今はもう、心中が許されない時代です!

加賀律

第1話 恥の多い生涯を送って来ました

冷たい水、腰に結ばれた紐、微かに匂うクチナシ


人生にもし―――はないだろうけど、もしがあったとしても、きっとキカは何度でも彼に出会って、この運命を辿るのかもしれない





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「お疲れ様でしたーお先に失礼します」

「お疲れ様ですー」


久しぶりに早く仕事を終わらせて、友人のミキの元へと向かう

JR有楽町に降り、銀座へと歩く

相変わらず人が溢れている

キラキラした街頭の下で、男に女の腕が絡みつく

大蛇のごとく、今にも男の息の根を止めかけている


指定されたお店は狭いビルの2階にあった

何度も地図を見直して、お店の前を行き来し、ようやくたどり着いたときには待ち合わせ時間を12分遅れていた


「ごめん、遅くなった!」

「全然平気!仕事してた!」


ビールが2つ運ばれてくる

ミキがすこし前に頼んでいたものだ


「かんぱーい!」

「乾杯♪」


最近のリリースした記事の内容、LGBT法案のこと、プライベートの関係なのに、ほぼ仕事や情勢について鋭い意見をそれぞれ出し合う


そして、本題に入っていった

そう、恋愛についてだ


「最近はどうなの?」

「え、なにが?」

ごまかしながらキカが答えた


「そろそろ彼氏とかパートナーとか作ったほうがいいんじゃないの?」

「わかってるよ、でも、男も女も興味ないしさ」

「じゃあさ、この場でアプリに登録してみるってどう?」

「いいけど――」

「このアプリはどう?」


"IROIRO"

性別なんて関係ない!人間として好きな人を見つけよう!


「うーーん、悪くないね」

「こっち向いてーカシャッ」

「今写真撮ったよね?」

「うん、登録には必要だと思ってね」


写真の中のキカは右手にビールを持ちながら楽しそうに笑っている


「ちょっとケータイ貸してねー」

「はいはい、どうぞー」


・KIKA

・25歳

・趣味は読書、音楽を聴くこと、散歩


「よし、一旦こんな感じで!かっこいいなーとか綺麗だなーって思ったら、右にスワイプね。だめだ、ないわーって思ったら左にスワイプ!笑」

「おっけい、やってみるわ」


・ユウジ

・26歳

・趣味はランニング


「はい、こっちー(左にスワイプ)」


・蓮

・31歳

・趣味は寝ること


「はいはい(左にスワイプ)」


・茉莉

・28歳

・趣味はスパイスカレーを作ること


「うーん(左にスワイプ)」


・修治

・39歳

・趣味は小説を書くこと


「へー(右にスワイプ)」


「あれ、今右にスワイプしなかった?」

「してないよ、そんなの、するわけないじゃん。そういえば式場は決まったの?」

「うん、決まったよ!結局レストランにしようと思うの。だからね、すごい料理が美味しいってわけ!最高でしょ?楽しみにしててね!」

「もちろんだよ、ミキは綺麗だから、ドレス姿も楽しみにしてる」

「ありがと〜友よ〜!」


ビールとハイボールでいい感じに酔っていた2人は駅へと向かった

ミキを見送ってからケータイをみると、アプリにメッセージが来ていた


修治からだ


プロフィールを確認すると

「恥の多い生涯を送って来ました。私なんかでよろしければぜひお願いします」

と書いてあった


(どんな生涯だよ、ずいぶん暗い人だな)


修治「ありがとうございます。あなたは美しい」


思わず、そっとアプリを閉じた

電車はいつもよりもゆっくりと走り、最寄り駅までキカを運んだ





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