推しの妹が俺のことをパパと呼ぶ。~会社をクビになったから、駄目もとでアイドルのマネージャーに立候補してみた結果~
あざね
プロローグ 流れるようにクビになったんだけど……?
「……秋山。お前、クビな?」
「へ……?」
まるで追放もののように、あっさりとした一言だった。
俺はある休日の昼下がりに出社を命じられ、上司と一対一でクビ宣告を受けたのである。まさに突然の出来事、青天の霹靂だった。
しかし、俺も簡単には引き下がれない。
この流れは、きっと不当解雇に違いなかった。
しっかりと情報を集めて、労働基準監督署に申告しなければ……。
「こんなの、不当解雇――」
「いや、普通に業績悪化による人員削減だ。法に触れるような解雇はしないから、その点だけは心配しないでくれ」
「――え、マジで?」
「マジだ。仔細は追って伝えるから、期間内に転職先を探してほしい」
「……………………」
そんなこんなで、俺――秋山聡は、会社をクビになった。
◆
「はぁ……。これからどうするよ」
深いため息をついて。
俺は公園のブランコに腰かけ、ボンヤリと夜空を見上げていた。
スマホで時間を確認すると、すでに夜の9時を回っている。周囲に人気はなく、ただただ静けさだけがそこにあった。
ひとまず就職活動をするため、取れるだけの有休を取得することに。
しかし、いきなり就活しろと言われても腰が上がらなかった。
「いや、次の仕事を見つけないと生きていけないんだけどさ……」
とかく気持ちが追いつかない。
そう思って、俺はもう一度だけ深いため息をついた。そして、
「でも、どうせならチャンスにしないとな……!」
意図的にそう口にして、思い切り頬を叩く。
何事も前向きに捉えるべし。それが、俺の信条だった。
この苦難はきっと、次にくる幸せへの道に違いないのだから。
「さて、それじゃ――ん?」
そうと決まれば、早速アパートに戻って就活サイトでも見てみよう。
俺はブランコから立ち上がって、荷物を拾い上げた。
その時である。
「ちょ、やめて! 酒臭いんだって!?」
「なんだよ嬢ちゃん。ずいぶんな言い草じゃないかい」
「うるさい! 良いから離して!!」
まだまだ幼い女の子の声と、呂律の怪しい男性の声が聞こえたのは。
これは、なにかハプニングが発生したに違いない。
「急げ……!」
考えるより先、俺は声のした方へと駆け出していた。
そして、角を曲がった瞬間。俺の目に飛び込んできたのは……。
「あ、た……助けて!!」
「うぇへへ。良い匂いだなぁ……」
明らかに酔っ払った中年男性に言い寄られる、制服姿の女の子だった。
俺はすぐに彼女たちの方へと向かい、そして――。
「たしか、カバンの中に……あった!」
手にした荷物の中から、買ったばかりのミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。他を投げ捨てて、そのキャップを空けた俺は思い切り……。
「おりゃあああああああああああああああああああああああ!!」
「ぶばふ……!?」
酔った男性の顔面目掛けて、その水をぶちまけるのだった。
突然のことに驚き、少女から手を離す男性。その隙を見て俺は、女の子の手を掴んだ。そして荷物を回収しつつ、一目散にその場を後にする。
「あの、ちょ――」
「いいから。今は逃げよう!」
女の子の言葉はひとまず無視して。
俺たちは全速力で、闇の中を駆けるのだった。
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