教えその4 賢者っぽいイメージの賢者なんていない
最初に現れたのはローブに身を包む少年……五番弟子のレツだ。
彼は賢者エイヴのおっかけだったので、今でも賢者エイヴと共にいる事が多い。
レツは扉の前に跪くと、口に笛を加えて腹に太鼓を構え、それぞれを高らかに鳴らした。
その後、ポカンとしている5人に向けて、レツは叫ぶのだ。
「賢者エイヴのおな〜り〜!皆の者!控えよ!」
「師匠!?」
「先生!?」
レツの背後から、一人の男が姿を現した。
ローブに身を包んでいるが、長身で細く痩せた体型。
髪も無精ヒゲも整えずボサボサで、歩き方はフラフラとしている。
しかし、その目つきだけは愉快げに、ギラついていた。
彼こそが賢者エイヴ。
5人の弟子を持つ、帝国最強の魔導師である。
彼は跪くレツの額を指ではじいて
「そこまでしろとはいってない」
「そうですか……」
額を抑えながら、レツは渋々と楽器を魔導で消した。
「さぁて弟子共!俺の帰還だぞ。で?」
「師匠!助けて!」
「ああん?一番弟子ぃ……お前さん自分で解決出来るだろこれくらいよ」
「そんな事無いよ!?今めちゃめちゃ困ってるよ!?」
「知ってる」
「コイツ……」
ケラケラと笑った賢者エイヴは、どこからともなく出した椅子にどかりと脚を組んで座り、目を白黒させるネヴィリーンに痩せた凶悪な笑顔で笑いかける。
「どうもお嬢ちゃん。皇帝の親友やってます」
「あ、はい!その……賢者エイヴ様ですか…?」
「そうだ。見えないか?よく言われる」
「あの……何も言ってないんですが」
「ふはっ、すまんすまん。んで?困ってるって?」
「はい、その……困ってます」
「だろうな」
賢者エイヴは、ローブのポケットから出した干し肉を齧りつつ魔導を展開した。
屋敷の床にドカドカと物が出現する。
デカい背嚢に、丸められたテントや布団、ランプに油、その他諸々。
旅支度に有益な物品ばかり。
これを見たアリルは頬を引き攣らせた。
「俺の弟子を貸してやる。弟子共、お前らはお嬢ちゃんの護衛としてしばらく動け」
瞬間、レツが猛烈に抗議を始めた。
「えっ。師匠、この不肖の弟子は師匠とは離れたくありません」
「お前さんはちょっと師匠離れした方がいい。だから行け」
「はい……」
レツの抗議は一瞬で終わった。
いつもの光景であるので、終わったタイミングでアリルが
「ちょっと待てや。何でオレらが行くんすかねぇ!?」
「こっちに魔導師がいるってバレてんだから敵だって魔導師を出すに決まってんだろ、二番弟子ぃ。『魔導師に対抗するなら魔導師』って原則を教えたのを忘れたか?」
「師匠がいけよ!」
「俺は用事があるし……それに弟子共にはちょうど良い状況じゃねぇか。少し揉まれてこい。試練だ試練」
「それネヴィリーン殿下の前で言う事か???」
「ああ、それもそうだな。ま、気にするな。失敗したら誰かが死ぬだけだ」
「大問題だよ!もっと何かないの!?」
「はっ。大体お前さんらが自分で持ち込んだ厄介事だろうが。皇女殿下を助けて厄介事にしたのも、呪詛返しで目を付けられてるっぽいのも自業自得だ」
「うぐぐ……でも助けて師匠!」
「面の皮が厚いなぁ?」
賢者エイヴはケラケラと笑うと、少し真面目な口調で
「まぁ実際な、俺に用事があるのは本当だから俺は行けねぇ。でも賢者エイヴが弟子全員を護衛として出したって事なら教団が帝室と敵対するって事はあるまい。俺はバリバリの現皇帝派閥だからな!」
「まぁ帝室に教団と敵対する意思が無いとは示せる……のか?」
「だろう?それに相手に魔導師がいるなら、魔導師を出すしか無い。この国の連中は対魔導はからっきしだから、護衛出してもまたやられるだけだ」
「教団の聖術は……」
「ありゃこういう荒事向けじゃねぇよ。サリャカの治癒魔導と根本は同じだ」
「そう言えばそんな話を昔された様な」
「それくらい覚えとけな。ああ、あとお前さんらが突き出した賊共、もう釈放されてるぞ」
「えっ、そうなんです!?」
「いやそりゃ……相手が高い政治権力を持ってるって事だよな……手を回せるくらいの」
「そう言う事。呪詛返しもそうだが、トドメ刺さねぇからお前らの事はバレてんぞ。この辺にいる魔導師ってのは俺と弟子共しかいないからな」
「でも流石に殺しは……」
「実力が足りてねぇのに甘っちょろい事抜かすな。賊を殺すのは罪でも何でもねぇんだぞ。事態を厄介にしてるだけだ」
「うぐぅ……あ、待って、賢者エイヴが助けに入ったって思われてる?」
「思われてるだろうなぁ。敵も俺を相手にする事を想定した構えでいるぞきっとな」
「マジかぁぁぁ………」
それ以上言葉も出なくなったサーナを、賢者エイヴは鼻で笑ってから、ネヴィリーンや他の弟子に向き直る。
先程までと違って、痩せた顔に笑いは浮かんでなかった。
「さてはて政治に疎い俺達が、下手に政治戦を挑んでも勝てない相手ってのは分かったな。でも一つだけ勝利条件はハッキリしてる。何だか分かるか?」
ネヴィリーンが、ハッとして答えた。
「わたくしが……陛下の元へ訪れる事……」
賢者エイヴは嬉しそうに親指をたててサムズアップをする。
「頭は悪くないな。そうだ、お嬢ちゃんを帝都に向かわせたく無い勢力がいるから、襲撃されるんだ。だったら、障害を全て退けてお嬢ちゃんを帝都に送って皇帝に謁見させれば良い……」
ニヤリと笑い、賢者エイヴは弟子達の手の中に、さらに荷物を出現させた。
「簡単だろ?」
これは絶対簡単ではない奴だな、と弟子達の心がこの時だけは一致した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます