ガールサイド
◇ガールサイド
私は佐藤くんのことがずっと好きだった。
どうすれば、佐藤くんと結ばれることができるだろう? 前々からずっと考えてきた。
佐藤くんに彼女がいないことは知っている。けれど、佐藤くんは私にとって高嶺の花。眩しい太陽のような存在。普通に告白したとしても、多分振られるだろう。
色々考えた結果、私はある計画を思いついた。
既成事実を作ってしまえばいいじゃない。佐藤くんはああ見えて結構真面目な人だから、私と彼が関係を持ってしまえば、付き合わざるを得まい。子供を作るまではいかなくてもいい。まだ、私たちは高校生なのだから、それは後々に……。
馬鹿馬鹿しいアイデアだけど、『セックスしないと出られない部屋』なるものを作ることにした。
計画はこうだ。『今夜8時ごろ、S公園のベンチまで来てください』と書いたラブレターを佐藤くんの下駄箱に入れる。彼は優しいから、ちゃんとS公園に来てくれるはずだ。そして、やってきた彼をスタンガンで気絶させ、例の部屋へと運ぶ。
部屋のドアの鍵は、ポケットに入れたスイッチ一つで開けることができる。行為を終えた後、隙を見てスイッチを押せばいい。
部屋は親に頼んで作ってもらうことにした。もちろん、使用目的は秘密だ。
私と佐藤くんはセックスをし、晴れて恋人関係となる。この部屋のことは二人だけの秘密にする。警察に言わないように言いくるめることはたやすいと思う。
ずさんなようでいて、完璧な計画だと思う。
思い立ったが吉日。私はすぐに行動に移した。
授業終わり。佐藤くんは珍しく一人で帰宅するようだ。チャンス。私は先回りして、下駄箱にこっそりと『ラブレター』を入れた。そして、隠れて彼が来るのを待った。
佐藤くんが昇降口にやってきて、下駄箱を開けた。私のラブレターを発見。すぐに読んでくれた。嬉しい。そわそわしながら、帰っていった。
私も帰宅して、準備をする。
夜の7時頃、S公園に到着し、ベンチの背後にある生垣の中に隠れた。正直、かなりきつかったけれど、佐藤くんが早めにやってくる可能性は十分にあるのだから我慢。
8時にS公園のベンチにやってきた。佐藤くんが腰を下ろすと、私はスタンガンを取り出して生垣をとび出した。そして、彼の首にスタンガンを当てた。バチッと音がして、動かなくなった。死んでないか心配になって、心臓に手を触れてみたけど、ちゃんとドクンドクンと動いていた。よかった、死んでない。
私は協力者である使用人の子を呼び出すと、二人で車まで運んだ。女二人で運ぶのはけっこう大変だった。彼女の運転で、例の部屋まで佐藤くんを運んだ。
スイッチを押して鍵をかけ、私は気絶した振りをした。
やがて、佐藤くんが意識を取り戻した。私は少しお腹が空いたな、なんて思っていた。
「おいっ! 大丈夫か!?」
佐藤くんが私の肩を軽く揺すってきた。
「……ん、ううっ……」
私は小さく呻きながら起き上がった。演技力はあるほうだと思う。
「あれ? 佐藤くん……?」
私はきょろきょろと部屋を見回した。
「ここは、どこ……?」
「さあ?」
佐藤くんはドアの取っ手を握って、押したり引いたりしていた。もちろん、開くはずがない。私がスイッチを押すか、外から開けない限り、そのドアは開かない。
佐藤くんは部屋をぐるりと見回した。ダブルサイズのベッドや監視カメラ、モニターに気がついたようだ。監視カメラは後々映像を見返すため、それと架空の誘拐犯の存在を匂わすために設置しておいた。
佐藤くんはドアを叩いたり蹴ったりしながら、
「ここを開けてくれ!」
と叫んだ。ドアの奥には誰もいないので、当然反応はない。
何か考えているようだ。モニターに映し出された文字に気がついていない。私は佐藤くんの肩を叩いた。
「あ、佐藤くん」
「ん? どうした……?」
「モニターが……」
私がそう言うと、佐藤くんはモニターに表示された文字を凝視した。
私は佐藤くんの横顔を凝視した。かっこいい……。
『ここは、「セックスしないと出られない部屋」です』
ぱちぱち、と佐藤くんは瞬きをした。混乱している。もう少し、シリアスな感じにすればよかったかも。
「セックスしないと出られない部屋ってなんだよ……!?」
佐藤くんの叫びを無視して、表示が切り替わる。
『あなたたちがセックスをすれば、この部屋のドアの鍵は開きます。しかし、セックスをしない限り、どのような手段を用いても、この部屋のドアの鍵は開きません』
佐藤くんは混乱しつつ、天井の監視カメラを睨みつけた。
『犯人はきっとこのカメラで、俺と鈴木さんが狼狽え動揺している様子を見て、せせら笑っているに違いない』なんて思っているに違いない。かわいい。
「あの、佐藤くん……」
私は恥ずかしそうにもじもじしながら。
「その……セックスすればこの部屋から出られるって――」
「そんなの真に受けちゃ駄目だよ」佐藤くんは言った。「とりあえず、ドアを破壊できそうなものを探そう」
諦めが悪い。そんなところもいいと思う。でも、このドアを壊せるようなアイテムはないと思うよ。
佐藤くんは色々探していたが諦めて、大きくため息をついた。
「ドアを壊せそうなもの、なさそうだね」
「……ああ」
佐藤くんはがっかりした顔で頷いた。
「えっと……ど、どうする? その……する?」
私の問いかけに答えず、佐藤くんはベッドに座って頭を抱えた。かわいい。悩んでる悩んでる。私は彼の隣に座った。
「鈴木さん」
「はい」
「俺と……その……セックスしちゃっていいの?」
佐藤くんは私の目を見つめて、おそるおそる尋ねた。
「うん」
と、興奮から頬を赤らめながら頷いた。
「実は……私……佐藤くんのことがずっと好きだったの。だから……」
緊張や興奮なんかで、ごにょごにょわけのわからないことを言ってしまった。軽く咳払いをしてから。
「……その、いいよ……」
と、言った。
佐藤くんは色々と思案した後、覚悟を決めて、
「鈴木さん、俺とセックスしよう」
と、言った。
もちろん返事は、
「はい」
私は佐藤くんに押し倒された。
そして――私たちはセックスをした。
◇
終えた後、私は服を着ながらスイッチを押した。
ガチャン、とわかりやすく大きな音がして、鍵が開いた。
「あ、鍵が開いたよっ!」
「本当に開けてくれたのか……」
涼介くんは困惑が隠せてない。
私は愛しい涼介くんに抱きつきながら上目遣いに、
「あの……これからのことなんだけど……」
「ここから出るためとはいえ、その……セックスしてしまったから、きちんと付き合わないか? 由紀がよければ、だけど……」
私は思い通りに事が運んだことに歓喜しつつも、ニヤついた笑みを出さないように気をつけつつ言った。
「これから、末永くよろしくお願いします」
そして、鍵の開いたドアを二人で開けた。初めての共同作業だ。
どうやって『セックスしないと出られない部屋』のことを涼介くんに納得させようか考えながら、私は――私たちは二人一緒に部屋を後にした。
これから待っているであろう至福の日々に、私は頬を緩ませた。
セックスしないと出られない部屋~ボーイサイド・ガールサイド~ 青水 @Aomizu
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