第五百五話 色々増産傾向です
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
各種生産量の報告書を眺めているとふと気がつく。
「なんだか最近反物の生産量がずいぶんと増えてきたな」
「羊毛は増えてるからそれじゃないの?」
羊の飼育量が少しずつ増えていることで毛糸の生産量は少し増えているが、それを超える生産量の増加だ。
「生糸の生産も増えてるんじゃないの?」
「それはそう。まあ確かに生糸も質はともかく生産量増えてきたからね」
増産させているのはあるが、そんなに劇的に増えるほどでもないはずなんだけどな。ちなみに質が良いものは検定済み証が焼き印された箱に入れられている。偽造したものは監獄に送られて北海道の開拓に汗を流してくれている。
「綿の輸入量はどうなの?」
「んーと綿花での輸入も増えてきたね。種ついてるから綿実油も作れそうだ」
これが原因かな。堺や博多を経由するよりだいぶ安く綿花も綿糸も手に入るからその影響で布の生産量が増えたのかもしれないな。
あとはもしかしたら京からくすねてきた高機が普及してきたのかもしれんな。まあ良いことだし、今度織物工場を視察に行こう。
副産物として綿実が手に入るので油もとれそうだ。
「綿実油ができるならツナ缶の油にも使えるわよ」
「へぇ、便利なんだな。あ、そうだ。瓶詰、欲しいなあ」
チラチラッと雪を見る。
「いい歳してちらちら視線を送るのは痛いわよ」
「うぐっ!」
「やるのはいいけどスクリューキャップどころかコルクも蜜蝋も無いのにどうするの?」
「コルクかぁ、質は落ちるけど西日本に自生するアベマキで代用が可能だ。蜜蝋は養蜂するしかないがニホンミツバチの養蜂とかやり方わからない」
「それこそ農業試験場に調べさせればいいじゃない」
「それもそうか。というかなんでコルクと蜜蝋なんだ?」
「スクリューキャップとか鑞付けとかできなかった時代はコルクで軽く蓋をして湯煎して蜜蝋で密封してたのよ」
「なるほどなあ。コルクで栓になるし蜜蝋をかければワックスで割と確り密閉になるな」
しかし西国は遠い。養蜂が成功して商業ベースになるまでの期間を考えれば十分な猶予になるか。出来てくれれば食糧事情が劇的に改善されるんだが気長にやるっきゃないか。
鑞付けは鋳掛けで行けそうな気はするが、使いやすいだろう錫は明から買っているが量が少なく余裕がない。
「技術も素材も足りないな」
「しょうがないじゃない。そんなチートなんて存在しないんだから」
「錬金術でも出来ればいいんだけどな」
「片腕無くなりそうね」
なんかそういうのあったような気がするがそれは置いておこう。
「何にせよ無い物ねだりでしかないから、少しずつ進めていくしかないか」
後日満次郎を呼び出して養蜂出来ないか相談してみたが、まあ俺の相談なのでほぼ命令だと判断し検証しますときたもんだ。それと来たついでにジャガイモ、この世界ではパタタ芋だが、の栽培状況が報告され、今のところ順調に栽培出来ているという。
「穫れたら持ってきてくれ」
このあたりだと夏頃か秋前くらいかな。
「承知しました」
なにがいいかねえ。シンプルにふかし芋にして塩で食べるのもいいし、油はあるから素揚げにするのも良いし、豚肉とタマネギで肉じゃがにするのもいいな。芋料理の定番であるフライドポテトだが、ポテトマシンがあれば赤いアフロのハンバーガーショップのポテトもどきが作れるな。香辛料が気軽に手に入るならカレーも食いたいね。賛否あるけど俺はジャガイモ入りのカレー好きなんだったんだよね。
満次郎が下がったあととりあえずポテトマシンが作れないか金物屋を呼び出して聞いてみると難しくはないとのことだったので銭を弾んで作らせることにした。時間もまだまだあるから急がなくても良いとも付け加えて。
ジャガイモが普及すれば将来起こるはずの大飢饉でもなんとか食いつなぐことが出来るだろう。食糧が確保できるとなればこの東北や北海道もぐっと人口が増えるだろうし入植可能な土地が広くなる。ジャガイモ飢饉が起きなければだけど。
あとはサツマイモとトウモロコシが手に入れば良いがアメリカ大陸まで直接取りに行ければな。その場合はメキシコでスペインと戦争になるかもしれんからつらいが。
海外に進出するにしても早めに天下統一しないとどうにもならないな。が、毎年の戦は難しい。しかし小弓公方が鎌倉まで攻め込んで、里見が三浦半島に攻め込み、上杉朝興は押され気味というから関東の情勢は予断を赦さない。
一方で越後では長尾為景が暴れて家中が乱れているというからこの隙に佐渡を制圧したいところだ。折角乱れたのだから攻め入りたいが、去年一昨年と戦が続いたから厳しいんだよな。
恐らく一向宗が越中で盛り返すだろうからそこで便乗して長尾を挟み撃ちにするなり、まず無いだろうが長尾為景が泣きついてくるようなら恩を売れるかもしれんな。
兵の訓練もあるし、又三郎の祝言もあるし今年いっぱいは平和でありたいものだな。
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