最終話(第13話) 最果ての地で


――さて、こんな感じで俺たちの旅が始まった。


 この後、本物の盗賊が現れ戦闘に入ったが、キユをメンバーに加えたのは正解だった。

 俺らが攻撃するよりも早く盗賊3人をぶった切り、相手もそれで畏怖して蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。

 これでナナバも完全に力関係を理解したのか、これ以降キユに噛みつくことはなくなった。


 メローとは白き聖城の共和国まで旅を続け、そこの正門前で別れた。


 メローの目的地がその共和国だったからだ。ここなら盗賊の心配はない。

 彼は俺らともう少し旅を続けたかった様だが、そもそも彼を安全な所まで護衛するのが目的だったのでそれは断った。

 とりあえず護衛代金金貨3枚を受け取り、俺らは門をくぐることなく彼を見送った。

 彼は別れ際に、再び俺の元に戻り俺の手を握り締めた。


 「俺の名前はメロー……フェルナンデス=メローというんだ。もし気が向いたら俺の所に来てくれ。ここの住民なら俺の名前を出せばどこに住んでいるか知っているハズだから」


 彼はそう言って門の奥へと消えていった。

 実は彼とはその後、何回か会っているが、ソレは別の話。


 それにしても、この世界は青い空が延々と続いている。

 俺らはどこまでもどこまでもこの世界を歩いて行くだろう……



 

 それから1年後――




 俺はナナバやバーナードの生まれ故郷にいた。

 『バザック』村である。

 ナナバらと一緒にキユの親父アドカボからその地区の管理者として派遣された。

 ナナバとバーナードはバザック村の東西を管轄。そして俺は村の最果ての放棄された『バル』という地区を管轄することになった。

 一見すると、俺はしょぼい土地を任されている。

 キユも「もう少し良い役職につけてやれよ!」とアドカボに抗議していたが、俺はそれで構わないと思っている。



 ――なぜ次の仕事を管理者としたか。



 それは俺の気まぐれからだ。

 悪魔の所業をしたし、冒険者みたいなこともした。

 地に足を付け、何かの職業もしてみようと思ったが、あいにく戦争が始まってしまい、落ち着いて仕事も出来る時代ではなくなってしまった。

 だから、今度は傭兵だと思った。

 そこでキユの父であるアドカボに志願して傭兵となったのだが、どうも俺は彼から好かれていない様で、ここの『管理者』という名目で飛ばされた訳だ。

 ただそれだけ。



 ――では、何故『バル』地区を受け持ったのか。



 たまたま受け持つ事になったバザック村にはバル遺跡があった。

 そこには俺がいた世界よりも遥か高度な文明が存在していた様で、それらが遺跡として地下に眠っている。

 次の仕事を傭兵としたが、結局の所閑職に追いやられてしまったので、余暇を利用して考古学の研究をしたいと思った。

 そもそも俺の記憶の中にいるヤツらは学者が多い。そう感じたのかもしれない。

 だから、これは俺の趣味ともいえる。

 喜んでこの辺境地を受け持つことにした。

 

 「本当にこんな土地がいいのかよ」


 バーナードが呆れた表情で俺を見る。


 「でも、ここって最前線の地区でしょ?」


 ナナバが苦笑いしている。

 そうだ。

 実はここは一番危ない地区である。

 この先の草原を越えると『緑の杜人』の集落へと続く。

 あそこはすでに共和国に占領されている。



 ――いずれにしても、早かれ遅かれヤツらはここへ攻めてくる。



 でも、こんな楽しいことはない。

 ナナバやバーナードからしてみたら『いい迷惑』だろうが、俺としては遺跡の発掘と傭兵稼業を同時に体験出来るのだから全く問題はない。

 

