トライアングラーズ

もぎたて

第???話 One Night

「早瀬キモイ」

「どうせいつもキモいから知らん」


いつも通りに軽口をたたく。

何であたしが早瀬相手に緊張しとるん。

緊張?

緊張じゃないかも。

じゃあ何?

照れかくし?

マジで?

キモ


「寺島姐さん、なんか顔が難しいこと考えとる顔になってるで。」

「早瀬の顔よりましだわ。」

「なんで俺そんな罵詈雑言言われなあかんのかね。」


この軽口がいつものあたしに戻してくれる。

早瀬に軽口を吐ける、普段のあたし。

でも今からはその早瀬に奪われる。

いつものあたし以外の乱れた姿も奪われる。

早瀬しか知らないあたしがさらに増える。


「じゃあ姐さん、ちらっとアイマスク付けてもらってもいい?」

「え、いいけど、なんかキモイ。」

「いやいやそう言わんと。俺の顔見えん方が良いでしょ、キモいんやから。」


早瀬の軽口がありがたいし、この配慮もありがたい。

なんかこいつ女の扱い慣れ過ぎじゃない?童貞やと思っとったんに。意外と女で遊んどるんけ。


「じゃあ、ちょっと話聞きながらリラックスしといてな。

人間の五感というのは、視覚がほとんどなんよね。

つまり目から入る情報がほとんどなんよ。姐さんもその辺は分かっとると思うけど。」

「は!早瀬今うちのことバカにしたやろ。お前よりも知っとるわ。」

「まあまあ、今はケンカ腰にならんと少しくらい聞いといてや。

で、普段は視覚情報が多いということは、逆に言うと視界が失われるとどうなるか。

これは自明の話で普段よりも他の感覚器官が鋭敏になるわけよ。たとえば」

「ひゃっ」


わたしのあご元をいきなり早瀬が触った?見えないから予想できないし、びっくりした。


「ごめんごめんびっくりさせたな。でもこの「びっくり」は、本当にいきなり触られたことによる驚きだけかというのが問題なのよ。」


わたしの心臓が信じられんくらいバクバク言ってる。聞こえるわけないよね。聴診器であの程度なんだから、胸に耳あてないと聞こえないよね。


「今触った時、驚きだけやった?ぞくっとするとか、くすぐったいとかなかった?」


「ぇーっ、………っん!……ちゅっ……んんっ…………んはぁ……」


返事をしようとした途端に早瀬の舌があたしの口に入り込んできた。滅茶苦茶びっくりした。


「大丈夫、喋らんくてもええで。恥ずかしいやろうし。本当の言葉が出るとも限らんし。躰の反応見てるから。」


え、てかなんでそんな慣れてんの。マジで?こんな完全に受け身で弄ばれるの?あたしが?早瀬に?

あ、ちょっとそこは…………。


「姐さん、脈拍凄いよ。しかも結構聞こえるよ、心音。この部屋が無音やから仕方ないにしてもドキドキしすぎじゃない?」


なんで胸元に耳当てるのかな。

一番知られたくないことバレた。ウザ。キモすぎ。


「じゃあ続き話すな。

まず、触られてぞくっとするとか、くすぐったいとか感じるような場所は、性感帯になりやすいというのがあるのよ。

今回は目隠しをしてもらっとるもんで、より触覚が敏感に感じるから、普段は何とも思わんところもその敏感さゆえに性感帯として認識しやすくなっとるというわけ。

やからこれからしばらく姐さんの躰を触って性感帯を見つけていくで。

声は我慢できても躰の反応は出てまうと思うから、もう我慢せずに全部出しちゃったらいいと思うで。

恥ずかしがらんくても、もう全部出てしまっとるわけやから、これからも出してこ。」


「じゃあ順番に喋りながらいくな。びっくりさせたらごめんよ。」


そう言って早瀬の声が少し近づく。人にものを教えるときのように優しい丁寧な口調。聞きやすい。

って、なんでだから早瀬にこんなこと思わなあかんの。

悔しいな。

早瀬相手ならアドバンテージとれると思ったのに。


「まずは肩からね。ゆっくり腕から指先まで行って、また肩まで戻るよ。」


肩近くのベッドがへこんだ気がする。早瀬がそこに手をついてるのかな。

距離は、分かんない。でもゆっくり近づいてくる。


「あと1cmくらいで触れるよ。」


え、本当に1cm?もっと近くに感じる。でももうそんなところならいつ触れてもおかしk……


「ひゃっ」


触れられたことに驚いたけど……嫌な気分じゃないかも。早瀬も少しくらいやるやん。

くすぐった……くもない……。やっぱり早瀬にあたしを気持ちよくするなんて100年早かったかな。


早瀬の手が両肩から肘まで降りる。

さっきまであんなに喋っとったのに全然喋らんやん。ムードもなんもないやん。しょうがないわ。

こんなんじゃ気持ちよくならんよ、うち。


肘から手首。

手首の辺りは少しぞわっとするけど、まだ大丈夫。でも指先は…………結構ヤバい?


手首から指先。

「っふぅ……。」

思わず声が漏れる。指先は……ちょっと気持ちいいかも……。

てか全部の指順番に触るやん。

中指

人差し指

親指

小指

くすr……中指


薬指飛ばしたの?わざと?


人差し指

親指

こゆb


「んっ……」


薬指


「ごめんな。ちょっとびっくりしたな。今のは脳のバグをちょっと使ったんやけど。

順番通りに事が進み始めると、脳は勝手に予想を立てちゃうのよね。

中指、人差し指、親指、小指。じゃあ次は薬指だよねと。

で、ここであえて薬指を外して中指に逃げることで”焦らされた”状態を再現できるのね。

で、また中指、人差し指、親指とくればさっきの経験則から小指に来るはず。

そんな状態で薬指に行くと、ちょっとしたパニックが起きるし、焦らされた分の戻りもあるもんで、より気持ちよくなるってわけ。

今いろいろ説明しちゃったけど、どうせ触られてる間にそんなこと思い出せんから、これからも使っていくで。

そういうことなんやなって思っててね。」


指を触られただけで反応するの?あたし?

指を触られただけで感じてるの?あたし?

指を触られただけで声漏らすの?あたし?


「じゃあ次は手の平ね。手の向きを逆向きにできる?手のひらを上に向けてね。そうそう、イイ感じ。

で、腕も少し横に広げれる?俺の手が腕と体の隙間を通れるくらいに。お、いい感じ。

じゃあ触っていくね。指先から肩まで行くで。」


手のひらの中央に早瀬の指先が下りる。

くるくると円を描くように早瀬の指が走る。たまに速く、たまに遅く。丁度じれったい。

くすぐったいけど、くすぐったいというよりもなんだかじれったい。もどかしい。


親指

小指

人差し指

中指


ひと段落したつもりなのか手のひらでまた円を描いてる。


中指がくすぐったい。

あ、もしかして性感帯ってこと?

あたし、指が性感帯になるの?ヤバ。


また親指に早瀬が走る。

親指

小指

なかゆび

人差し指


また手の平の中央で円を描く。

そのまま手首へ。

手首から肘。

肘から脇をかすめて肩へ。


スタート地点へ戻ってきた。

この一往復だけでもなんだか疲れた。

この一往復でどれくらいバレたのかな。


「あ、忘れてたわ。」

「んあぁっ……。」


早瀬が久しぶりに喋ったと思ったらあたしの薬指に電気が走った。

とにかく、そう感じた。

指を撫でられただけなのに。


多分びっくりだけじゃない。

さっき薬指だけ分かりやすく避けてたのはわざとだったんだ。


「ごめんごめん、忘れてたわ。甲側であまりに感度良かったから、平側では薬指だけ焦らしてたのすっかり忘れてた。」

「…………ぁ……」


反論しようとしたけど、あまりの気持ちよさに声が出せなかった。

あと……さっきあたしがしゃべった時の……その……キスを……思い出しちゃって……キスしてほしいみたいに思われるとウざいから。

口は開いたけど、息が漏れただけだった。


「じゃあ次は肩から上にいこうか。顔の周りね。」


半開きだった口のことはバレてなかった。良かった。

またキスされちゃったらもうそろそろ溺れちゃう気がする。早瀬に。悔しい。

次からはたぶん我慢できる。


肩から鎖骨。

骨を触られても気持ちよくはないでしょさすがに。

うん大丈夫。気持ちよくない。


鎖骨から首。

目隠し状態で首触られるのって、ちょっと怖い。別に早瀬があたしを殺すとは思ってないけど、さすがにちょっと怖い。

でもくすぐったい。


「……んふっ……んっ…………。ふぅ……。」

首元からあご。

最初に触られた時よりも……気持ちいい……気がする。


あごからくちびる。

リップ馴染ませるときには触るし、キスするときに舐められることあるけど、指でこんな触られ方したのは初めてかも。

なんか気持ちいいかも。


くちびるからほっぺ。

あごほど声は出ないけどくすぐったい。でも気持ちいい。もっと触ってもr……早瀬にそんなことお願いするとかキモすぎ。


長くない?ほっぺ長くない?そう体感してるだけ?気持ちいいから、別にいいけど。

って……


「んっ……ちゅるっ…………ちゅぱ……んっ…………んん…………んっ…………。」


油断してた?

