやって、自殺まで追い込んでやりたいのよ。
アイツの家も、アイツも。
無駄に正義感が強いクソみたいにムカつくアイツの何もかもを奪ってやりたいのよ」
「そんなことさせるわけないだろう……!!
光には手を出させない、絶対にだ!!」
「あ、そ。
ナイト気取れるといいけどね、パチモンくん
……っと、昼休み終わりのチャイムが鳴ったか。
また明日、な?
来なかったらお前、いつも言ってるけれど光ちゃん犯しに行くから覚えといてね?」
麻上の行動力はえげつない。
逆らえば光がどうなるかは皆目見当がつく。
今の僕は、悔しいけど麻上の言いなりになるしかない。
……たまに、無力だと、もっと力をつけたいと嘆きたい時もある。
けれど僕が力をつけたとしても、最終的には光や洸一さんに迷惑をかける。
基本、鬼が力をつけたらその力を恐れて、人がその鬼の家族を含めて迫害する。
だから力もつけれない、被害がその二人にも及ぶから。
歯痒さに唇を噛み締めながら、ふらふらとした足取りで僕は、教室へと向かうのだった─────。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
───見慣れない景色の、見慣れない路地裏。
そこに佇む一人の男の回りは、実に奇怪な光景だった。
コンクリート出できた歩道が何故か鋭く尖って、数人の人間を串刺しにしていた。
串刺しにされた人間の身体からは血が流れ出ている。
だというのに男は、周りをキョロキョロと見ているだけだ。
これは夢、それは理解している僕だが───何かヘンだ。
あまりにも感覚がリアルすぎるというのに、到底ありえなさすぎる。
何故なら、その男は嫌いで嫌いで仕方ない─────自分だったからだ。
そして自分は、俯瞰的な目線になっている僕を見つめながら、呟いた。
『……呪え。
理不尽なこの世界を変えてしまいたいと、自身の全てを変えたいと呪え。
じゃないと、僕に未来はない』
その言葉を最後に、僕は目を覚ました。
何か、不吉なことが起こる予感を匂わせる夢の内容に不安を抱える。
ふと、違和感に気づきシャツを見る。
……うわ、汗びっしょりだ。
シャワーでも浴びようと、僕はベットから出て部屋を後にする。
階段を降りてリビングに行くと、洸一さんがキーボードを打ちながらパソコンの画面を睨んでいた。
仕事の邪魔をしたら悪いから、足音を潜めて風呂場へ向かう。
「あぁ、巴か。
どうした。まだ早朝だぞ?」
「まだそんくらいなんですね。
……少し、変な夢を見たんですよ。
僕の周りが杭みたいに尖って、人のことを串刺しにしてるっていう変な夢を」
僕が答えると、洸一さんの指が一瞬止まった。
何か変なことを言った覚えはないが、光一さんにとっては驚くべきことがあったのだろう。
洸一さんが僕の方へ視線を向けた。
どこか恐れているような雰囲気で、僕に訊ねた。
「その夢の中で、何か呟いていたかい?
例えば……呪う、とかそういうの」
「あー……そうですね、確かにそういうこと言ってた気がします。
何か心当たりとかあるんですか?」
「いや、特に何も無いよ。
いやね、私も巴の年頃になったら
多感な時期だからね、漫画に影響されたんだろう。
ほら、今は多感な時だろうからね」
……もしそうだとしたらかなり恥ずかしい。
でも、洸一さんが嘘をついているのは明白だった。
じゃなきゃ、わざわざこんなこと聞かないだろう。
絶対に何か知っている。
「ところで、シャワーを浴びに行くんだろう?
うん、浴びに行った方がいいよ。
言いづらいけど、今の巴はかなり汗臭い。
ほらほら、早く浴びといで」
疑う僕に、洸一さんは半ば強引に風呂へと誘導する。
……まぁ、確かにいったんお風呂に入った方が良さそうではある。
多分、会話に集中出来ないだろうし。
とりあえずは言われるがまま、僕はお風呂へと向かう。
リビングのドアをあけた瞬間、
「……そうか、巴が、か」
と、洸一さんが呟いているのが聞こえてきたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
───シャワーを浴び終え、リビングへと再び入る。
そして、先程と同様キーボードを打ち続けている洸一さんの方へ向かう。
僕に気付いた洸一さんは、溜息を零しながら、僕を見る。
「……巴、さっきも言ったが本当に私は何も知らないよ」
「まだ何も言ってないですよ、洸一さん。
それに、さっき僕聞こえてました。
僕が、一体なんなんですか?」
「……………………」
沈黙がしばらく続く。
何か、言ったらその関係が終わってしまうかのような、そんな悪い予感が僕の脳裏を駆け巡った。
……そういえば、僕が鬼と人とのハーフと前に言っていたけども。
なんで、僕が捨て子だったのに鬼と人とのハーフだと分かったんだ?