 それにしても、彼らもこんな俺に付き合う必要はないのに……


 俺はどこまでも続く草原をジッと見詰めていた。




――それから、また1年が過ぎた。




 美しかったあの草原は、赤く焼けた岩場と化し草一本も育たぬ荒れ地になった。

 そこには新たに大きな石版が立てられ、ちょっとした観光地になっている。

 最果ての村だった『バザック』は『バル』地区と統合され『バルバザック市国』として今に至る。

 かつての遺跡都市は、それも今は昔となった。

 俺の読みは当たった。

 ここには、ここの住人が理解出来ずとも、異世界の俺が理解出来る技術がたくさん眠っていた。

 それを俺の錬金で忠実に複製することで再現出来る。

 色々な機材が生み出され、その結果街を大きくなった。

 俺が作り上げた市国はまだ発展途上であるが、今や青い連中のどの集落にもない大規模都市である。


 また、大きく様変わりしたのは都市だけではない。

 まずは兵力。


 あとで説明するが『バル地区攻防戦』の終了後、俺を慕って入隊する者が殺到した。

 どうやら俺の噂を聞きつけ、青い連中の集落から次々と若者らが集まった。

 その数、1000人前後。

 兵の錬成については割愛するが、一番必要なのは彼らが扱う兵器である。

 幸い、水やレアメタルや鉄鉱石、化石燃料などの資源はそこらにゴロゴロとある。

 それにその兵器の遺物もこの遺跡にはあった。

 俺の錬成は元となる物の模倣から始まるが、ただここにある遺跡の兵器は法術を使用しないものであった為、対法術戦の戦闘には向かない。


 そこで遺跡兵器の対法術戦様に改造をすることになる。

 

 その兵器に法術戦用に改良を加える。

 例えば、銃器を作り殺傷能力を向上させるとしよう。

 最初は無双の武器として重宝するだろうが、敵がこの武器の存在を知れば間違えなく物理的攻撃を無効化する防御法術を展開するだろう。また自分をカモフラージュする措置をとることも考えられる。

 そこで弾丸に、物理的に法術無効化を施し、スコープには敵の法術によるステルス化を敵を物理的に無効化する様にする措置を執れば良い。

 この様な対策を施した武器を一度分解し、それを元にパーツ一つ一つを大量生産すればいくらでも生み出せるのだ。

 当然、俺が錬成で大量生産するのは非効率なので、製造機器だけを錬成で作り挙げ、あとは工場でフル増産させる。

 まぁ、そんな感じで武器も準備した。

 幸い、資源豊富であったため大したコストは掛からなかった。


 意外と順調に進んだ近代化も問題がなかった訳ではない。

 一番の問題は電気だ。


 遺跡の情報にあった熱エネルギーによる発電方法を第一候補に考えていたのだが、その場合原子炉みたいなもので発電すると、放射能等の有害な副産物が発生してしまう。

 それの除去は面倒だし、ハードウエアが再現できたとしても、それを制御するソフトウエアの開発に時間を取られてしまう。

 それとは別にゴミや化石燃料を焼却することで蒸気タービンを回そうとも考えたが、それも環境によくなさそうだ。

 水力や風力、太陽光も考えたが、さすがにバルバザック市国全体を賄うほどの電力を生み出せないだろうと結論づけた。

 

 要はタービンを回して発電すればいい。


 そこで、法術でタービンの摩擦係数を限りなく0にして火力による蒸気をタービンをぶん回す方式を採用することにした。

 タービンが最大で回れば、あとは火力を止めればいい。

 摩擦係数が限りなく0になっているので、当面はタービンが回り続ける。

 発電出力が下がればまた火力を使用すればいい。

 完全にクリーンエネルギーとはいかなかったが、とりあえずそれで電気事情は解決した。


 次に経済面。


 これは杞憂に終わった。

街が大きくなり色々なものを生み出していくと他の集落との交易も増えていったからだ。

 その結果、誰もが『食うのに困らない』『問題なく生活できる』状況まで安定した。

 もちろんそれに伴う税収も大きくなり、兵や官公署の職員に支払う給金も問題はない。




 こうして、バザック村及びバル地区だった場所は『バルバザック市国』という都市国家へと変わり、俺らは『ブルースター義勇軍』の傭兵部隊から『バルバザック市国軍』という巨大な軍隊へと変わった。

 俺は同市国軍の総合幕僚長という官職となったが、ブルースター義勇軍での階級が伍長のままだったため、キユに『伍長将軍』と馬鹿にされた。



 ――さて、それ以上に変わってしまった事がある。



 バルバザック市国建国以前の話だ。

 俺は遺跡やたった200人の村人を守る為に戦った。

 敵の数は何十万。

 対する防衛兵は……1人。

 分が悪い。実に笑ってしまう程だ。


 ――だから俺は迷いも恐れも何もかも捨てるつもりで心を封じた。


 狂戦士となった俺はただひたすら目の前の障害物を潰しまくった。

俺が意識を取り戻すころには、青々とした草原は赤く焼け焦げ、人だったと思われる炭の欠片が風に舞っている状態で、俺は赤く焼け焦げた岩の上に腰を掛けていた。


 当然、そこまで激しい状況であれば、俺の体も無事では済まなかった。

 予め施術していた法術で体の完全再生が終了するのに戦いが終わってから約4日要したそうだ。


 その戦いが、俗に言う『バル地区攻防戦』である。


 遠方に下げていたバーナードの話によると、俺はその場にいた敵兵のほぼ全員をその場に葬ったそうだ。


 さて、話の中に『そうだ』と伝聞系になっているところがある。

 この時俺の意識はなく記憶にも残っていない。

 そのため、俺が待避させていたバーナードからの情報によるものだ。


 それにしても、その時の俺は無意識にキラーマシーンとして殺戮を繰り返していた訳だ。

 実に恐ろしい。

 

 今に思えば、たった200人の為に俺1人でその1000倍以上の人を殺した。

 俺に殺された敵には家族もいただろう、恋人もいただろう……俺は彼らの未来と幸せを一瞬で終わらせてしまった。

 まあ、俺の、俺たちの所に土足で踏み入れたヤツらが悪い。

 一番悪いのは運だろう。

 だから仕方がないことだ。



 ……と、一番変わってしまったのは俺の心、良心なのかもしれない。



 今回の件で、良心の呵責……というか罪悪感は全くないのだ。

 俺自身自問自答するが、俺の中にいる連中は誰も何も答えられない。

 そりゃそうだ。たった1人で何十万の兵を殺害した訳であるから、そんな経験した奴がいれば是非話を聞いてみたいところだ。


 この悲劇で忌まわしい場所は、今や『バル地区戦場跡』として観光名所となり、ナナバの話では近々『真紅の丘公園』として造成されるとのこと。


 この出来事から共和国は勢いをなくし、我が市国軍による反転攻勢が始まる。

 言わば白い共和国が終焉へと突き進む出来事になった。

 

 とりあえず、『国を守った』という良い訳をして生きていこう、いつか俺が裁かれる時が来るまで……




 話は変わる。




 俺はバルバザック市の一望できる合同庁舎旧指令所でいつもの2人と会議に入っていた。


 「義勇軍ウラトナ地区から応援要請が来ています。今、兵の召集を――」


 ナナバが慌ただしく俺に報告を始める。

 だが、俺は彼女の報告を遮り掌を彼女に向ける。


 「不要だ、捨てておけ」


 「そ、それは……」


 ナナバが慌てるが、この後の俺の言葉を察してかそれ以上懇願出来ない。


 「別に彼らと安全保障を結んでいる訳ではない」


 今度はバーナードが口を挟む。


 「キユからの要請だぞ」


 「別にキユがその部隊にいるわけでもあるまい。ヤツらはあの時の攻防戦の時、俺らに何してくれた?」


 俺の言葉にナナバとバーナードは唸ることしか出来なかった。

 当然、両名ともあの攻防戦に参戦した訳ではない。

 唸るということはそれを気にしているのだろう

 だが、俺はナナバとバーナードに対してイヤミを言ったわけではない。

 寧ろ彼らは俺の指示で後ろに下げたに過ぎない。


 ただ、キユは別だ。


 あの戦いに応援を寄越さなかった。まぁ、指揮官として考えれば負け戦に兵を派遣するほど無駄なことは出来ないだろう。

 だから、俺も今回はそういう対応させてもらうことにした。

 当然、キユはアドカボと違いバカではない。

 俺の意図を読んで、今後応援要請はしてこないだろう。


 それにいくらアドカボがアホだとしても、これを理由にこの市国を占領しようと考えてはいないだろう。


 今の市国軍の戦力であれば、彼らの集落バッカーマーツリーを襲撃占領するのに数時間も要しない。それはこの前の観閲式で理解しているハズだ。

 一応表面上、市国軍はブルースター義勇軍所属の軍隊である。

 だが力関係が明らかになれば、当然バランスも一気に変わる。

 それはキユもアドカボも望んではいないはず。

 だから俺らが何もしなくとも、彼らには何も出来ないのだ。


 「さて、キユ司令官殿。ブルースター義勇軍の改革しないと、彼らは我が市国軍の囮部隊しか役に立たないぞ……君ならどうするかね」


 俺は司令所備え付けの電話にて予め準備していた部隊に命令を下した。

 その様子を見てか、ナナバは「なんだかんだ言っても助けてあげるんじゃん」とウンウンと頷いており安堵している。


 ――でも、それは大きな勘違いだ。


 バーナードはすぐに俺の行動を理解した様で、「もしかしたらアレ使うのか?」と眉を顰めている。


 「とりあえず敵は殲滅出来るだろう――キユは激怒するかもしれないが、これで義勇軍の改革を進めなければならなくなったな」


 俺は天高く飛び立つ飛翔体を少し目で追った後、あの赤い荒野に視線を降ろした。


 これが、俺の呼称『カノン』から『バルバザック候』に変わる切っ掛けとなる出来事であった。

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魔王を討伐しようとしたら、実は自分がソレだった件について ver.1 田布施 月雄 @tabuse-san

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