8.繋がる気持ち

もうすぐ7月。



放課後、オレは急いでバイトに向かう為、ローカを走っていると、向こうからメイが歩いてくるのが目に入った。



オレは思わず、走っている足を止め、歩き出す。



メイもオレに気付き、足を止め、そして、少し微笑み、ペコリと頭を下げたので、オレは戸惑いながらも軽く頭を下げた。



木田と付き合い始めたと言う噂を耳にしたが、それが本当の事なのか、聞きたくても、オレに聞く権利はない。



オレの横を通り過ぎるメイを振り返って見て、メイの後姿を見る。



長かったポニーテールは、短くショートになっている。



失恋したから髪を切ったという噂も流れ、失恋したってオレの事?って、それも聞けないまま——。



今、横の通路から出てきた木田と、笑顔で話しながら、一緒に行ってしまうメイ。



木田とメイが並んで歩く後姿を見ながら、溜息を吐くと、腕時計を見て、



「やばっ」



と、遅刻してしまうと急いでバイトへ向かった——。



7月に入り、1学期が終わり、オレ達は夏休みを迎える。



この時をオレはずっと待っていた。



「平ちゃーん!!!!」



朝6時45分、校門で、調度、来たばかりの平ちゃんがいたので、手を振りながら駆け寄った。



「榛葉か。どうした?」



「もうすぐ旧校舎を壊すんだろ? 引越し手伝いに来た」



「お前が?」



如何わしそうな顔をして、平ちゃんはオレを見る。



「イャッホゥー!!!!」



と、ガーッと音を出しながらスケボーに乗って来るのは翔太。



オレと平ちゃんの前で止まると、スケボーから飛び降りて、



「翔太くん、只今、参上!! 手伝いに来てやったぜ!!」



と、ピースしてみせる。



「・・・・・・三澤、お前もか?」



平ちゃんは本当に疑わしい目をオレと翔太に向ける。



というか、翔太が来るとは思ってなかったので、オレは驚いている。



「もうすぐ他のメンバーも来るよ、連絡しといたから」



と、スマホをいじりながら、翔太はそう言って、オレを見たかと思うと、



「タク、何のバイトしてた? ボクはコンビニの店員と、レストランの皿洗いと、ガソリンスタンドのスタッフ」



そう言って笑顔を向けるので、



「えっと、マックのクルーと、ファミレスのウェイターと、車の部品の工場で流れ作業」



と、オレが答えた時、



「あっつーい! 今日、超暑いし、蝉超うるさいし!」



滿井が現れた。



私服が、結構、露出度の高いキャミソール姿で、目のやり場に困る。



「本当に暑いですねぇ、これだけ汗かけば痩せるでしょうか」



田辺も現れた。



チュニックのせいか、少し痩せて見える。



そして、木田とメイが一緒に並んで歩いて、こっちへ向かって来る。



「おーい!!」



と、翔太が手を振ると、2人は駆けて来て、



「待ち合わせ7時ですよね?」



と、木田。



「後10分は余裕あるのに、みんな来るの早いよ」



と、メイ。



活発的なTシャツとミニスカートが、ショートヘアと似合っている。



てか、胸デカッ!?



また胸デカくなったとか!?



「木田にもまれたな、アレ」



と、オレの耳元で囁く翔太に、



「そ、そうとは限らねぇよ、オレ等、成長期だし!」



と、うろたえるオレ。



成長期だけど、翔太の身長は低いままだなぁ。



「みんな揃ってどうしたんだ? まさか榛葉同様、引越しの手伝いか?」



平ちゃんがそう言うと、



「イエース! 旧校舎のもん、新校舎に運ぶの手伝うから、後でアイスおごってね」



と、翔太が答えた。



オレは本当に驚いている。



まさか、みんなも、オレと同じ考えだったとは。



「榛葉と三澤と滿井が? 手伝い? 木田と北川と田辺、お前等が言うならわかるが、だが、悪ガキ3人と一緒ってのが怪しいなぁ。何か企んでんのか?」



平ちゃんの台詞に、



「先生! どうしてコイツ等と一緒の括りなの、私が!?」



と、滿井が怒鳴る。



てか、オレと翔太と同じ括りにされたら、怒る所なのか?



平ちゃんは怒っている滿井に苦笑いしながら、



「でもな、折角来てくれて悪いが、引越しは業者に頼んであるからさ、お前等が手伝ってくれる必要はないんだよ」



と。



「でも運びたいんだ、頼むよ!」



オレは真剣な顔で、真剣にお願いする。



「うーん、頼まれてもなぁ・・・・・・実際に、そんなに運ぶものもないんだよ。全部、新しく買い換えようって話になってるから」



平ちゃんは困ったように言うが、そんな話、こっちも困る!!



「まだ使えるもん、いっぱいあんじゃん! 美術室の物置に石膏像とかあんだろ? アレ、使えると思うし、音楽室のピアノも図書室の昆虫標本も!! 調理室の鍋や皿も、実験室の骸骨とかも!! まだまだ色々と仕舞い込んである奴とか!! いろいろあんだろ? 絶対に勿体ねぇよ!!」



オレがそう訴えると、



「そうだよ、どうせ新しいのにしたって、直ぐに生徒達に悪戯されたりするんだからさ、買うだけ無駄じゃねぇ?」



翔太もそう言って、平ちゃんを見る。



困ったなぁと頭を掻く平ちゃんに、



「古いものは古いもので使えますから、置いておいていいんじゃないでしょうか? 何も新しいものが来るからと言って、捨てる必要はありませんよ」



木田がそう言うと、



「確かに木田の言う通りだが」



と、何故か、オレと翔太の訴えではなく、木田の意見に頷く平ちゃん。



完璧に贔屓だ。



それは身内の贔屓なのか、成績優秀だから贔屓なのか、どっちなんだ?



「わかった、校長に話して来るから、ちょっと待ってろ」



平ちゃんは門を開けて、早朝の学校内へ走っていく。



オレ達は門の前で取り残され、シーンと静かな空気が流れる。



久々のこのメンバーとの対面に、ちょっと緊張している。



「つーか、風香ちゃんさぁ、エロくない!? その格好!」



緊張している空気を掻き消してくれる翔太の勇気に拍手!!



「エロくないわよ、アンタの頭ん中がエロで一杯なだけでしょうが!」



「それが正常な脳回路とも言う」



翔太がそう言って、オレを見るので、ウンウンと頷くオレ。



「アンタ達に見せる為じゃないんだから、あんまり見ないでくれる?」



「だったら着てくんじゃねぇ!!!!」



翔太が言う事は正しい。



「アンタ達みたいな男がいるから痴漢がいるのよ!」



「ふざけんな!! ボクは女の子の嫌がる事はしない!! 同意の下、もむのが好きなんだ!! もしくは想像の中でもむのが好きなんだ!!」



いや、翔太、とても健全な意見だが、オレは頷けない。



「てか、アンタ達なんてどうでもいいの。私は木田くんに会えるから、張り切ってお洒落して来たんだから」



語尾にハートマークが付くような喋りで、木田を見る滿井に、



「物を運ぶのにお洒落は必要ないと思いますけど」



と、ご尤もな意見の田辺。



「わかってるわよ、だからネイルはして来なかったもの。でも、そういう田辺さんこそ、ちょっと可愛い格好してんじゃないの? なにその姫系チュニック!」



「そ、そうですか!? べ、別にわたしは木田くんに会えるから着て来た訳じゃないですから!」



木田に会えるからなんだ・・・・・・。



なんだよ、滿井も田辺も木田木田木田って。



木田はメイの彼氏だろう?



ていうか、面白くない。



集まった女の子3人が、1人の男だけを男としてみているのが。



「ねぇ、木田くん、私と田辺さん、どっちが可愛い?」



なんて質問してんだよ、滿井。



「やめてくださいよ、滿井さん!!」



田辺が顔を真っ赤にして、そう言うと、



「服が可愛いってだけで、どっちも可愛くはないだろ」



って、翔太、お前は聞かれてもないのに、どうして答えれるんだ!?



相変わらずの勇者っぷりだな。



「酷いです、三澤くん!!」



田辺が翔太に怒る。



「女の子は誰でも可愛くなれるのよ!!」



それは滿井の持論か?



「なにそれ? じゃあさぁ、ボクが、男の子は誰でもカッコよくなれるんだよって言ったら、お前等、納得するかー!?」



「キモッ!! ていうか、アンタがこの中で一番カッコ悪いから!!!! ダサいし!!」



そう吠える滿井に、翔太が、逃げるように、オレの傍に来て、



「タク!! あんな事言われてんぞ!!」



そう言った。



「オレが言われた訳じゃねぇよ」



「裏切るのか!?」



「一番カッコイイのが木田だろ? で、一番カッコ悪いのが翔太なら、オレ、調度、中間? どっちの一番じゃなくて全然いいし、オレ。だから援護も加勢も否定も肯定もしない」



そう、無難が一番って事さ。



「卑怯者!!」



翔太がオレに吠えるから、



「後でうまい棒買ってやっから」



と、翔太を宥める。



「うまい棒は買ってもらうが、ボクがダサいなら、タクだって同じだよ」



「え?」



「だってビーサンじゃん?」



翔太がニヤニヤ笑いながら、オレのビーチサンダルを見て、そう言うので、



「・・・・・・実用性を重視してみたんだよ、お前だって、なんだよ、そのビーサン」



と、オレは翔太のビーチサンダルを履いた足を見て言う。



翔太はクッと笑いを漏らし、



「ボクも実用性を重視したんだよ」



と。



「てか、ビーサンでスケボーって、実用性無視だろ」



「そんな事ないって!!」



「事故る!!」



「事故ってねぇもん!!」



「いいや、絶対に事故る!!」



「事故らねぇって!!」



その繰り返しで、翔太と言い合っていると、平ちゃんが校長からオッケィが出たと言って戻ってきて、オレ達を夏休みの学校内へ招いた。



「校長先生って、こんな朝っぱらから来てんの?」



翔太の問いに、平ちゃんは首を振り、



「電話をかけたんだよ、お前達の事を話したら感心して、後でお前等に会いたいってよ」



そう言って、正面玄関の扉を開ける。



「じゃあ、オレはあっちだから。校舎内の物はお前等に任せる」



オレは校舎に入らず、中庭に行く為、そう言うと、翔太も、



「ピアノとか重いのは、後でみんなで考えようぜ」



と、オレと一緒に中庭に行こうとして、



「おいおい、榛葉、三澤、お前等、どこへ行くんだよ?」



平ちゃんが聞いた。



「オレ等、古い池のカエルを新しい池に運ぶから。その為にビーサン履いて来たし」



オレのこの台詞に、平ちゃんは、駄目駄目と驚いた顔で焦って、オレと翔太を引き止める。



「アホか、お前等!! 新しい池には、校長先生が錦鯉を飼うって言ってんだよ、カエルなんて駄目に決まってるだろ!」



オレ達の目の前で仁王立ちの平ちゃんに、



「先生、美術室や音楽室の鍵が見当たりません」



と、木田が職員室の窓から顔を出し、叫んだ。



「え? あ、今、行く」



と、平ちゃんはそう言うと、オレ達を睨み、



「いいか、カエルはあの池を埋めたら、勝手にどっかに行ってくれる。新しい池になんて移すなよ? いいな? わかったな?」



何度も念を押すように、そう言うと、職員室へ走って行く。



木田は窓から手を振り、



「頑張って」



と。



オレと翔太は木田に手を振り返す。



そして、バケツを持って、オレ達は池に向かった。



池はずーっと手入れされてないから、沼みたいになってて、臭いし、深緑色だし、ゲコゲコとカエルが繁殖しまくりだし。



オレと翔太はズボンを捲り上げ、池に入って、カエルをとっ捕まえる。



「逃げんなって! 新しい池に連れて行ってやっから!」



翔太が言いながら、逃げ惑うカエルを追う。



「王様はどこだ? お前か!? 違うなぁ」



と、オレは右目が潰れたカエルを探す。



あっという間に、4つのバケツはカエルで溢れ返るが、まだまだ池にはいるので、とりあえず、バケツを空にする為、新しい池へとカエルを持って行く。



そして、またカエルをとっ捕まえる為、古い池へ戻る。



カエル達はゲコゲコ言いながら、オレ達から逃げるから、あの時とは逆だなと思う。



「・・・・・・翔太」



「うん?」



「髪、黒くなったな」



「タクもな」



「やっぱバイトしてるから?」



「うん、茶髪だと雇ってくんないからさ」



「似合ってたのにな、茶髪」



「そうか?」



「うん、似合ってた。孫悟空みたいで」



「カぁ、メぇ、ハぁ、メぇ・・・・・・」



「いやいやいや、何放とうとしてんだよ、無理だろ。つーか、ドラゴンボールのじゃねぇよ、西遊記の。大体、お前にサイヤ人は無理だろ」



「なんで無理なんだ、金髪にしたらサイヤ人でイケるよ」



「イケねぇから。オレが言いたいのは、茶髪の翔太はちっちゃい猿みたいだったなって」



「それ本当に似合ってたのか!?」



「うん、今だって、まぁ似合ってるよ、日本猿みたいで」



「結局猿かよ」



聞きたい事がうまく聞き出せなくて、ふざけてしまい、妙な会話になる。



「なぁ、バイト、3つも掛け持ちだったのか?」



「あぁ、タクだって3つも掛け持ってたんだろう?」



「そうだけど、結構ハードじゃなかったか?」



「うん、まぁ、土曜日曜が朝から晩まで潰れるしな。でも悪い事ばかりじゃなかった」



言いながら、翔太は振り向き、



「超可愛い先輩がいてさ!」



そう言うと、泥だらけの手で、胸の辺りで膨らみをつくって、



「メイちゃんと同じぐらいのデカさで、貫地谷しほり似なんだぜ!」



と、泥だらけの顔で笑う。



「マジ!? ソレいいな。オレのバイト先、特に可愛い子いなかったな」



「タクはメイちゃんしか見てないからじゃないの? 他に可愛い子がいても、可愛いって思える余裕もなかったんじゃないの?」



「・・・・・・オレ、影響されやすいからさ」



参ったなという感じで、苦笑いしながら言うオレに、知ってると笑う翔太。



「平太郎さんの一途な想いとか、すげぇ愛とか、いなくなっても想い続けてるとことか、もう、なんかリスペクトしまくっててさぁ。オレもそうなりたいって思ってて、つーか、こんな事言うと、また滿井にカッコ悪ぃって連発で言われるだろうな」



「言わねぇよ、本当にカッコイイ事をカッコ悪いなんて言わない」



真面目な顔で、翔太がそう言うから、オレもヘラッと笑ってた間抜けな顔が真剣になる。



ちょっとシーンと静まり返るが、直ぐに翔太が、カエルを捕まえながら、



「でさぁ、その貫地谷しほり似がさぁ、すっげぇイイ匂いなんだよねー!」



ふと、その台詞に、オレは思い出し笑い。



「なに?」



声を出して笑うオレを不思議に思い、翔太が尋ねるから、



「いや、なんでもない」



そう言ったが、本当はなんでもなくなくて、メイの事を思い出していた。



オレはメイといい雰囲気になりたくて、



『メイってイイ匂いするよね』



そう言って、メイに近寄ろうとしたら、



『柔軟剤じゃないかな、榛葉くん』



そう言って、メイは笑顔を見せた。



『お母さんが、柔軟剤変えたら、イイ匂いが続いてるって言ってたから』



とまで言うメイに、あの時はうんざりした。



全然、いい雰囲気に持っていけない事に。



『今日は泊まってけよ』



そう言ったら、わざわざオレの親に、



『今日はお泊りしてもよろしいでしょうか?』



とか聞いちゃうし。



本当にうんざりしたよなぁ。



オレの頭の中はメイと付き合えた事で、エロい事ばかり考えていて、でも、うまく持っていけなくて、もういいやって、途中で、どうでも良くなったっけ。



今、思えば、メイの天然ぶりを可愛いと思う。



ちゃんとメイと向き合っていれば、あの時、うんざりした顔じゃなく、きっと、オレは笑って、メイと見つめ合っていただろう。



オレは焦り過ぎて、いろんな事、ちゃんと見てなくて、本当に大事な事って何かを考えた事もなく、大切なモノ、見失って生きてたなぁ。



「タク、聞いてる?」



「え? あ、あぁ、聞いてるよ、貫地谷しほり似だろ?」



「そう、その貫地谷しほり似がさぁ、超可愛がってくれてさぁ、なんかもぉ、絶対にボクを好きだと思うんだよね!! だからそのデカイスイカちゃんに顔を埋めてもいいっすか?って言いたくなっちゃうんだよね、でも言わないように頑張ってる」