緩んでたかな?

半開きだったかもしれない口に早瀬の舌がねじ込まれる。

でもさっきまであたしを触ってた手つきと一緒。

ゆっくりねっとり、しすぎじゃね。

女性用AVみたいな感じ。

あ、だからこんな風に気持ちいいのかな。

えっ早瀬そういうAV見たことあるの?

キモ。


「ふゎっ…………ん…………ん……んっ……ちゅぷ…………んんっ……。」


上あごを舌でこすられる。

くすぐったくて声漏れた。

でもまた早瀬の口で押さえつけられる。

逃げられない。


「んふ……ん…………んんっ…………ちゅぷ…………ちゅぱ……んんっ……ちゅるっ……ん……。」


耳を触られる。

ちょっとびっくりしちゃった。

また声が漏れたけど。

それよりも

今のですごい濡れた気がする。

恥ず。


「ごめんごめん、あまりに姐さんの口が誘っとるように見えたもんで思わずキスしてしまった。」


早瀬の癖に気持ち悪い言葉を遣いなし。

頭撫でながら話すなし。

早瀬が触れていい髪じゃないじ。

髪崩れたらマジで許さん。


「じゃあ次は首から下に行くな。」


ついに早瀬の手が私の胸に、そして……あそこに、触れる……。

怖い。

あごやほっぺでこんな風に感じるあたしがあそこを触られたら。

結構やばいんじゃない?


首から鎖骨へ。

鎖骨なんて大したことない…………はずだったのに…………。

さっきは何ともなかったのに、胸を触られると思うとちょっと緊張する。

くすぐったいわけでもないけど、なにこれ。


鎖骨から胸へ。

ついに触れられる。あたしと早瀬の禁忌。こんなとこ触られるようになるとは思ってなかった。

胸の膨らみに指が伸びる。ゆっくり円を描いて胸を撫でていく。

小さいけど、乳首は綺麗なんよあたし。

って早瀬に自慢してどうするん。

…………昔早瀬にそんなこと言ってからかったことあった気がする。

まさか早瀬に見られる日が来るとは思わんかったけど。


ゆっくりゆっくり指で円を描いて、頂上を目指す早瀬。

今どこまで触ってるの?

じれったい。

もう乳輪間近じゃない?

もう乳首じゃない?

もう触られるんじゃない?

もう少し。

あと少し。

あと一周。


…………あれ。

…………来ない。

…………降りてる。

…………乳首に触れてくれてない。


またさっきと同じ方向に円を描いて、でも進む方向は外側に向かって。

なんで?

なんで触ってくれないの?


どんどん外へ外へ。

私のもどかしさや蟠りだけを置いてきぼりにして、早瀬の指はまた鎖骨まで戻る。


「どう?もどかしかったでしょ。気持ちよくなりかけてたでしょ。

きっとね、「違う」とかいうと思うんやけどね。

こっちとしてはこんな姿を見せられてしまっては、焦らされてることに興奮してるとしか思えんのよね。

だって姐さん、口は半開きやし、呼吸は荒く大きくなってるし、上半身を反らせてまるで乳首を触ってほしそうにするし。

……あと気づいてないかもしれんけど、あそこぐしゃぐしゃに濡れとるで。」

「んんん……ああああぁぁぁあああ!!!」


今日一番の声が出ちゃった。

信じられんぐらい恥ずかしい。早瀬にこれを見られたと思うとメチャクチャ恥ずかしい。


早瀬の手があたしのあそこに触れた?はず。

目隠しされてても分かる。

早瀬の手が当たった瞬間に周りに水気が広がるのを。おしりの方に水気がしたたり落ちていくのを。


「別にいいよ、悪いことじゃないから。むしろいいことやと思っとる。俺の手が姐さんを気持ちよくできとるかと思うとよかったと思うよ。俺も一安心よ。」


少しだけ声が近づいて、髪をなでてくる。

ふわっとする。

顔が近い……気がする……。

早瀬の息が当たってる気がする。臭……くはないかも……ギリギリ……。ギリギリね。


「俺ね、ちょっとだけ思ったんやけど。」


早瀬の声が結構耳元で響く。思ってた場所と違うところにいた。てか、耳元で話すなし、キモイ。


「姐さんって、結構。というか相当敏感な方やと思うんよ。とすると、こういうところも性感帯かもしれんなと思うんやけど。

姐さん、少し口開けてみて。大丈夫キスせんから。」


キスじゃないんだ……。

言われるがまま口を少しだけ開ける。


「いいね、その調子。でももう少しだけ口開けれる?そうそう。で、そのまま舌を少し外に出してみて。」


これ以上口を開けるのは結構頑張らなあかんのやけど。

舌を出すの?ちょうどいいわ。あっかんべー。

早瀬なんてキモイ。超キモイ。


……一応、少しだけ舌をだs


「んんっ!」

「捕まえた。姐さんの舌。さっきキスした時、特に上あごを舐めた時の反応が凄い良かったからもしかしたら姐さんって口の中が性感帯なのかと思ったんよね。ちょっとしばらく触るね。」


早瀬の指があたしの舌をこする。親指?と人差し指?二本の指で挟んでしごいてこすってくる。

早瀬の指の味がする。キモイ。


舌から指が離れたかと思ったら、すぐに口の中に入ってきた。

下あごをこすられる。舌の下。何度も何度も左右に往復してくる。


「んふっ……」


上あごに指が伸びてくる。思わず声が漏れる。

我慢し損ねた。だってこんな声出ると思ってなかったから。


「やっぱり姐さんは口が弱いね。じゃあこのまま俺の指をしゃぶってて。チ○コをフ○ラするようにお願いね。」


早瀬の指があたしの口の中でピンと伸ばされる。

仕方なく舐める……。仕方なく…………。


「ちゅっ……ちゅぱっ……ちゅる……………じゅるっ……ちゅぱっ…………ちゅぷ……んっ……んふっ……ちゅぱっ……」


指の腹。

少し丸い。柔らかい。舐めやすい。

ん……でも……早瀬爪伸びすぎ、少し舐めにくい。


爪。

硬くてつるつるしてる。舐め心地は……いいかも……。爪と指の間とか。


指の中央らへん。

少しざらざらする。腹側は舐めやすいけど、背側は長くて舐めにくい。あとめっちゃ爪が引っかかる。爪切れし、早瀬。


また指の腹。

少しふやけたかも。ちょっとしわくちゃ。早瀬らしい。おっさんくさい早瀬らしい。ざまあみろ。


「……ジュルル……ジュプ……じゅちゅ……ちゅぷ…………んんっ…………じゅぷっ…………。」


指が抜かれる。

一通り舐め切ったから?