それを先に聞いても、答えはもうでるようなものだろうか。
僕は、洸一さんにその事を訊ねようと─────
「……おはよ、って雰囲気じゃないよねこれ」
訊ねようとしたが、光が割って入ったため、その空気が崩れてしまった。
でかした、と大声で言いそうなノリで洸一さんは機嫌よく光に話しかけ始めた。
「いやいや、巴とな、多感な時期だとやっぱり変な方向に拗れてしまうよなと話し合って哀愁を感じていただけだ。
巴、この話は後にしよう、な?」
「……そうですね、朝から重たい話をしてすいません」
忙しなくパソコンを片付けながら、洸一さんがその場を去る。
その様子を見届けた後に、光が僕に訊ねてきた。
「なにかあったの?」
「いいや、洸一さんがさっき言ったことであってるよ」
何故か、僕も咄嗟に否定してしまった。
光には全く関係がない話だし、出来れば僕と洸一さんの二人だけで終わらせたかったというのもある。
なんか、光が割って入ったらこじれそうな気がする。
そそくさと僕もその場から逃げ出す。
リビングに一人の取り残された光は、不思議そうに首を傾げるのだった───。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
巴と光が学校へと行き、授業を受けている最中。
麻上家のリビングでは、二人の父である洸一が、二人がまだ赤ん坊の頃の写真を眺めていた。
その表情はかなり真剣に、そして深刻に。
洸一は今朝の巴の夢の話に関することを考えていたのだ。
「……そうか。
私は、とんでもない存在を拾ったのだな」
それは、嬉しいことではあるが自身が嬉しいというわけではない。
寧ろ、自身にとってはあまりにも悲しい出来事であった。
その事がその家の者にバレてしまえば巴は殺されてしまうであろうと、洸一は予想していたのだ。
(……まだ、顕現はしていないだろう。
だとしたらまだ望みはあるか?
しかし、巴で最後なら奴らは勘づくハズだ。
いずれはバレるかもしれないが、ひとまずは誤魔化して、そこから巴に伝えよう。
巴自身の秘密を、彼が気になっていることを)
なんて言われるのか、洸一は恐怖で胸中が支配されていた。
何故、自身を見殺しにしてくれなかった、む巴の性格ならばそう言いそうで、息子からそう言われるのが怖かったのだ。
「───何を脅えている、麻上洸一。
私があの子を拾った理由を思い出せ。
あのまま失敗作として冷酷に殺されるであろうあの子を可哀想だと思い、土下座を何度もして親権を手に入れたんだ。
こういう日が来るのはあの日からもう既に予想出来ていただろう、直面しそうになってから何を今更怯えているんだ……!」
恐怖で手が震え始めた頃に、洸一は自身に言い聞かせ、震えを抑えた。
一度、深呼吸をして息を整えてから洸一は時刻を確認する。
ちょうど、光と巴が帰ってくる時間へと近付きつつあった。
そのタイミングでようやく、洸一はまだ家事を全然終わらせれていないことを思い出してしまう。
「あ、ヤバい早く家事終わらせないと……!
光、一個でも家事忘れちゃうとすごい怒るからなぁ……。
さて、仕事は後でしようかな─────」
そう呟きながら勢いよく立ち上がった刹那、インターホンが鳴り、突然の来客の報せがくる。
「ん……?
おかしいなぁ、客人は今日は来ないハズなんだけどな……」
首を傾げながら、洸一は玄関へと向かい、ドアを開ける。
そこには、巴の同級生と思わしき生徒が一人、立っていた。
巴の友人……では無いと洸一は即座に理解する。
巴は今まで友人を連れてきたことなどなく、よく部屋の中で本を読んでいた。
今更友人を連れてくるなんてわけないし、なんなら一人だけ先に行かせるなんてことは絶対にしないであろうと、洸一は理解していた。
十分に警戒しながら、洸一が男子生徒に訊ねた。
「麻上だが……君はだれだ?
答えないならすぐに出ていってもらうが」
洸一の言葉に、軽い調子で金髪の男子生徒───麻上巴と同姓同名の少年が答えた。
「オレ、トモくんの友達でぇす!!」
そう勢いよく、活発に答えながら麻上は腕を伸ばし、洸一の腹部にナイフを深々と突き刺した。
洸一は確かに警戒しながら、麻上に訊ねていたのだが、彼の明朗な少年を装った挨拶に騙され、一瞬警戒が解けてしまったのだ。
その隙を逃さず、麻上は突き刺したのだ。
なんの罪悪感も抱かずに、眩しすぎる笑顔のまま。
麻上はそのままナイフを抜き出すと、洸一の腹部から勢いよく血が溢れ出した。
激痛と共に、洸一が倒れる。
それを確認した麻上は、歪な笑みを浮かべながら、警官の格好をした屈強な男を数人そのまま家の中に侵入させた。
洸一にまだ薄らと意識があるのを確認して、麻上はニタリと悪魔のような笑みを浮かべて、洸一に言い放つのだった。
「えーと、君の息子さんはぁオレに対して何度も何度も暴行行為を行ったんですよォ。
で、オレさ堪忍袋の緒が切れちってさ?
今から法律に則って“鬼”である麻上 巴───オレのパチモン君はぁ害亜人と認定してオレのお友達が処刑してくれマース!!
あ、ついでに娘の光ちゃんも知らなかった罪で犯すからよろしくね、二人のお父さん?」
そう言い終わると同時に、麻上は血塗れのナイフを洸一の心臓へと突き刺し、トドメを指した。
そして、何食わぬ顔でずかずかとリビングへと居座り、二人の帰りを待つこととした。
帰ってきた時の困惑と恐怖が入り交じった二人の顔を想像しながら、麻上は悦に浸りそうなところを必死に我慢する。
そうして待つこと数分後に巴が、地獄へと通じる扉を開くのであった───────
CROWN CLOWN @sakurahiro0226
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。CROWN CLOWNの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます