第五百四十四話 越後開発へ

五泉城 阿曽沼遠野太郎親郷


 又三郎にはああは言ったが、新津城を焼いてくれたおかげで沼垂ぬったりへの輸送が妨害されなくなったのは良い面ではある。


「蒲原も勢力下にしておきたいわけだが、さてどうするか。留十郎、なにか良い案はないか」


「そう言うことでしたら蒲原津かんばらのつと新潟津の間にある白山島に城を築かれては如何でしょうか」


 新潟はまだ湊としてはできたばかりのようだが今後、阿賀野川と信濃川の分離と港湾整備などを行うとなれば史実のように大きな街になるだろう。しかしなんというか此の時代は前世と地形が違いすぎて頭がバグりそうだ。白山公園のあった白山はまだ島だし新潟駅のあたりは新潟じゃなかったというのもそうだ。


 ここも石巻と同じように阿賀野川や信濃川が氾濫と流路変更を繰り返しているようで湖と湿地だらけのおよそ田にできなさそうな劣悪な土地だ。前世では穀倉地帯だったのはきっと先人達の多大なる努力と近代科学力の結晶だったんだろうな。ここもしっかり整備しなければならんわけだが石巻以上に大工事になりそうで、関東と新潟のどっちを優先させるか悩ましい。


「一度見ておきたいな。よし!馬を持て、蒲原津まで行くぞ」


 慌てて支度がなされ五泉から蒲原津まで視察に赴く。周囲に敵の伏兵はいないが、ひどい湿地で馬の蹄が沈む。已む無く一旦中止し、船を仕立てて沼垂津と蒲原津へ向かう。


「人が住むのは少し高くなっている土地か」


「そのようですな。低いところは田になっておりますが、よく水が越すので三年一作というふうにも言うそうです」


「三年一作か、石巻のあたりのようだな」


「あちらはすこし良くなりましたが」


「まだまだ整備を繰り返していくしか無いがな。まあこちらもおいおいと言ったところだな」


 そう言いつつ川船を走らせると、海軍と遠野商会の船が見えてくる。当家の船は他とはっきり違うから見分けやすい。


「ここの右手が沼垂か」


「はい。これまでは沼垂を使っておりましたが、今後は蒲原と新潟も使えます」


 輸送量が増えそうだな。秋田と併せて日本海交易の重要拠点になるだろう。蒲原に上陸してとりあえず寺を使わせて貰う。先触れを出していたので蒲原のほか沼垂と新潟だけでなく揚北や佐渡、さらには酒田の商人や船頭や近くの村の肝煎等が集まっていた。


「阿曽沼遠野太郎親郷だ。まずは主等が集まってくれたことに礼を言う」


 俺の言葉に集まった者らがざわめく。


「大人しく当家に着く場合は浦塩での商いに参加できるよう朱印状を与える」


 遠野商会と住友だけでは手が足りぬからな。


「そして領内の湊を順次改修し、今沖に泊まっている当家が使っているような大きな船と直接荷揚げ出来るように致す。何か聞きたい者が居れば直答を赦す」


 そういうと幾つか質問がでた。


「まず津料であるがこれは湊を使う船の大きさに応じて負担をして貰う。大きな船が入れるようにする為の費えだな。それから百姓の年貢が年三割であるが、商人らも上げた益の三割を冥加金として納めること。帳簿をつけて毎年公儀に申しつけるようにせよ。帳簿の書き方はそこの葛屋、或いは住友に聞くこと。なお帳簿に嘘偽りがあった場合は該当年の売り上げ全額を罰金として徴収する」


 時々抜き打ちで財務調査をする必要はあるだろうな。そして経済規模が大きくなったら累進課税を導入したいが、税務の役人が足りないからしかたない。しかし葛屋の遠野支店の番頭としてきた田助というやつは拾いものだったな。そろばんだけでなく複式簿記まで開発してくれたので転生者かと思ったがそれ以外はおかしな言動はないのでとりあえず様子見にしている。


「それでだ、この近くにある白山島に城を設ける故、人足を出してほしい。協力してくれれば今後三年間の冥加金を免除いたす。百姓の場合は年貢を三年免除いたす」


 さらに飯や給与は此方が支払うから人足に来る者は少なくないだろう。


「なお城が出来たら次はこのあたりの川を抜本的に改修いたす」


「ど、どういうことで御座いましょうか」


 肝煎の一人が思わず声をあげ、慌てて口をつぐむ。


「よい、よく聞いてくれた。直ぐにできるものでは無いが、まずこのあたりの川と水害の調査から始まる。年月はかかるが必ずやこの地を瑞穂溢れる沃土にする故、皆の手を貸してほしいのだ」


 戦と同じだ。まずは敵を知ることそして今我らの持つ技術と資金で実現できる範囲で少しずつ改良していく。


 結局、人心掌握もあって関東より先に越後の開発になりそうだ。まあ利根川の治水もゆっくり進めるしか無いからどちらも直ぐには出来ぬか。


「それに併せて越後の統治はそこの来内新兵衛に任せた。此奴は陸奥を流れる大河の改修も担当しておったから治水の知識は当家随一となっている故な」


 北上川の改修も担当したからこのあたりの河川改修にも必ずや辣腕を振るってくれるだろう。


「もしや殿、そのこともあって俺を?」


「うむ、建設卿の経験が活かせるだろう」


「やはりそう言うことでしたか」


「何を言うか、貴様が俺の腹心であることに違いは無い」


「そう仰って頂けるのは有り難いのですがね」


「まあ期待しているよ」


「わかりました。なんとかやってみます」


 新兵衛も納得してくれたしこれでよし。後は三条から長尾が妨害に来ないか警戒の兵を巡回させておけば良かろう。

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