第五百十二話 水戸の戦い
水戸城 阿曽沼陸奥守遠野太郎親郷
水戸城に着いた頃には西に鹿島のほか土岐や行方など霞ヶ浦周辺の土豪等の幟が集まっている。
「待たせたな。状況はどうか?」
「南方三十三館の連中がそろってやってきておりますが」
「よくまあ集まったもんだ」
烏合の衆ではあるがそれでも四千を超えていそうだ。
「小弓公方にどう口説かれたのかはわかりませぬが厄介ではありますな」
「敵はこれだけか?左近、勘次郎、古河方面はどうなっている」
「今のところ動きは見えませぬ」
「藤王丸らは未だに栗原を攻め落とせておらぬか?」
「はい。五郎殿(上杉朝興)は粘り強く戦っているようで」
寡兵にもかかわらずよく頑張ってるじゃないか。追い詰められて覚醒したか。
「であれば西側はあまり気にせずとも良いか。しかし奴らは鹿島城への砲撃は知っておるだろう?」
「だと思うのですが、今の当家に弾薬がないとかいう噂が流れているようで」
そんな情報を流したっけ。まあ一昨年から去年にかけてたらふく使ったからそう早合点してもおかしくはないか。実際まだ十分な備蓄量ではないし。
しかし当家の中に情報を流すやつがいるかもしれん、まあ一番流してるのは俺なんだが。
「ところで堀を越えようというものがおらぬようだが」
「ああそれは石油、火龍に敵方の足軽が怯えているようでして」
新聞の特集で阿曽沼秘密兵器の一つとして火龍が載っていたから、しっかり新聞を買ってくれているようで嬉しいね。
「堀を越えねば城は落とせんだろう。やはり陽動か?」
少なくとも当家以外で海を渡るとしたら北条くらいか、敵対するのであればだが。そもそも我が海軍が居るから大規模な移動も難しかろう。
「もし陽動としますと、ここでもなく古河でもないわけですので」
「あるとすれば小田城か」
小田政治がなかなか人望はあるようで、小田城から敗走したあとも民からは復帰を願うものがいるとか。
「左近、小田城の動きは」
「特にこれというものは来ておりませぬ」
「そうか」
しかし怪しいな。があちらにも兵はある程度入れているからなんとかなるだろう。今はまず目の前の敵を追い散らさねばな。
「城兵から二千を抽出し敵の後背を突く」
城には直衛含めて五千が詰めているので四割だな。
「殿は如何なさるので?」
「俺はここを動けんから」
「お方様(雪)に叱られますか」
「そうなんだよ。なんでまあ相去佐兵衛、其方が率いて後背を突け。やれるな?」
「は、はは!必ずや」
「もしかしたらほとんど幟のない小弓がそれを読んで伏兵を置いているやも知れん。危ないと思えば直ぐに逃げろ」
「は。細心の注意で迅速果敢に敵兵を追い払って見せまする」
「む、無理はせぬようにな」
釘は刺したつもりだが、まあ佐兵衛も何度か戦場を経験しておるから無茶はせんだろう。
「奴にもそろそろ指揮官として活躍して貰わねば」
「まあ演習でも堅実な用兵が持ち味の奴ですからね。上手いことやってくれるでしょう」
「そうだな」
日が落ちて敵陣で炊事の煙が落ち着き、そろそろ月が天頂にさしかかる頃、にわかに敵陣が明るく燃え上がる。
「始まりましたな」
「ああ」
手を上げると太鼓が鳴り、続いて試製の葡萄弾が数発発砲され、突撃喇叭が響いて兵等が一気呵成に城を出て行くのが見える。
「飯食って気が抜けて寝てしまったか。ここは戦場だってのになあ」
「まあ人間誰しも飯と睡眠の誘惑には勝てませぬからね」
「まあ実際どうしようもないからな」
それこそ疲労がポンととれる薬でもあれば話は別だろうが、生憎とそんな薬は無い。あっても俺が生きているうちは使わせる気もないが。
せめて作戦時の食事と睡眠は改善してやりたいが、行軍食の改善と寝袋等の完全支給を目指してはいるものの瓶詰めは未だ無いし、寝袋も兎の皮で作るから大量生産が難しく間に合っていない。瓶詰めがないならせめて炊事車を作るのもいいか。帰ったら工部大輔に、いややつは忙しいか。先端技術研究所に開発を指示するでよかろう。いっそそろそろ軍装備の開発は軍でやらせるか。
「敵が散り散りになったな」
「深追いをする者が居るようですぞ」
月が明るいがかと言って昼間のような明るさはなくそこここに深淵のような影がある。
「深追いは無用と言ったはずだが」
まあ功を焦るやつはいるだろうな。ある程度追いかけたところで敵の待ち伏せに遭い、深追いした部隊はほぼ壊滅、わずかな兵が這々の体で逃げ帰ってきたと報告が入る。敵もよくまあ数日間伏兵出来てたもんだ。
「貴様等をいっぱしの兵卒に育てるのも安くはないのだがなあ」
軽く嘆息すると逃げ戻ってきた兵等は恐縮仕切りだ。まあ今後此奴等も慎重になるだろうから今回は不問にした。
「さて今日は確り休め。さて日が明けたら南方三十三館の者たちに遣いを送り今回の暴挙は水に流してやるので十日後までに水戸城に参上するよう申しつけろ。遅れた場合は首を洗って待っているようにと付け加えてな」
まあどうせ反発するだろうかどこかの機会に、佐竹義宣を倣って宴で謀殺してやれば叛乱の芽もなくなっていいな。まあ先に香取海を超えて小弓公方を討つのが優先ではあるが。
「殿、小田城が攻められて御座います」
そう思っていた矢先にこれだ。やはり本命は小田城か。
「わかった。兵を休めたら直ぐに差し向ける」
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