また髪に手がのせられる。撫でられる。


「姐さん凄い良かったよ。すごいエロかった。すごい音出るし。」


頭を撫でられながらそんなこと言われても、全然響かんし。あたしそこまでちょろくないし。


「じゃあさっきの続きにしよか。順番にまた姐さんの躰を触っていくな。胸元から足先まで行くよ。」


早瀬の手がアンダーに触れる。胸の輪郭をなぞるように、アンダーをなでる。


アンダーからおへそ。

別にくすぐったくとも、何ともないけど。

執拗に触られると、くすぐったいのかもしれない気分になる。


おへそから真下。あそこへ…………。

ちょっとさすがに無防備すぎたから処理しきれてない。あそこの毛。

なんかシャカシャカ触られてる。キモすぎ。

あ、急に肩の近くが揺れて……


「んんっ…………んっ…………んちゅ……ん…………んふっ……ちゅぱ…………んんんっ…………ちゅるっ…………んちゅ……。」


くちびるが覆われた。

舌がねじ込まれた。

あたしの舌が早瀬に見つけられて、絡めとられる。


「んんんーーっ!んっ…………んちゅ…………ちゅぱっ…………ずちゅ…………ちゅ…………ちゅる……んちゅ…………ちゅぱ…………。」


……そのまま上あごをこすられる。

……軽く……イったかも…………。もう…………イったかどうかも…………よくわかんない…………。

ふわふわしてる…………。


キスされたまま、早瀬の手が縦横無尽に蠢く。


アンダーヘアから鼠径部。

あそこの近くだから、ぞわっとする。今のままで触られたらどうなるんだろう。

怖い。けど、早瀬なら…………。


鼠径部から内もも。


あそこには触れてくれない。さっきは。胸を触ってくれた時には、あそこを触ってくれたのに。なんで今は触らんの。マジで。

あー違う。触ってほしいとか思うのは違う。違う。

うざい。早瀬はやっぱりうざい。こんな風に思わせてくるの。早瀬の癖に。ウざい。


少しくすぐったい。普段人に触られる場所じゃないし、触られる可能性なんて考えたことないから、ちょっと緊張した。


内ももからふくらはぎ。

腕と同じ。ここまでは大丈夫。次来る場所に神経を集中して、声を漏らさないように。


ふくらはぎから足首。

くすぐったくて…………気持ち…………いい…………。

なんで?なんで気持ちいいの?


「ひゃっ!」


足首から踵から足裏から指先。

さすがに足裏はくすぐったい。予見しててもくすぐったい。早瀬じゃなくてもくすぐったい。

足の指先は、手の指先よりもくすぐったくない。

でも足裏に指が走るとそのたびにくすぐったい。


足の甲からくるぶしから脛から膝から太ももから腰から胸。

こっち側はあんまりくすぐったくない。


「これで躰を一周したな。じゃあ次はうつぶせになってもらえる?反対側もやるよ。」


気づいたら早瀬の口が離れてた。キスが終わってた。

体がなんとなく熱い。

早瀬に言われたからうつぶせにならなきゃ。

体がなんとなく重い。

早瀬に言われたのに動けない。急がなきゃ。


「慌てんくていいよ。時間は無限みたいなもんやから。ゆっくりでええから。」


早瀬の言葉に力が抜ける。

そっか慌てんくてもいいんや。

もぞもぞと体勢を変える。

仰向けからうつぶせに。

全部見られてた恥ずかしい状態から、全部隠せる安心した状態に。


「じゃあさっきと同じように触っていくな。

でも最初に姿勢を決めてしまおうか。さっきみたいに途中で指示すると萎えちゃうやろうから。

腕は軽く開くくらいで。少し体から離れるくらいでいいよ。そうそうそれくらい。手は平を上に向けようか。そうそう。

足も軽く開いてくれる?肩幅くらいのイメージかな。俺の手が難なく通れる程度に。そう、それくらい。いいね。準備はばっちりやね。

じゃあまずは肩に触れていくで。」


最初と同じ。

肩の近くのベッドがきしむ。早瀬が手をついた場所。そこからゆっくりあたしの肩に近づいてきて……


「んっ……ふぅ……」


触れる。

気持ちがいい。温泉につかったときみたいな気持ち。

って、うつ伏せなら喋っても早瀬にキスされずに済むやん。

これで喋れる。


「ねえ早瀬。」

「ん?どうした?」


喋れるとは思ったけど、喋ることない。

どうしよう。なに話そう。


「いや。なんでもなぃ…………。」

「ん?もしかして姐さん喋りたかった?…………ごめんな、我慢させてまって。じゃあこれからは会話しながらやろうか。」


これはこれでよかったのかな?

でも会話しながらなら

いつもみたいな軽口が言えたら

いつもみたいな悪口が言えたら

あたしももう少しは早瀬の言いなりにならんかも。


「じゃあ喋りながら触っていこうと思うけど、一つだけ約束してもいい?」

「別にいいけど。何?」

「これからは本当のことだけ喋ってね。嘘ついたらだめよ。」

「え、なにそr……」

「じゃあこうしようか、一回嘘つくごとに一回いじわるされるってことでいくか。」


あれ、なんかうち、墓穴掘った?


「もちろん、俺が嘘ついとると思ったら、姐さんから俺に一回いじわるしてもいいよ。」


それなら平等…………。よし、早瀬のぼろ見つけてぎゃふんと言わせたる。


「じゃあ手離してまったらから、もう一回触れるところから始めるで。」

「……………………。」

「喋れるってなったのに、無言でおられるとそれはそれで不安やな。まあいいけど。」


めちゃくちゃ無意識に口閉じてた。

あたし早瀬にしつけられた?やば。なんでこうもうざいのかな、早瀬は。


「まずは、肩の近くに手をつくでな。大丈夫?怖くない?」

「…………怖くない。」

「ゆっくり手を近づけていくでな。今5cmくらいね。4cm。3cm。2cm。1cm。」

「……………………。」

「触るよ。」

「んんっ。」

「…………気持ちよかった?」

「………………。」

「気持ちよかった?」

「…………きもち…………ょかった。」

「よかった。なら安心したわ。じゃあ仰向けの時と同じように腕から触っていくで。」


少し早瀬が怖かった。

気持ちよくないって言ったら何してくるか分からんくて。

少し早瀬を考えた。

気持ちよくないって言ったら何をしてくれるんだろうって。


「肩から二の腕を触るよ。」

「んっ…………」


早瀬の細かい指図が聞こえる。

二の腕の、普段は太陽さえも見れない部分。一番日に焼けない部分。一番敏感な部分?

思わず声が漏れる


「気持ちよかった?」


案の定早瀬に問いただされる。

抜け目なくてキモイ。私の声全部聞いてるやん。キモイ。


「……気持ちよかった?」

「ちょっとだけ…………」

「ちょっとだけ……、何?」

「ちょっとだけ…………きもちよかった…………」

「それならよかった。」


早瀬の手が髪をなでる。なんかあると早瀬はすぐに髪を触る。


「髪触られるの気持ちいい?」


意味わからん質問してきた。イケメンに触られたら気持ちいいわいね。神木君とか。


「気持ちよくはない。」

「あらま、まじか。」


適当にあしらったつもりやったけど、なんとかなったみたい。


「じゃあ、俺に触られるのは好き?」

「はあ?」

「いや、俺に髪触られて抵抗したり嫌がったりせんから、好きなんかと思って。」

「好きなわけないわいね。キモイ。キモすぎ早瀬。思い過ごしも甚だしいわ。」

「じゃあ聞き方変えるわ。」

「えっ?」

「俺に髪触られるの嫌?」


気づいたときには遅かった。

この質問されたらなんて答えたらいいの?

嫌?

嫌ならとっくの昔に振りほどいてる。

だからこれは嘘になる。

早瀬から見たら嘘になる。


嫌じゃない?

嫌じゃないわけない。

早瀬に髪触られるなんて本当にキモイ。

髪は女の命なんよ。


じゃあなんで?

じゃあ何であたしは……

……早瀬の手を振りほどかないの?


嫌じゃないの?

本当に?


「姐さん?」

「……………………」

「姐さん?…………答えられる?」

「……ごめん…………ちょっと待って。」


早瀬の手が止まる。初めて訪れる静寂の空間。

自分の心と相談する。

髪を触られるのは嫌?


考えてる間ずっと撫でられてたけど…………嫌な気分ではなかった…………。

嫌なのに。嫌なはずなのに。嫌じゃなかった。

どっちが本当?


「ごめん、姐さん。」


早瀬が謝ってきた。


「ごめん、そこまで思いつめさせるつもりはなかったんよ。いつも通りの会話の流れで「嫌いに決まっとるやろ」って言われて「すまんなすまんな」って言えればいいと思ってただけやったんやけど。」

「……………………。」

「髪撫でるのは控えめにするな。他はいろいろ触るけど。」


早瀬の手が髪から離れる。肩の近くに手をついたっぽい。ベッドがきしむ。


「じゃあ続きをさわt」

「嫌いじゃない。」


『えっ?』


早瀬が驚く声とあたしが驚く声が重なった。


「…………じゃあ…………触ってもいい?」


いつの間にか口が勝手に答えてた。

嫌いじゃないみたい。

早瀬に触られるのは嫌いじゃないみたい。

早瀬の手が髪から離れるときに少し寂しかったから。少しだけね。


「別に、ずっと嫌がってなかったんやから。察しろし。そういうところが女受けが悪いところなんよ。」

「申し訳ねえな、さすがにこのあたりのデリケートな部分は俺だって繊細になるわ。」


そういいながらまた早瀬の手が髪に触れる。

さっきよりもゆっくりとした手つき。

ゆっくり、感触を確かめるように撫でてる。


「姐さんの髪、少しバサッとしとるけど」

「うるさいげん、そういうことを言うから嫌わr……」

「でも撫でとる俺も気持ちいいわ。撫でとるだけなのにな。不思議なもんや。」


そんなしんみり言われたら……ふざけにくいやん……。

ふざけてこの空気感変えて、いつものからかってばっかのあたしのペースにしようとしたのに。

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