第五百三十九話 生命線
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
斯波詮定にはいきなりこちらの意思を無視しないところを評価していると言ったが、一方でやはり反抗の意自体は消えていないのだなということを再確認する。
完全に思惑が一致するなんてことは無いから致し方ない。反発心はあれど反抗せず、きちんと報告をしてくれるものは重用するようにしたほうが良かろう。有能であっても勝手をされてはそこから崩れてしまうかもしれん。
「しかしやはり満蒙は生命線になってしまうか」
思わず嘆息せざるを得ない。いやだと思っても資源と広大な農地という魅力には抗えないか。
「そうなるのね」
「満蒙というのは何でございますの?」
子どもたちは皆学校に行くようになり、出生時仮死だった大丸も元気いっぱいで手に余るので親父とお袋の隠居城に預けて今日はのんびりしている。
「満蒙というのは満州と蒙古のことだ。今は女真と呼ばれている土地は俺の生きた時代には満州と言われていた。蒙古は蒙古の土地のことだな」
どこと聞かれても難しいので簡単な世界地図を描いて見せる。
「よく何も見ずに世界地図をかけるわね」
「そうかな。結構適当だぞ」
大まかな形しか覚えてないから怪しいもんだが、此の時代にあるどの世界地図よりも正確なんだろう。後で燃やしておかなければ。
「この世はこのような形になっているのですね……、それでどこが日ノ本なのですか?」
「ここだ」
明と朝鮮と書いた横に日ノ本と書く。
「え、これだけなのですか!?」
「そうだ、そして当家はここ」
遠野に星マークをつけ、日本のおよそ半分と千島樺太勘察加に浦塩、マリアナ諸島までを赤く塗る。実効支配できているかと言われると疑問だがとりあえずだ。
「ずいぶんと広くなったわね。勘察加は人送り込めてるの?」
「まあ択捉と樺太までだな。勘察加は一応番屋はあるが常駐はない」
ちょっとへんぴすぎるんだよな。木材と水産資源はほぼ無尽蔵だが遠いし寒いし開拓は難航を極めそうだ。
「御屋形様の土地はそれでも広いんですね。明はとても大きいのですね」
「そうだな。人も銭も日ノ本すべてを併せた十倍くらいある此の時代で最強の国の一つだ」
「日ノ本すべての十倍でございますか」
藤子が驚いたように声を漏らす。それでも十倍くらいの差なら技術が進展すれば簡単にひっくり返るのだけどね。そして一度できた技術格差は目に見えずともとてつもない差となり、その差を埋めるのは途方もない努力が必要になる。
「他に大きな国っていうとトルコだったかしら」
「そうだね。明が東の超大国なら、オスマン帝国が西の超大国か」
「明の他にも大きな国があるのですか?」
「うむ、あとはインド、この時代で言うなら天竺だな。あそこにも大きな国があったはずだ」
この時代は農業生産力が国力にほぼ直結するから生産力の大きな中国やインドが圧倒的な国力を有するんだよな。そしてオスマンはそこまで生産力に優位だったんだろうか。よくわからんけど大帝国を築いたからたぶんそうなんだろう。
「確かイグナチオの報告書にはオスマンが攻勢を強めており、欧州は試練にさらされているとか書いてあったが、実際のところ此の時期のオスマンはどれほどのものなんだろうな。イグナチオに教会だけ作らせて定期的に欧州情勢を送らせればよかったな」
今がオスマンの最盛期なのだろうか。それとレパントの海戦はもうあったのだろうか。もしまだならオスマン帝国がレパントで勝利していたら世界史はどうなっていたんだろうな。最終的にはオスマン帝国の維持はできなくなるだろうけどちょっと興味がある。
「え、もしかしてイグナチオさん……」
「多分今頃帰国の途じゃないかな。しらんけど」
「また悪いことしたのね」
雪からなんともひどい言い草を頂戴する。
「宣教師なんだから殉職しても箔が付くって奴だよ」
宣教師が殉職したら聖者かなんかになれるんじゃ無かったかな。まあ単なる海難事故であればその限りでは無いだろうけど。
「日ノ本、いい加減日ノ本は言いにくいな。略して日本と呼ぼう。日本は今後西の超大国オスマン(予定)とも交流を持つか」
「何を考えてるのかわかんないけど、ろくなことじゃなさそうね」
「失礼な。向こうの進んだ学問を手に入れたいだけだぞ」
学問のレベルは確かまだオスマンが優越しているはずだ。少なくとも我らが持っていない技術などがあるだろう。宗教関連も入ってきそうなのが困ったところだが、ガラスや冶金にそのほかの無機化学と言った知識は必要だ。
「本当に?」
「本当だぞ?軍事力だけでは超大国にはなれないからな。明から知識を輸入しているようにオスマンからも輸入するだけだ」
補給といっても前線に運び込む能力だけで無く、必要な物を不足無く作って必要なときに投入できる能力を構築できなければ超大国たり得んわけだ。多分俺の超大国観はアメリカの影響がでかすぎるんだろうけどそこまで的を外してはいないだろう。
何はともあれオスマンと繋がりを得たいのだがはてさてどうした物か。いきなり押しかけても足下を見られるかもしれんしどうしたものだろうな、と考えながら世界地図を
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