推しの妹が俺のことをパパと呼ぶ。~会社をクビになったから、駄目もとでアイドルのマネージャーに立候補してみた結果~

あざね

プロローグ 流れるようにクビになったんだけど……?







「……秋山。お前、クビな?」

「へ……?」



 まるで追放もののように、あっさりとした一言だった。

 俺はある休日の昼下がりに出社を命じられ、上司と一対一でクビ宣告を受けたのである。まさに突然の出来事、青天の霹靂だった。

 しかし、俺も簡単には引き下がれない。


 この流れは、きっと不当解雇に違いなかった。

 しっかりと情報を集めて、労働基準監督署に申告しなければ……。



「こんなの、不当解雇――」

「いや、普通に業績悪化による人員削減だ。法に触れるような解雇はしないから、その点だけは心配しないでくれ」

「――え、マジで?」

「マジだ。仔細は追って伝えるから、期間内に転職先を探してほしい」

「……………………」



 そんなこんなで、俺――秋山聡は、会社をクビになった。







「はぁ……。これからどうするよ」



 深いため息をついて。

 俺は公園のブランコに腰かけ、ボンヤリと夜空を見上げていた。

 スマホで時間を確認すると、すでに夜の9時を回っている。周囲に人気はなく、ただただ静けさだけがそこにあった。


 ひとまず就職活動をするため、取れるだけの有休を取得することに。

 しかし、いきなり就活しろと言われても腰が上がらなかった。



「いや、次の仕事を見つけないと生きていけないんだけどさ……」



 とかく気持ちが追いつかない。

 そう思って、俺はもう一度だけ深いため息をついた。そして、



「でも、どうせならチャンスにしないとな……!」



 意図的にそう口にして、思い切り頬を叩く。

 何事も前向きに捉えるべし。それが、俺の信条だった。

 この苦難はきっと、次にくる幸せへの道に違いないのだから。



「さて、それじゃ――ん?」



 そうと決まれば、早速アパートに戻って就活サイトでも見てみよう。

 俺はブランコから立ち上がって、荷物を拾い上げた。

 その時である。



「ちょ、やめて! 酒臭いんだって!?」

「なんだよ嬢ちゃん。ずいぶんな言い草じゃないかい」

「うるさい! 良いから離して!!」



 まだまだ幼い女の子の声と、呂律の怪しい男性の声が聞こえたのは。

 これは、なにかハプニングが発生したに違いない。



「急げ……!」



 考えるより先、俺は声のした方へと駆け出していた。

 そして、角を曲がった瞬間。俺の目に飛び込んできたのは……。



「あ、た……助けて!!」

「うぇへへ。良い匂いだなぁ……」



 明らかに酔っ払った中年男性に言い寄られる、制服姿の女の子だった。

 俺はすぐに彼女たちの方へと向かい、そして――。



「たしか、カバンの中に……あった!」



 手にした荷物の中から、買ったばかりのミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。他を投げ捨てて、そのキャップを空けた俺は思い切り……。



「おりゃあああああああああああああああああああああああ!!」

「ぶばふ……!?」



 酔った男性の顔面目掛けて、その水をぶちまけるのだった。

 突然のことに驚き、少女から手を離す男性。その隙を見て俺は、女の子の手を掴んだ。そして荷物を回収しつつ、一目散にその場を後にする。



「あの、ちょ――」

「いいから。今は逃げよう!」



 女の子の言葉はひとまず無視して。

 俺たちは全速力で、闇の中を駆けるのだった。



 

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