短編集っぽいもの

鈴永玲音

忘れるまでは



「しにたいな」






僕は独り言のようにそう呟いた。


誰かに聞いてほしかった、誰にも聞かれたくなかった。
普段あまりにも我慢を強いられ続けてる日々がつらくて、心身ともに強くもなんともない凡人の僕には耐え切れそうにもなかった。





「またそんなこと言ってるの?」





幼馴染である彼女が無機質にそう応える。
そう、「死にたい」はもはや僕の口癖。

僕の発するマイナスな言葉はもう今となっては何の意味も力を持たない、ただの文字の羅列になっている。
勿論、僕自身も自分から死ぬ勇気なんてものは持ち合わせていない。


死に方について真面目に考えたことは何度かあるけれど、基本的にはただの現実逃避で、自己嫌悪だ。





「あぁ、メンタルがヘラってる時期だよ」


「梅雨だものね」


「そうだね」


「今年は豊作かしら」


「え、メンヘラ育ててんの?」


「この時期のは特に美味しいわよ」


「やばいなぁ」





彼女は僕の口癖にも慣れたのか、他愛のない話をして重たくなったかもしれない空気を少しでも軽くしてくれる。


まぁ、彼女のことなのでただ何も考えず適当に話してるだけかもしれないけど。





「そんなにつらいなら、死んでもいいのよ」


「え?」


「貴方が死んでも、みんな覚えていないもの」


「辛辣だなぁ、嘘でも慰めてほしかったよ」


「慰めても無駄でしょう?それに本当のことだもの。人間は死をすぐに忘れるわ」


「いや、流石に身近な人のは覚えてるだろ、家族とか友達とか…」


「それはその人との記憶が濃いからでしょう?でも記憶、思い出という方が良いかしら?それが無くなればいずれ忘れ去られるものよ」





彼女は淡々と、淡々と応える。
それが事実だと、当たり前なのだと言わんばかりの熱量で言葉を綴る。





「人間の感情はその場限りのもので、大切なのは記憶だから。記憶があって始めて感情がついてくるのよ」


「卵が先か鶏が先かみたいな難しいこと言うんだな」


「私天才だもの」


「はいはい」


「でも、そうね。私は天才だから、貴方が死んでもちゃんと貴方のことを覚えていてあげる」


「忘れるまでは?」


「ええ。忘れるまでは」


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