第五話

気付けばそこにいた、望んでいたわけではない


どちらかといえば望まれていたような気がした


まずは彷徨さまよう魂を狩り尽くした、彼等が何を思っていようと関係はない、ことわりから外れた者はせいさねばならない


その日は綺麗な布を身に纏った人間の魂を狩りにきていた、そして追従するであろう者たちの魂を


白かったはずの布は赤く染まり、手には何やら木の束のようなものを握っている亡骸なきがらがあった


数人の男たちがその周りを取り囲み何やら雄たけびをあげている


「死神なんているわけないんだ、俺たちが勝ち取ったんだ、俺たちの村だ」


その後に聞こえてきたのは怒りに震えた者たちの声


灯と亡骸を中心に円を描くような形で人々は殴り合い手に持った武器で相手を殺そうとした


争い合う声の中、灯は足元の亡骸から魂を刈り取り


「あ~うるさい、これが人間か」


呆れたように呟いた


次々と倒れて行く人間たちの間を縫うように灯は歩いた、手には一つ、また一つと青白い小さな光の玉が積み重なっていった


耳障みみざわりな悪感情の籠った声が止むと辺りは静寂に包まれた


生き残った者はそれぞれ傷付いた者に手を差し伸べ助け合っている


幽世かくりよへ戻る直前に人々のそんな姿を見たあかりは思う


(なんて、愚かな者たちなのだろう)


・・・・・・


「死神様、どうか我々に行く先を示すあかりをお与えください」


小さく土を積み上げられただけのほこらのような物の前に少女と数人の人間が頭を地面に擦り付けるように祈りを捧げていた


(残念だけど行く先を示すなんて出来ないよ)


雨がぽつぽつと降り注いできた、少女達は

ほこらが濡れぬように木で囲いを作り、時には覆いかぶさるようにして身体を盾にし祠が濡れてしまうのを防いでいた


あかりを示す、それも悪くない。でもあたしがここにいるって事は、そういう事。

死から免れる事は出来ない、せめて迷わないように連れてってあげる)


時代の移り変わりを見た、生活様式の移り変わりを見た


良い人間も悪い人間も等しく魂を刈り取った


大勢の涙を見た 苦しみを見た 悲しみを見た


怒りを見た 後悔を見た 憎しみを見た


死から救いたいと考えた事はない、例え考えたとしても無駄な事だった、自然の理に逆らうことは許されないのだ


しかし人間によっていくつもの理は破られている、きっと世界に蝋燭があったとしたらそのともしびは消えつつあるだろう


いつしか魂を狩る瞬間、灯は不気味な笑みを浮かべるようになった


手向けではない、楽しんでるわけでもない、忌み嫌われる死神として存在し続けるにはそうなるしかなかった


あかりは広い屋敷の中で膝を抱える、雨に打たれても無表情に祈る少女を思い出す


(少しでも信望してくれる者がいるのなら、血に塗れた道だって歩き続けてやるんだから)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死神協奏曲 秋之 鵺 @akinonue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