第三話・続
人々は祈祷師を村長として一つの村を作り上げていた
悪霊に悩まされる事もなくなり、安心して暮らせる事を喜んだ
祈祷師は毎日薪を集めさせては燃える炎に
祈りを捧げ続けた
どうか再び迷い子が現れぬようにお守りくださいと祈り続けた
平穏はすぐに消えて行った
祈祷師の村の周辺にいくつもの村が出来上がっていくと、それに伴い村民同士の争い事も増えて行った
狩場を取り合い、畑を取り合い、隣の村に負けないようにとより効率的な道具を作り、武器を作った
そんな中でも祈祷師は祈り続けた
「神様が救ってくださったのだ、感謝の心を忘れてはいけません」
村民の一人が言った
「悪霊に打ち勝ったのは我々だ」
もう一人が声をあげた
「隣村の地を奪うために戦うべきだ、我々の地であったはずなのに祈祷師が何もしないせいで奪われてしまった」
そうだ、そうだと多くの村民が声をあげた
・・・・
「死神様が救ってくださったんだよ」
祈祷師は少女の頭を撫でながら
「魂を正しく導いてくださるおかげで、迷う
事がなくなったんだ」
少女は無表情なまま祈祷師の話を聞いている
いつものように火を焚いていると、見知らぬ少女が炎を眺めながら佇んでいる姿に気が付いた
「どうしたんだい?もしや迷い子かい?」
訪ねても少女は何も答えなかった。ちらりと祈祷師に目を向けるがすぐに炎へと視線を戻していった
「こちらへおいで、親が見付かるまでここにいなさい」
村長にしては小さく土蔵のような住処に少女を案内した
食べ物を与えてもいくら話しかけても少女は何も答えず、無表情のままだった
(隣村からでも迷い込んだのだろうか)
少女は一生懸命祈祷師の手伝いをするようになった、元々いたお付きの者から火の起こし方を学び、より長く燃えるようにと薪の置き方を工夫していった
「お前はよく出来た子だね」
試行錯誤している少女の頭を撫でる、祈祷師は少女の瞳を気に入っていた。
炎を見つめるその瞳は真っすぐでとても澄んでいるように見えた
一方、村は祈祷師派と戦う派ですっかり二分していた
(このままではいけない、この子に、子供たちの行く末に影を落としてはならない)
祈祷師の願いとは裏腹に、狩場や畑を奪われた村の生活は苦しくなっていった
それでも戦う以外の道を探るべきだと祈祷師は村民を説得するために村中を歩き続けた
月が明るい夜、眠りについていた祈祷師は突然目を見開いた
隣で眠る少女を優しく起こすと、手を掴み隣の土蔵へと少女を連れて行った
祈祷師はお付きの者を叩き起こし
「逃げなさい、行きなさい」
と告げてから少女の頬に手を置いた
「死神様が救ってくださったんだよ、これだけは忘れないで」
少女は小さく頷いた、そして祈祷師が手で合図をすると、お付きの者は少女を連れて土蔵の外へと走り去って行った
しばらくすると土蔵に複数の足音が近付いてくる
祈祷師は月の光を浴びるために外へ出た、照らされている事を感じながらゆっくりと目を閉じ両手を胸の前で合わせた
「どうか人々に行く先を示す灯をお与えください」
その瞬間何本もの凶刃が祈祷師の身体を貫いた
消えゆく意識の中で少女の顔が浮かんでくる
(きっとあの子を救うために神様が私を起こしてくださったのだ、どうか私の代わりに、死神様に感謝を・・・)
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