プロローグ 2 少女――莉奈との出会い。









「はぁ……はぁ……っ!」

「ちょ、ちょっと……待って……!」



 公園から逃げるようにして飛び出し、しばらく。

 体力の限界もさることながら、女の子からストップをかけられた。ひとまず立ち止まり、俺たちは各々に呼吸を整える。

 街灯に照らされた道の半ば。

 そこに至って、ようやく俺は女の子のことをしっかりと見た。そして、



「え……?」



 思わず、息を呑む。

 だってそこにいたのは、どこかで見たことのある顔だったから。

 実際に目にしたわけではない。ただ確実に、毎日のように見ていると感じた。



「どう、したの……?」

「え、あぁ、いや! 気にしないでくれ!」



 しかし、それにしては幼いな、と。

 そう考えていると、女の子は不思議そうに訊いてきた。

 俺はハッとして、少し慌てながら答える。すると彼女は首を傾げ、しかしすぐに気持ちを切り替えるようにして言うのだった。



「えっと、その……ありがと」



 白く綺麗な頬を赤くしながら。

 女の子は金色に染めた髪を弄りながら、ちらりとこちらを見てきた。



「いや、それは気にしないで。ただ――」



 俺は首を左右に振りつつ、そう返答する。

 そして、気になっていたことを訊ねようとして――。



「…………いや。やっぱり良いや」

「え……?」



 彼女の表情を見て、やめた。

 本当は訊きたいことがたくさんある。

 先ほどの男性は誰なのか、キミみたいな子供がどうしてこの時間に――とか。一般的な大人であれば、訊かなければならないことが、いっぱいあった。

 そして、然るべき場所に連れて行くのが正解なのだろう。



「それより、ひとまず自己紹介だな!」

「じ、自己紹介……?」



 だけども、あまりに不安げな相手を見たらそうできなかった。

 そんなわけだから俺は、あえて笑顔を浮かべて提案する。すると想定外の事態だったのだろう。少女は困惑しながら、しかしゆっくりと頷くのだった。



「俺の名前は秋山聡! えっと……本日付で、無職になった!!」

「無職……!? どうして、そんな明るく言うの!?」

「過去は振り返らない主義だからだ!!」



 そして、俺はサムズアップしながら名乗る。

 思いのほか女の子は食いつき、しっかりとツッコミを入れてきた。そこに重ねるように断言すると、女の子は円らな目を丸くしてから……。



「ぷっ……! ふふふふっ!」



 思わずといった感じで、笑い始めるのだった。

 それを見て、俺は安心する。



「……よかった。やっと笑ったね」

「あ……」



 女の子はずっと、眉をひそめていた。

 暗い表情をしていたから、とかく心配で仕方なかったのだ。

 そんな彼女の笑顔を見れてホッとしたので、俺はまた自然に笑う。すると、



「オジサン、変な人だね……!」



 少女は口元を隠して笑いながら、そんなことを言った。



「な!? どこが変だよ!!」

「変は変だよ?」

「生意気だな! それに、俺はまだ29歳だ!」

「29歳なら、アタシからすればオジサンだよ? ふふふっ!」

「こ、こいつ~!?」



 くすくすと笑い続ける女の子。

 それに対して、地団太を踏んで抗議する俺。

 傍から見れば異様な光景だったが、彼女の気持ちが和らいでいるなら、それでも良いかと思うのだった。そうしていると、不意に少女は微笑みながら言う。



「……莉奈」

「ん?」

「アタシの名前、莉奈っていうの」



 穏やかな表情で。

 俺は少女――莉奈の顔を見て、しっかりと頷くのだった。



「そっか……。よろしくな、莉奈」

「……うん!」




 これが俺と莉奈の出会い。

 この時はまだその先に起こることなんて、想像もしていなかった。



 

 

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推しの妹が俺のことをパパと呼ぶ。~会社をクビになったから、駄目もとでアイドルのマネージャーに立候補してみた結果~ あざね @sennami0406

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