いつものふざけた口調の翔太。



「頑張らなくても、普通は言わないけどな。まぁ、お前の場合頑張っておいた方がいいかも。直ぐに思った事言っちゃうから。で、その人、先輩って言ってるけど、仕事で先輩ってだけでなく、年齢も年上だろ?」



「うん、なんでわかる?」



「翔太は年上に人気高いからさ、1年の時、3年の美人の先輩達から、何気に翔太が可愛いって言われてるの、オレ、何度か聞いてるし」



「うっそ!? 早く言えよ! 知らなかったじゃんかー!」



「言ったら調子乗るだろ」



「当たり前じゃん! 調子乗らせろよ!」



「それ以上、調子乗ったら、逆に嫌われるって」



笑いながら言うオレに、そっかと、翔太も笑う。



また暫く、真剣にカエルを捕まえる事に専念しながら、シーンと静まった時間を過ごす。



だが、やっぱり、どうしても聞いておきたい。



「うわ、バケツの蓋開けやがった! 逃がすか、テメェ等!!」



と、バケツから逃げようとするカエル達を捕まえる翔太に、



「なぁ、なんでバイト? しかも掛け持ちって、なんで?」



池の中で、カエルを捕まえながら、思い切って、聞いてみた。



翔太はバケツにカエルを押し込んで、蓋を閉めて、池の周りの草木を掻き分けながら、



「金いるんだろ?」



そう言った。



オレは動きを止め、そして、翔太を見た。



翔太は逃げるカエルを、自分もジャンプしながら追っている。



泥だらけの汚い翔太に、



「・・・・・・今日、なんで?」



そう問うと、翔太は振り向いて、



「何が?」



と、オレを見た。



「オレ、お前達に何も言ってなかったよな? お前達からもオレは何も聞いてない。なのに、なんで?」



翔太は急に真剣な顔で、オレを睨むように見て、



「なんで? ならタクはなんで? なんで何も言ってくれないんだよ?」



そう言った。怒っている翔太の顔は初めて見る。



「なんでタクは一人で頑張るんだよ」



「・・・・・・翔太」



「ボクは・・・・・・ボク等はタクの友達じゃないのか?」



「・・・・・・友達だよ」



「なら、なんで何も言わないで、一人で全部、頑張るんだよ?」



「オレが勝手に言い出した事だから、誰も巻き込んじゃいけないって思ったから」



「何言ってんだよ、言い出したのがタクだとしても、タクだけじゃないんだぞ、みんな、気持ちは同じなんだ! だからあの時、ボク等はこの世界に帰って来れたんじゃないのか? 気持ちが繋がってるから、ボク等は一人も欠けずに戻って来れたんじゃないのかよ」



「・・・・・・でもあの時の事は夢かもしれないって、そんな夢の出来事を現実に持って来ていい訳ないから」



「あの世界は夢じゃない!」



言い切る翔太に、オレは気付いた。



オレが思ってたんだ、あの世界は夢だったのかもと。



みんなじゃない、オレが思ってたんだ・・・・・・。



オレ、また大切な事、見失っていたかもしれない——。



「タク、ボク等、幾ら気持ちが繋がってるって言っても、お前の考えを直ぐに理解してやれないよ。最近、タクは付き合い悪ぃなぁって思ってたんだ。言ってくれなきゃ、わかんねぇよ! タクだって、何も言われなければ、今日、みんなが集まったのも、ボクがバイトしてたのも、全然、気付かなかっただろう!?」



「・・・・・・うん」



「言ってくれなきゃわかんないよ」



「・・・・・・ごめん」



「修旅だってさ、タク、買い物もしないし、バイトで疲れてるせいか、夜とか直ぐに寝ちゃうしさ、金もあんま使わないコース、一人でブラブラしてたしさぁ」



「・・・・・・ごめん」



「折角の修旅だったのに!」



「・・・・・・そうだよな、本当にごめん。でも、お前、楽しそうにクラスの連中といたじゃん」



「でもタクがいなかった」



「・・・・・・」



「ソレ、ボクだけが思ってる事じゃない。メイちゃんだって思ってるよ」



「メ・・・・・・」



メイと言おうとして、



「北川さんが?」



と、言い直した。



翔太は女の子を下の名前で呼ぶというポリシーがあるらしいが、オレにはそんなポリシーもないし、今はメイをメイと呼び捨てる理由もない。



「メイちゃん、お前の事、よく見てるよな。というか、よく知ってる。ボクなんかタクと同じクラスで、同じ時間を共有してるのは、メイちゃんより長いのに、全然わかんなくて、結局、メイちゃんがタクは世界を守ろうとしてるんじゃないかって言い出してさ」



「・・・・・・」



「メイちゃんみたいに、遠くから、お前を見て、きっとタクはこう思ってるんだろうなぁって思う人間なんて、メイちゃん以外は誰もいないんだからさ、ちゃんと話してくれよ、友達だろ?」



「・・・・・・遠くから見てるってストーカーだな」



少し笑いながら、そう言うと、



「メイちゃんがね」



翔太は冗談にとれない口調で、そう言った。



「北川さんは、別にオレを見てたとかじゃないだろ」



メイには、もう、木田がいるんだから——。



「オレと北川さんは、ほら、自然消滅したし!」



オレが明るい声でそう言うと、



「よく言うよ、タクが終わらせたんじゃん」



と、翔太は目の前を飛んだカエルをうまく捕まえて、素早くバケツに放り込み言った。



「・・・・・・オレは終わらせたつもりはないよ」



「え?」



「何も終わらせたつもりはない」



そう言ったオレに、



「そう、榛葉くんは、何も終わらせてない」



と、木田が現れ、バケツの蓋を取って、中のカエルを覗き込むと、急いで閉めた。



そして、オレを見るから、オレも木田を見る。



「終わらせようとしたのは僕。こっちで死んでるかもしれない肉体を見捨て、向こうの世界を終わらせ、僕は北川さんと共に、同じ世界で終わろうとした。でも榛葉くんは、北川さんと別れた放課後に、僕達に帰ろうと言った。放課後という時間を僕達は過ごす事で、そのまま下校できるような気持ちになっていたから、榛葉くんの帰ろうと言う言葉は、素直に、みんなが頷けて、帰れるんだと信じれた。そして、榛葉くんは、今、七不思議の世界を終わらせない為に、七不思議ごと、新校舎へ移動しようとしている。榛葉くんは終わりじゃない、新しい始まりを考えたんですよね」



「・・・・・・新校舎に七不思議を持って行く事が世界を救える事になるか、わからないけど、それでも、オレは、こうして出来る事を頑張ってるつもりで——」



「夢かもしれないのに、相当、頑張ってると思いますよ」



「・・・・・・うん、あの世界が実在する証明はできないから、夢かもしれないけど、木田くんの言葉を借りて言うなら、実在しない証明もできないなら、実在する可能性はあるから」



木田は、夢かもしれないなど、全く思ってないのだろう、オレの台詞に、フッと笑みを零し、メガネをクイッと中指で上げる姿は、その通りと頷いているようだ。



「オレ、あの世界へ行く前は、毎日を何気なく過ごしてて、なんとなくで生きてて、大事なモノって身近にあるなんて知らなかった。それでも、どんな人間でも、人間に憧れて、人間になりたいと願う者がいる事に、オレもって頷けた。オレも元の世界に戻って、ちゃんと人間でありたいって。人間として、いろんな事、気付いたから。人間の怖さとか、小動物に対しての罪とか、時間の大切さとか、本当の愛とか・・・・・・人間だからこそ、ちゃんと向き合って応えなきゃならない大切な事なんだ。そういうの、オレ、ちゃんとわかったから」



「そうですか」



「それから、本当に心配してくれる、真実の友達って言うのもできたと思ってる。オレ、あの時の放課後、絶対に忘れないよ。オレ達が繋がったのは、あの世界へ行けたからだ。だからオレは絶対に、あの世界を守りたい。失いたくない。あの世界には、オレ達の友達がいるんだから。お前ソックリの・・・・・・学ラン着た、オレ達のヒーローが!」



また木田はフッと笑い、



「平太郎さんですか。彼は榛葉くん、キミをヒーローだと思ってるでしょうね」



そう言いながら、またもメガネをクイッと中指で上げると、



「それで、こっちへ戻って来て、榛葉くんの北川さんへの気持ちはどうなったんですか?」



オレを見て、そう聞いた。



オレは言葉を選ぼうと考え込んでしまい、無言になってしまう。



「終わらせたつもりはない、なら、北川さんへの気持ちも終わってなかったって事ですよね? でも別れたのは、本当の自分の気持ちを確かめたかったからじゃないんですか?」



「・・・・・・」



「僕はこっちへ戻って来て、やっぱり北川さんが好きだと確信しましたよ。それに、こっちへ戻ってきて良かったと思ってます、それは本当に榛葉くんの御蔭です。それに戻って来てなかったら、今頃、僕の肉体は植物状態だったかもしれませんしね」



言いながら、ポケットから封筒を取り出し、



「50万入ってます、足しにして下さい」



と。



そして、更に別の封筒を取り出し、



「これは北川さん、滿井さん、田辺さんから、全部で30万」



と。



「ボクからも30万ね」



と、翔太が言うから、オレは翔太を見て、木田を見て、また翔太を見る。



「で、タクは2ヶ月でどれだけ稼げたの?」



「・・・・・・オレも30万ぐらい」



「だよね!? 普通、それ限界だよね!? 木田くん50万って凄くね?」



翔太がそう言うと、



「僕の家、老舗の和菓子屋で、まぁ、キミ達とは育ちが違うんですよ。わかるかなぁ、小遣いで、それぐらい楽勝って言うか」



言いながら、メガネをクイッと上げる木田に、



「相変わらずムカツク」



オレが笑いながら、そう言うと、



「榛葉くん程じゃないですよ」



と、木田も笑った。



「てか、バレバレなんだな。オレの考え」



オレは言いながら、池を出て、



「手伝って」



と、翔太と木田を見て言うと、学校を出て、近くの空き地に2人を連れて来た。



そこにリアカーに乗せた銅像がある。



セーラー服の女生徒と学ランの刀を携えた男子生徒の銅像。



サツキさんと平太郎さんの銅像だ。



オレは、銅像製作会社に頼み、平太郎さんとサツキさんの銅像をつくってもらった。



「似てると思うか?」



オレが2人に尋ねると、2人は少し考えて、首を捻る。



「だよなぁ。なんか、ソックリと迄いかないっつーか、オレの説明じゃ、これが限界だったと言うか・・・・・・」



「まぁ、平太郎さんは兎も角、サツキさんのスタイルは抜群でいいんじゃね?」



笑いながら言う翔太に、オレも笑いながら頷く。



「この銅像を学校に置いて、七不思議のひとつとして、サツキさんを蘇らせたい」



切実にそう思うオレは、願うように銅像を見つめる。



「最早、七不思議どころではないだろうけど。石膏像達や絵画も運び出しているから、薄れて消えかけていた昔の七不思議も蘇って、この学校には、10や20の不思議がありそうですよ」



