第五百二十二話 佐渡攻略へ
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
「さて民部少輔は旅立ったわけだが、諸国諸家はどう出るか」
「そんなのわからないわ。もう私が知ってる歴史じゃないもの」
「それはそうだな。俺もこんなのは思ってもいなかったよ」
まさか管領が幕府を捨ててくるなんてな。これこそもはや幕府が有名無実の証明になるだろう。大樹や幕府は認めぬだろうがな。それより面倒なのは幕府におもねった公卿公家等だ。四国では一条家の影響力はでかいだろうし、すでに斜陽だが伊予の西園寺家も居るからな。
現時点ででかい家となると筆頭は細川京兆家。高国が逃げてきたので必然的に細川晴元が京兆家を名乗り管領になるのかどうかはわからんがそれなりになるだろう。一方で六角も史実より勢力伸長しているので細川晴元と六角定頼で一発でかい戦が起きるかもしれないな。
三好長慶は出てくるのだろうか。三好元長がどうなるんだろうか。やっぱり堺公方の取り扱いで晴元と仲が悪くなって謀殺されるんだろうか。
「一向宗との関わり合いも変わってきそうね」
「一向宗か……本願寺は比叡山と興福寺と高野山とともに焼かねばならんやつではあるが」
織田信長も手を焼いた石山合戦は当家であっても一筋縄には行かないだろう。大義名分も必要になるしな。とそこは今考えることではない。
「それで動員計画と練兵の養成計画はどうなっている」
「それでこちらの裁可を頂きたく」
毒沢次郎と大槌得守と共に書類を提出してくる。内容は陸軍が来年までに練兵全体で約二万人、短期養成のほぼ徴発兵が約二万人の計約四万人、海軍が蒸気船とスクーナーからなる艦隊を太平洋と日本海にそれぞれ一つずつ、それを補助するスループのほか旧式艦からなる補助艦隊が動員される。
「随分と大規模な戦争するのね」
雪が眉をひそめる。
「戦闘正面が一箇所ではないことが予想されるからな」
バラバラに攻めてきたら各個撃破しやすいので悪くないのだが、それが陽動で守護代に側面を突かれては困るからな。
前世のように素早く移動できるならこんな規模は不要かもしれないけどあいにく鉄道すら釜石鉱山への木道トロッコが敷設完了したところでしかないからな。
「古河城の守将には伊達景宗にやらせようと思う」
「伊達、ですか?」
「そろそろ奴にも活躍の場を与えてやらねばならぬからな」
毒沢次郎も大槌得守も訝しげだ。
「まあ殿が良いと仰るなら構いませぬが」
「言ってはなんですが伊達は余り信用できぬかと」
「言いたいことはわかるがな」
やはり不満か。しかし余り口にしては謀が漏れてしまうからなあ。
「とはいえ殿のことですから何か仕掛けるのでしょう」
「あーあぁそういえばそうだな。態々伊達を使うと言うからにはそれなりに使い道があるのだろう。伊達も可哀想になあ」
毒沢次郎の言葉に大槌得守が膝を打つ。なんだか話の流れがおかしいような。これでは謀にならないかもしれない、がまあそれはそれでいいか。
「大方わざと敵と通じさせて油断を誘う作戦で御座ろうなあ」
「何かあったとしても伊達が名誉の戦死を遂げて怪しい当主が一人いなくなるだけだしな」
二人とも酷い言い草だな。
「降伏後は真面目にやってきた当家の者なのだからそれくらいにしておいてくれ」
「失礼いたしました」
「日本海の制海権確保のために一足早く佐渡島を得てしまいたいのですが」
「ふむ、管領殿が諸国遊説に行っているから示威行為と新兵らに経験を積ませる目的で攻めるのも善かろう。金山も得られるしな」
海軍がでかくなると財政的な負担も大きくなるからこのあたりで日本史上二位の金山を確保しておくのもよかろう。
「では佐渡攻略、そうだな朱鷺作戦とでもするか。なるべく早急な制圧を頼むぞ」
「お任せを。それでは提督とともに朱鷺作戦の立案をして参ります」
「次郎殿、佐渡は山が険しく大軍の利は活かせぬかも知れぬぞ」
「対ゲリラと言うことか。しかし援軍が得られぬよう海軍が抑えてくれればそう難しくは無いでしょう?」
「流石に夜の闇に紛れられてはどうしようもありませぬが」
「夜の海を渡るなんて恐ろしそうですな」
と話ながら二人が退室していく。
佐渡は惣領家で幕府の奉公衆である
攻略作戦はあの二人に任せておけばまあ問題無かろう。佐渡を手に入れていくらか陸軍と海軍を配備すれば春日山城からおいそれと出てくることも難しくなるだろう。
金山は重要だが同じくらい重要なのが両津港だな。あの地形は避難港としても中継港としても優秀だろう。この時代新潟港はほとんど湿地で開発が困難だしな。
「佐渡金山が手に入るわね」
「伊豆の土肥金山以上だからこれで金銀複本位制への移行も出来るかもしれんぞ」
「金銀複本位制?」
「この近く、というかこの時代最大の経済圏である明が銀本位制だから貿易用に銀貨、高額貨幣として金貨、その他の補助貨幣として銅貨を使うけど本位貨幣としては金と銀だ」
とは言え実質上は銀本位制になるかな。まあそれはそれで構わんか。併せて中央銀行の設立と金銀比価の設定などもし、江戸末期の大量の金流出を未然に防いでしまいたいな。
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