第三話
昔々の又昔
人々は悩み苦しんでいた
亡くなった者たちの魂は彷徨い、悪霊となり生ある者を妬み、悲しみをぶつけるように襲い続けた
「苦しい」「寂しい」「なぜ助けてくれないんだ」「お前たちもこちらへ来い」
一人の祈祷師を頼りに人々は集まった
皆、薄汚い布を一枚身に纏っているだけの恰好なのだが、その祈祷師だけは綺麗な白い布で身を包み、葉で作られた冠のようなものを頭にのせている
「このままでは滅びてしまう」「子供達が育つ前に悪霊に連れ去られる」「どうすることもできない、どうか助けてください」
人々の声を聞いた祈祷師は大量の薪を集めさせた祈祷師は言った
「もっとです、もっと集めなさい。炎が天まで届くように。願いが天まで届くように」
ある者は木の枝を集めた、ある者は地面に生える草花をむしり取った、全ては我々の未来のためにと
集められた薪は積み上げられ、二メートルほどの小山となった祈祷師は付き人に火を起こすように命じると、集められた葉の中に火種を投げ込んだ
「まだ足りない、もっと火を起こしなさい。夜の闇に呑まれる前に、新たな魂の迷い子が生まれる前に」
何本もの小枝に火を付け薪で出来上がった小山の麓に巻かれた草花に放り込んだ
やがて火は徐々に大きくなり、ゆっくりと薪の小山を赤い炎が覆っていった
人々は手に持った薪を次々と炎の山へ投げ入れる
もっと、もっと、この炎が消えないように、我々の明日が消えないように
祈祷師は空へ上がっていく煙に向かって祈り始めた、葉の付いた枝が束ねられた道具を子気味良く左右に振りながら祈りの言葉を唱え続けた
「どうか魂の導きを、どうか道を迷わぬように、どうか人々に行く先を示す灯をお与えください」
人々は皆祈祷師と共に一晩中祈り続けた。夜が明け、太陽が空を白く照らし始めた頃に炎は役目を終えたように消えてゆく
それからはまるで嘘だったかのように悪霊は姿を現わさなくなっていった
亡くなってしまった者が悪霊になってしまうのではと恐怖に支配されていた人々は、安心して弔いを行うようになり、別れの悲しみに涙を流すようになっていくのだった
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