木田がそう言うと、翔太も笑いながら、



「ボク等が8つ目の不思議にならなくて良かったねぇ」



と。



「で、コレをどこへ置くかって事なんだよな」



オレがそう言うと、木田が、



「勿論、桜の木の下でしょう」



と。



やっぱり、そこが一番いいかな。



「じゃあ、また後で、運ぶのを手伝ってくれるか?」



オレがそう言って二人を見ると、二人は勿論と頷いた。



「金は足りますか?」



木田が尋ね、



「みんなの分を集めて、全額返済できる。しかも少し余るぐらい」



オレが頷き、



「余った金、やっぱ一番多く出した木田くんのもん?」



と、翔太が言うので、



「みんなで使おうぜ!」



オレはそう言うと、



「夏休み始まったばっかじゃん、みんなで旅行いこうぜ! 海とか! 山とか!」



と、提案した。



「いいですね、名案です」



と、木田。



「海だぁぁぁぁ!!!! 水着だ、ビキニのおねえさんだぁぁぁぁ!!!!」



と、翔太。



だが、オレは、この銅像が似てるのか、似てないのか、その辺がとても不安で。



銅像だから、大体の雰囲気でいいのかもしれないが——。



昼、調理室を借りて、メイと田辺がオニギリを作り、それをみんなで食べた。



校長が来て、新しい池にカエルが一杯いる事に引っ繰り返りそうになっていた。



だが、命の大切さについて木田が話し出し、校長先生なら理解してくれると言うから、校長は頷くしかなく、カエルを新しい池に移す許可が改めて出た。



午後から、オレと翔太は再び、カエルを捕まえ、王様カエルを発見した。



他のカエルより大きくて、右目が潰れているので、一応、謝ってみた。



「ウシガエルかなぁ?」



「かもなぁ」



オレと翔太はカエルに詳しい訳でもないので、首を傾げながら、王様カエルを見て言う。



全てのカエルを新しい池に移し終えると、放課後の時間帯だ。



オレと翔太と木田は銅像を運んできて、桜の木の下に置いた。



「おーい」



平ちゃんが、スーパーの袋を持って、こちらへ向かって来る。



「なんだ、その銅像?」



「旧校舎にあったんで、ここに置いたら、ちょっといいかもって。桜の木の下で愛を誓い合う2人みたいな。そういう七不思議なんだよ」



オレがそう言うと、



「七不思議ぃ?」



と、馬鹿にした口調で聞き返す平ちゃん。



「七不思議バカにすんな!」



翔太がそう言うと、またも平ちゃんは、



「へっ」



と、バカにした笑いを漏らした!!



旧校舎からメイと滿井と田辺、それから、学校にいた事務の人や先生達も出て来た。



「もう大体終わったから、後は大きなモノとかだし、業者の人に任せた方がいいかも」



と、滿井が言いながら、オレ達に近付いて来て、銅像を見た。



「似てると思うか?」



オレが尋ねると、



「微妙」



と、滿井は苦笑い。



——だよな。



「そうだ、溶けない内に食え」



と、平ちゃんが、スーパーの袋をオレに渡す。



中はアイスだ。



「モナ王!! あー、でもパピコもいいなぁ」



袋を漁りながら言う翔太に、



「なら、オレがパピコで、半分やるよ」



そう言うと、ヤッタ!と、翔太は喜ぶ。



「女の子に先に選ばさせてあげましょうよ!」



木田が言うから、



「はい」



と、オレはパナップをメイに差し出し、皆、シーンとオレを見るから、



「あ、ごめん、北川さんはパナップかと・・・・・・今は違うのかな」



と、苦笑いで袋にパナップを戻そうとしたが、



「今もそうだよ、ありがとう」



と、メイは手を差し出し、その手に、オレはパナップを渡した。



滿井も田辺も袋を覗いて、



「私、雪見だいふく」



と、滿井。



「どうしよう、アイスの実とピノとどっちにしようかなぁ、カロリー少ない方はどっち?」



と、悩む田辺。そして、アイスの実にしたようだ。



「木田くんは?」



滿井が木田を見て聞くと、



「クーリッシュで」



そう答える木田に、



「選ぶアイスもかっこいー!!」



と、意味がわからないが、カッコイイらしい。



「モナ王だってカッコイイっつーの!!!! キングだぞ、キング!!!!!」



翔太がそう言うが、どっちも只のアイスだっつーの。



平ちゃんはスーパーカップ、事務の人や他の先生達は、爽、MOW、パリッテ、ジャイアントコーンなどを手に取っていた。



校長先生は気分が悪くなって、もう帰ったとか。



新しい池にカエルが溢れたのがショックだったのかもしれない。



錦鯉があの池に入るのはいつだろう?



これからはカエル達も、花嫁を探すより、錦鯉との領土争いの戦争が忙しくなりそう。



錦鯉なら、金魚と違い、トイレに流される心配もなさそうだ。



先生達が、銅像を見て、どこから持って来たんだと話し出す。



平ちゃんが七不思議だとか言うんだと笑い話に持って行くので、オレ達はカチンと来る。



オレ達は、大人がバカにする世界で戦って、逃げて、生きようとして、帰ってこれて、そして、その世界を守ろうと一生懸命なのに。



「七不思議はあるんだって!!」



翔太がモナ王を齧りながら、もう片手にパピコを持って言う。



「七不思議ってアレでしょう? トイレの花子さんとか?」



事務の人が言う。



「そうそう、そういうのだけど、この学校にもいろいろあるのよ」



雪見だいふくを頬張りながら、そう言ったのは滿井。



「そんなのくだらない只の噂話だろう」



社会科の先生が言う。



「噂話だってバカにはできませんよ、事実の証言になる事はたくさんありますから」



木田がそう言いながら、クーリッシュを吸う。



「子供はそういう会談話みたいなのが好きなのよねぇ」



音楽の先生が言う。



「大人は子供の言う事を只の好きって事で片付けて、何も信じてくれないんですか?」



田辺は言いながら、アイスの実をパクッと口に入れた。



「証明できたら信じてやるよ」



スーパーカップを食べながら、意地悪な口調で平ちゃんがそう言ったので、



「なら、証明するよ」



オレはパピコを食べ終わり、ゴミを袋の中に入れると、翔太に、



「パピコ、半分やったんだから、お前の勇気、少し分けてくれよな」



と、そう言って、桜の木を見上げ、



「北川さーん!!!!」



大声でそう叫んだ。



皆、シーンとして、オレを見る。



オレは振り返り、メイを見て、



「オレと付き合って下さい!」



と、ペコリと頭を下げた。



シーンと静かな時間が流れ、オレは頭を上げれないまま、そのまま。



「付き合ってんだろ? アイツ等?」



平ちゃんがそう言うと、



「別れたのよ」



と、滿井。そして、



「桜の木の下で、桜が満開の時期に告ると、絶対に恋愛成就するんだって。永遠の愛を誓う場所として、そこで愛を誓い合った2人は一生を共にして、絶対に逃げれないって七不思議があるのよ」



そう説明すると、滿井は、



「メイ!?」



と、突然、メイの名前を大声で呼んだので、オレが顔を上げると、メイがいた場所に食べかけのパナップが落ちていて、メイは旧校舎へ向かって走り去っていた。



何も逃げなくても・・・・・・。



「・・・・・・恋愛成就しなかったな。まぁ、桜が満開の時期じゃないしな、気にするな、榛葉。今は夏なんだから、七不思議が証明されなかった訳じゃないさ」



可哀想なものを見る目でオレを見ながら、慰めの台詞を言う平ちゃん。



「成就しないのは、わかってるよ、木田と付き合ってんだから」



呟いて俯くオレに、



「タク、メイちゃん戻って来た」



と、翔太が言うので、顔を上げると、メイは大きな板のような、何かを持って来て、息を切らせ、オレの目の前に立った。



その板みたいなものはなに?



「榛葉くん」



「はい」



「えっと、返事はオッケーです」



メイは顔を赤らめ、そう言うので、



「は?」



思わず、変な声で問い返してしまう。



「え? 付き合って下さいって言ったよね?」



「え? あ、あぁ、そう、えっと、なにそれ?」



「コレ?」



と、メイは板を引っ繰り返して見せた。



それは満開に咲き誇る桜の木の下で、花吹雪の中、平太郎さんとサツキさんが向き合って、笑顔で、手を握り合っている絵だ。



平太郎さんの足元には、オレがすっかり忘れていた存在の眉毛犬っコロもいる。



「夏休み中に絵画コンテストがあって、描いてみたの。サツキさんと平太郎さん、似てるかな?」



「・・・・・・ソックリ」



「平太郎さんは放課後に木田くんにも残ってもらって、モデルしてもらったから自信あるんだけど、サツキさんは思い出しながら描いたから」



「・・・・・・ビックリ」



なんだ、木田と付き合ってるって噂、そういう事?



「それでね、これがもし賞がとれても、とれなくても、学校にずっと飾ってくれるって校長先生が言ってくれたの」



「・・・・・・はぁ!? だったら早く言えよ、絵の方が金かかんないじゃん!!」



「でもね、この2人の七不思議って素敵な不思議にしたかったの。2人の銅像が桜の木の下にあって、この絵が学校に飾られたら、学ランの平太郎さんと被服室の花嫁さんが不思議から消えて、平太郎さんとサツキさんの恋愛成就の不思議となると思うから」



