黙示録 -θ
ふわふわとした白い綿毛が、雪のように舞う。
ゆっくりと、
シーナは、ゼドに導かれ、屋根の上に登っていた。素焼き瓦が帯びた夜の冷気が、裸足に滲み入る。
箱入り娘のシーナにとって、木よりも高いところに登るのは、初めての体験だった。幹にしがみつけば、「危険ですから」と、抱え上げられ、節に足を掛けようものなら、「はしたない」と説教を聞かされてきた。
そんな息苦しい生活から解放され、今、彼女は自由を手にしていた。
瞳を閉じた時には存在感を放ち、脳内を飛び交っていた雑念は、瞬く間に萎んでいって、雪のなかに吸い込まれていった。
「これは……?」
手を伸ばせば、綿毛は指先と
「
「カビ?」
「正確には、
夏の執拗な暑さを拭い去る、浮世離れした清涼な景色は、その陰惨な背景さえ知らなければ見事な
「カビが降っても、街はカビだらけにならないのね」
「インフェルノの土地は酸を含んでいるからな。表面的には、胞子が土に落ちた瞬間、雪のように溶けてなくなるように見える。でも実際は、
「大地には良くないこと、なのよね?」
「当たり前だ。ヘヴンは、垂れ流される汚染水で酸性化した土地と、胞子を吐き出し続ける菌の温床を遺していった。養分を使うだけ使って、
ゼド、貴方は何を考えているの──。
鉄のような仮面の奥で、ゼドはヘヴンを心底軽蔑しているように思える。低俗な行為に
シーナは怖い。檻の中にひた隠された、彼の核心に触れた途端、何かが弾け飛んで、シーナの指先を
白夜の光を溶かし込んだゼドの灰銀髪が、
少年らしからぬ、
「お前の住む
今は白く華やかな神殿も、石灰で舗装された広場も、街中に張り巡らされた水路も。全て、死屍の大地の上に創りあげられた、美しい世界の
「私は、どうしたらいいのかしら」
シーナがゼドを呼ぶ。ゼドがシーナに顔を向ける。
「私に教えて。この世界で何が起こっているのか。こうかいなんて、しないわ。だから、教えて欲しいの」
真実を。
「知れば、戻れなくなるぞ」
「いいわ」
「懐疑に取り憑かれた者は、必ず
「望むところよ」
シーナは固く誓った。
これからどんな苦痛が心身を打ち据えても、こうかいだけは、絶対に、しない。
「わかった」
あっさり了承したゼドに、願い乞うたシーナの方が
ゼドは、どこか期待をしていた自分を認めねばならなかった。
清純な彼女が、その可憐な口許を穢れた水で
真っ白な
「俺が、教えてやる。一度誓ったからには、泣こうが
空間が、時計の針を回すことを
第一章 【黙示録】 了───
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます