第4話 農村での一日 ー03ー
さて、大ネズミを狩った証の首はどこに持っていけばいいのだろうか?
その答えはファンタジーおなじみの存在『ギルド』である。
この農村にもギルドは存在し、周りの建物と比べるとかなりしっかりしている。
あくまでも周りと比べるとだが……
というのも、もっと大きな町では規模はさらに大きくなりギルド内に売店や、飲食スペースが設けられるものもあるらしい。
しかし、それらはおまけでギルドの大部分を占める役割は荷物の発送と受け取りである。
この時代、個人間での荷物や手紙のやり取りなど不可能に近い。
ではどうするかというと、複数の荷物や手紙を馬車に積み込み運ぶというものだ。
この馬車には護衛も付き、それらに行商も相乗りすることによって、こんな農村でもある程度豊かな暮らしができるのだ。
そのほかに仕事の斡旋などもあるそうだが、あいにく農村には仕事があまりないのでそれらは機能していないのである。
そんなギルドに入るとカウンターに座る男性がまず目に留まる。
この村に似つかわしくない緑色の刺繍が入った礼服に身を包んでいる。
この服こそがギルド職員の証なのだ。
ギルドの職員と一言二言、言葉をかわし大ネズミの頭をお金に引き換えてもらう。
危険度に対して手に入る報酬は雀の涙ほどだが、もらえるだけましだと考える。
自警団の数少ない利点の一つがこの討伐報酬である。
モンスターを倒したら、そのモンスターの死骸、もしくはモンスターを討伐したとわかる部位を持ってくることによって報酬を得ることができる。
これが欲しくて自警団などという危険なことをしているのだ。
報酬を受け取ると、再度森に向かい報酬の一部を地面に埋めて隠す。
これが一日の流れである。
ほぼ毎日のように繰り返しているおかげかそれなりの額がたまっていた。
それを確認するとしっかりと土をかぶせて早々に立ち去る。
家に戻ろうとするころには空は茜色になっていた。
帰路についていると何者かの声が聞こえてくる。
私はその声をよく知っていた。
「おーーい! ロイド! 今帰りかーー?」
「タイラー兄さん、うん、いま森から戻ったところだよ」
大きい声を発しながら近づいてくる男は、我が家の長男タイラーである。
彼とは10も歳が離れた兄弟ですでに家を出ており嫁を貰って暮らしている。
「タイラー兄さんも今終わったところ?」
「おう! もうすぐ暗くなるし今日はもう終わらせておこうと思っていてな! 可愛い嫁が家で待っているからできるだけ早く帰りたいからな!」
「三か月目だっけ? もうだいぶお腹が大きくなったんじゃないの?」
「そうなんだよぉ~。もう愛おしくてたまんないんだわ!」
タイラーの嫁は子を身ごもっており、会うと必ずと言っていいほど嫁の話題が出るようになっていた。
毎回聞いてるとうんざりしそうになるが、この喜んだ顔を見ると不思議と許してやりたくなってしまう。
「ロイドも早く嫁さんこさえたほうがいいぞ! いいぞ~夫婦生活は!」
「兄さん……俺は……」
タイラーの一言でこちらが困った顔をして言い淀んでいるとハッとした様子で謝り始める。
「そうか……スマン。でも本気なのか?」
先ほどの和やかな様子が一変し、こちらに対して質問してくる。
その問いに対して私は、
「あぁ、そろそろこの村を出ようと思う。」
一言、兄にたいしてそう答えた。
異世界を歩くもの えちだん @etidan
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