「・・・・・・あぁ、そうかも。そうだな、銅像は似てるかどうか不安だったけど、その絵があれば、銅像を絵の通りにイメージしてくれればいいもんな」



オレがそう言うと、



「それでその七不思議を証明したのがアタシ達」



と、メイが言うので、オレは告った事を思い出し、気恥ずかしくて苦笑いしながら、メイが描いた平太郎さんのように、手を出してみた。



メイはニッコリ笑いながら、絵のサツキさんのように、手をぎゅっと握り返してきた。



「七不思議を信じてくれました?」



木田がオレ達を見ながら、平ちゃんにそう言うと、



「ずるいだろ、アイツ等は相思相愛だったろ? お前が北川に告ってたら、成就しなかったろ」



平ちゃんはそう言って、木田を見る。



木田は勝ち誇るような笑みで、



「さぁ? どうでしょう? 僕は七不思議を信じてますからね、成就したと思いますよ。この光景に信じないと言う人は、余程の捻くれ者でしょう?」



と。



平ちゃんや、他の先生や事務の人達は、この光景に驚きの声をあげる。



7月中盤、初夏。



桜の花が咲き始め、花吹雪が、オレとメイを祝福するように舞う——。



桜の花の香りが、ふわりふわりと漂い、オレ達は、カエルの王様や平太郎さん、眉毛犬っコロなど、あっちの世界の住人が、オレ達に礼を言っているように思えた。



世界が終わらないで済みそうだと——。



先生達も不思議な事があるもんだと、驚いているが、この不思議を認めなければならないだろう。



自分の目で見た不思議なんだから。



「さぁてと!! 放課後も終わるし、帰ろうぜ」



翔太がスケボーを持って、そう言うと、木田も滿井も田辺も頷く。



「お前等、夏休みだからって、夜遅くまで遊んでんなよ」



社会科の先生にそう言われ、



「帰りますって。この泥だらけの格好で、まず帰らないと、どこにも行けないっつーの」



と、翔太が言う。



「北川さん、その絵、預かっておくわね」



音楽の先生がそう言って、メイから絵を受け取る。



「お前等、明日も来るのか?」



平ちゃんがそう尋ねると、木田が、



「校長先生の話だと、明日、ピアノが運び出されるそうなんで、みんなで、ちゃんと運び出されるか、確認に見に来ます。午後からは旧校舎が壊される予定らしいですよね」



そう言うので、オレは旧校舎を見上げ、



「屋上へと続く階段がなくなれば、扉はなくなるな」



そう呟いた。



すると、皆、旧校舎を見上げ、少し切なそう。



「でもさ、カエルの王様は無事に保護したし、会いたくなったら、扉を開けてくれるかも」



翔太の言う通りだが、愛がなければチカラは使えない。



あの王様を愛してくれる者なんて——



「ウシガエルのメスを連れて来るか」



オレの提案に、翔太が、



「いいね、それ」



と、笑う。



「榛葉くん」



突然、メイがオレを呼ぶので、振り向くと、



「手」



と、青い顔をしながら、繋いでいる手を見る。



「手?」



「手、握ってるけど、カエル触ったんだよね」



「・・・・・・そらもう、王様もたっぷりと」



「いやぁぁぁぁぁ!!!!」



オレの手を思いっきり振り解き、悲鳴を上げるメイに、木田が、



「まだチャンスはありそう」



と、言いながら、オレの横をスタスタと通り過ぎる。



「私は榛葉くん応援してるから。木田くんがメイを諦める為にも、頑張ってよね」



と、滿井も、言いながら、オレの横を駆けて行き、木田を追う。



「じゃあ、また明日」



と、田辺もバイバイと手を振りながら行くと、



「タク、後でラインすっからな」



と、翔太もスケボーに乗り、行ってしまう。



オレは振り向いて、メイを見て、手を差し出し、



「帰ろう」



そう言った。オレの手をジィーッと見つめるメイに、



「手は洗ったよ?」



と、自分の手のニオイを嗅いでみるが、カエルのニオイなのか、土のニオイなのか、余りいいニオイは醸し出してないので、



「じゃあ、今日は手はやめとこうか」



と、歩き出した。



「いつも通りバス停まで一緒に帰るの?」



「家まで送るよ」



「電車も乗って遠いよ」



「いいよ」



「いいの?」



「じゃあ、良くないから、手繋いで?」



「・・・・・・明日じゃ駄目?」



「じゃあ、明日でいい」



「でも榛葉くん」



「なに?」



「その泥だらけの格好でバスや電車に乗るの?」



「駄目?」



「送ってくれるのも明日でいいかも」



「うわ、なんか北川さん、オレに冷たくなったかも」



「そんな事ないよ、榛葉くんだって、北川さんって呼ぶの変だよ!」



「北川さんだって、榛葉くんって呼ぶじゃん」



「アタシは前から呼んでました!」



「そうだっけ?」



「そうだよ! ・・・・・・今日はバイトないの?」



「うん、夏休み期間は少し減らすよ、みんなからのお金で銅像の支払い大丈夫だから」



「少し減らすだけ? 辞めないの?」



「急には辞めれないよ」



「そっか」



「北川さんは何のバイトしてた?」



「ウェイトレス。榛葉くんは?」



「マックのクルーとか」



「可愛い女の子のクルーはいた?」



「ソレは内緒です」



「なにそれー!?」



「北川さんはいた? かっこいいウェイター?」



「秘密」



「ははは、やっぱ手繋いでいい?」



夕焼けの中、オレ達は、開いた距離を縮めるように、開いた穴を塞ぐように、不自然に声を弾ませ、会話を続けた。



メイの歩幅に合わせながら歩いて行く。



なんとなくの恋を終わらせ、オレから告白した真剣な恋の始まり。



平太郎さんとサツキさんの七不思議が叶えてくれた恋だと思う。



二学期からは新しい校舎になるオレ達の学校。



七不思議も新しくなって、サツキさんが蘇り、平太郎さんと幸せな時間を過ごして欲しい。



今のオレとメイのように——。



「あ、そうだ、あの絵、なんてタイトルにしようか考えてるんだけど、榛葉くん、何かない?」



「・・・・・・繋がる気持ち、とかは?」



繋がる手、繋がる友情、繋がる想い、繋がる世界——。



全てのリンクを意味して。



ずっと繋がっていたいから——。



オレはメイを見て、懲りずに手を差し出してみる。



メイは諦めたのか、それともタイトルが気に入ったのか、オレの手を握ってくれた——。

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