第四百九十八話 新聞発刊

遠野新聞舗 桃花


 なぜか新聞というものを作るよう仰せつかった桃花です。このあらたな取り組みは殿の言うところ、遠野や周辺の出来事などをまとめたものだそうです。しかしこのような紙に書いて方々に運ぶとなっては他領に我らのどうこうが筒抜けになるのではと危惧するところです、どうせ草がそこかしこにいるからあえて重要度の低い情報を若干誇張して流すのだといいますがどうなるやら。


 さらにこれを暗号としても使えるようになるとおっしゃっておりますし保安局内で暗号表を作るよう指示がありました。相変わらず殿の頭の中がどうなっているのかわかりません。


「たくさん作るようにとのことだけど、写経のようにしていくのではなく紙屋様が最近作られた紙型ってので鉛版を作ってそれで刷っていくと……」


 これを活版印刷と言うそうですが殿は一体どこでそんなのをお知りになったのか。


「というわけで皆さんには与力いただくわけですが」


「文を書くなら鵺が良いだろう」


「鵺殿ですか。確かに誰でもわかりやすく説明するのが上手でございますね」


「ふん、俺でなくてもそんなことくらい容易いだろう?」


 少し耳を赤くしながら鵺殿がそういう。


「まあ異論ござらぬようですので文は鵺殿に任せよう」


 その後は版を作って、墨を塗って平らな台で工部大輔様が作ったという印刷機で紙に押し当てれば一日に何枚も簡単に作れる。各地に売りに行くのは遠野商会と住友商会にまかせ、まずは安定して新聞を発行できるようにとのお達し通りに進めることになっている。


「というわけで最初の新聞はどういう内容にしようか」


「そりゃあ決まってる。殿が如何にこの遠野を発展させたかだろう?」


「じゃあそうするか」


 若干殿の言わんとする内容とは違う気がするけどまあ最初だしな。あとはこの新聞というものがどういうものかとか遠野の細かい出来事などを書いていく。


 なんとか初めての新聞とやらができたのは作業を開始して五日後、そして出来たのは百枚だった。



山田湾 奥州造船所


「えぇとこの骸炭を作るときに出たこの油を塗った鉄の板を木の板の代わりにするってえのかい?」


「そういうことらしいぞ。しかし本当に鉄で作った船が浮くもんなんかね?」


「提督が先日鉄の板を曲げて作った船もどきが浮いていただろ」


「まあ確かにそうだけどよ、ありゃあ手のひら位の小さいものだから浮いてたんじゃねぇのか?」


「そうかもしれねえけど鉄で船が作れるっていうなら作ってみたいだろ?」


「そりゃあね」


 製鉄所に新しく設置された圧延機により七分(約21mm)程度の厚さに作られた黒い鉄板が降ろされていく。


「ところどころに穴が空いてるがあそこに螺子を入れて止めていくわけか」


「釘を使わん船ということか」


 次いで同じく製鉄所の隣にできた螺子工場から運び込まれたボルトとナットが水揚げされる。


「これが船に使う螺子か」


「ずいぶんと大きいな」


「この螺子にこの輪っかをつけて鉄板を通し、反対側にもこの輪っかともう一個ゴツい輪っかを入れて回せば締まるらしい」


 試しに近くの鉄板を二枚重ねてネジで締めるとがっちり止まる。


「へえこりゃいいな。こんな便利な留め具があったんだな」


「普通の船にも使えそうじゃねぇか?」


 船大工同士やいやい話しをしながら組み上がっていく船の骨組みを眺める。


「ま、何事もやってみるっきゃねぇな」



遠野農業試験場


「このパタタという芋はそんなに水がなくてもできるそうだ」


 満次郎が預けられた種子、その中でも最優先でと言われたパタタの栽培に取り組むことになった。そのことを満次郎から試験場の皆に伝えられる。


「さらに寒いところでもできる芋だそうで、これができれば里芋ができぬ場所でも芋を食うことができるようになるそうだ」


「へえ、そいつはすごいですね。しかし南蛮てえのは米が採れないのかい?」


「殿が言うには一部を除いて米を作るには寒すぎるんだと」


「なるほど南蛮はこの奥州と似たような感じか。しっかし殿はなんでそんな事も知ってるんだ?」


「そりゃあ稲荷大明神から色々聞けるからだろう」


「おめえ本当にそんな話信じてんのかよ?」


「でなきゃこんなに知ってるわけねえべ」


「そりゃそうだけどよ……」


 わいわいと場が盛り上がる。そこに満次郎が手を叩いて場を鎮める。


「それでだ、このぱたた芋を早速植え付けるわけだが……この芽が出ているものでいいか。これを半分に切って植えれば良いと」


「味はどうなんだい?」


「殿が言うには美味と。ただし芽の部分には毒があるから投げるよう言われている」


 美味いんなら頑張んなきゃなと言って皆が立ち上がり、まず芋を半分に切って切り口に灰をまぶして畑に持って出、高めに立てた畝に入れていく。


「雲が出てきたな」


「雨が降ってくれるなら都合いいな」


 こうして芋づくりが始まった。

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