第四話

「何百年か先、この世界は終わる。あたしが最後に看取るのは人だろうか、それとも現世だろうか」


漠然とそんな事を考えていた



生まれた時のことなんて覚えていない、ただそこに存在していた、魂を導く役目を背負いながら、存在していた


・・・・・・


あかりはとある病院の一室に姿を現した


十六歳前後らしき少女が眠っている横で両親と思われる二人が寄り添いながら涙を流している


なぜ少女は眠っているのか、なぜ二人が泣いているのかあかりにはわからない


分かるのはまた一つ蝋燭のともしびが消えようとしている事だけだった


それで充分だとあかりは思っていた、人間に特別な感情などもってはいない、ただ魂を狩るだけなのだ


過去に一度だけ特別な子と少しだけ話をした事はあった、長く魂を狩り続ける中で人間に興味を持ったのはその一度きりだった


あかりは眠っている金色の髪をした少女の顔を眺めた


「あれ、この子あたしに似てる。少しくらいお喋りしてみてもいいかも」


ベッドの横に腰をかけ、ちらりとネームプレートに目をやると、そこには「湊川みながわ 燈火とうか」と書かれていた


「燈火っていうんだ」


ベッドに腰掛けながら燈火の蝋燭が燃え尽きるのを待った


(あたしが人間とお喋りしてみようなんて、くうちゃんの影響かな)


普段なら蝋燭が消えると同時にすっと魂を刈り取り次の場所へと姿を移している


そうしなければならなかった、蝋燭のともしびは次々と消えてゆく、一人一人に関わっている時間などないのだ


話そうと思ったのは完全なる気紛れ、顔が似ていた事も理由の一つだったかもしれない


以前、そらが丁寧に刈り取った魂を見たことがあった、それはまるで宝石のように輝いていた


だからといって特別な意味があるわけではない、魂は等しく平等であり、導いた先の事は死神には関係のない事だった


(くうちゃんみたいに夢は見せれないけど、死神と話せるんだから光栄に思いなさいよね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る