第二話

大地が揺れるような怒号の中に少女は立っていた


その少女は純白の着物に深紅の花が描かれた

着物を身に纏っていた、この時代にそぐわないような金色の髪と燃えるような赤い瞳をしている


青々とした草原は薄黒い赤へと変わっていく、悲鳴にも似た雄たけびを上げながら沢山の人間が物言わぬむくろへと姿を変えてゆく


ある者は首を刎ねられ、ある者は腕を失い


ある者は身体を貫かれ、太陽の恵みを受けようと地上に顔を出した小さな草たちにこれでもかと血を浴びせ続けた


喧騒の中少女は空を見上げる、雲は優雅に地上に影を落とし、太陽は地上で起きている事など意にも介さず光を照らす


少女の眼前に甲冑を着た大男が立ちふさがった、手に持った槍先からは血が滴り落ちている


男は構えた槍を少女に向けて突き出した槍は少女の身体をすっとすり抜け、背後に立っていたもう一人の甲冑男の腹を突き破った


腹に槍を受けた男は口から血を流しながら一歩一歩少女に近付いていくと、槍のお返しとばかりに手に持った太刀を振り下ろし、槍を持つ男の腕を地面へ切り落とした


腕を落とされ叫ぶ男の姿を見て、にんまりと笑いながら太刀を持つ男は地面に伏せた


(うるさい、うるさい)


少女は相変わらず空を仰ぎながら呟いた


(哀れなり、哀れなり、何故人は争うのか。ただでさえ一瞬で消えゆくはかなき命であろうに)


口元に笑みを浮かべたまま絶命している甲冑男の隣に膝を抱えるように腰を下ろすと

、手に持ったクナイのようなものでむくろとなった男の身体を斬りつけた


すると青白くぼんやりと光る小さな光の玉が男の身体から浮かび上がる、少女はその光の玉を掬うように手の平に乗せると、巾着袋の中へしまい込んだ


少女が切り付けたはずの個所には傷一つ付いていなかった


少女は立ち上がりもう一人いたはずの、腕を切り落とされた甲冑男に目を向けた


男は頭を垂れるように地面に突っ伏していたが、肝心の頭部はいつの間にかなくなっていた


代わりに赤い水溜りが少女の足元まで広がっている


少女はクナイを振った、浮かんでくる光の玉を掬い巾着袋へしまい込む


血生臭い風が金色の髪を揺らす、歩く先には幾重にも骸が積み重なるように道を作っている


少女は口元に笑みを浮かべた、綺麗な顔に似つかわしくないほど、それは見る者を委縮いしゅくさせるような不気味な笑みだった


「あはっ♪あんたの未練も後悔もまとめて狩り取ってあげる」


あかりは赤く染まった道を走り抜けていった

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