第四百九十三話 北条氏綱の援軍
八椚城 阿曽沼遠野太郎親郷
「新九郎殿、わざわざ
今回の戦が終わったら久しぶりに顔を見たい伊勢に文を送ったら新九郎がやってきた。
「なに多少は我が領も落ち着きましたからな、陸奥守殿の戦を手伝い参じるのは当然で御座る」
「出来れば遠野に招きたかったが」
「お気になさらずに。それと陸奥守殿の助けになるかとも思い、少しですが兵を連れてきております故どうぞご自由に使ってくだされ」
「ご助力まで頂けるとは重ね重ね有り難く」
「何、先の戦では陸奥守殿の海からの砲撃と後方を突いてくれたお陰で上杉めを追い返すことが出来申したからな。これくらい何と言うことは御座いませぬ」
「歴戦の北条の
相州は未だ灼かれた爪痕が酷いと聞くがな。それに分裂して統率力が落ちているとは言え扇谷の領内をよく通り抜けて来られたもんだ。
「ところで豊の奴は元気でしょうか?」
「それはもう。元気すぎて馬場を皆で駆けております」
「そうか……それは……手間を掛けますな……」
若干新九郎が疲れ気味にそう答える。あいつ向こうで一体何をしているんだ。
「いえ、豊のお陰で先の戦は士気を維持できましたから」
「ほぅ、豊の奴がですか?」
なんでも冑姿で方々の将や足軽に声を掛けて回っていたそうな。我が妹ながらよくやる。そしてそれがどの程度だったかにもよるが使えるな。保安局と商人等に相州の情勢をつぶさに報告させるか。
「何にせよ、新九郎殿のお役に立てたのであれば嫁に出してよう御座いました」
「兵糧も頂きましたお陰であの後飢える者もおらずなんとかやっております」
「それは重畳。ところでその兵糧の話だが」
「なんで御座いましょう」
「いやなに兵を出していただいて斯様なお願いをするのも厚かましいものではありますが」
「某に出来ることであれば何なりと」
「それを聞いて安心した。武州や総州への荷止めを当家はしておるのですが、新九郎殿にも手伝っていただきたく」
「荷止めで御座いますか」
「ええ、上州を制したら修理大夫(上杉朝興)の為にも武州に出るでな。それは向こうも理解しておるようで戦仕度をしているようでしてな」
「ほぉそうで御座いますか」
へぇそうきたか。
「それで当家にも其の荷止めをと言うことで御座いますな?」
「そういうことなのだが頼まれてくれますかな?」
「勿論でございます。ただ我が領内の復興に荷がたくさん行き来しておりますからそこから漏れていくものはあるかと」
「無論それは承知しております。糧食など必要なものがあればいくらか用立ても致しましょう」
「ではなるべく抜け荷が無いように」
「無理を言って済みませんな」
「いえいえとんでもござらぬ」
いやしかし以前あったときとはずいぶんな変わり様だな。宗瑞が死んだからか?それともこれが素だったとすればとんだ食わせ者だな。
「酒でもと思うが戦場故すまぬな」
「とんでもござらぬ。某は我らの陣に戻っておりますので動くときはお知らせください」
そういって北条氏綱が八椚城を出て行く。
「左近」
「ここに」
「相州と豆州の情報をなるべくつぶさに。それから豊の件が真か確認してきて欲しい」
「承知しました。必要とあらば工作も?」
「そこは任せるよ」
「あと北条の領内から武州や総州に荷が行くならその全て……あぁいや食い物だけ燃やせ」
「御意」
まあさっきのことがあっての商人襲撃となれば俺が疑われるだろうが仕方が無い。新九郎が何を考えているかは分からぬが敵対する可能性はやはり考えておかねばならんか。
里見の水軍を使って荷運びをするかもしれんな。蒸気船がもっとあればな。
「それと豊の子はなんといったかな」
「勝千代様と弁千代様で御座いますかな」
「勝千代と弁千代か。ふむ、先の豊の働きが真であらば民の中には後嗣について声を出す者も居るんじゃないか?」
「ふむ……左様ですな。確かに豊様のお働きが伊勢の言うとおりで御座いますればそのような声が出るのも道理」
「任せるぞ?」
「お任せあれ」
「また悪巧みですか」
左近が出て行くのと入れ替わるように来内新兵衛が入ってくる。
「悪巧みとは人聞きの悪い。豊が小田原の戦いで活躍したと言うからな。確認してくれと言ったんだ」
「そんなことだけで保安局を動かさんでしょうに……まあ構いませんがね」
「それで如何したんだ?」
「岩井山城を囲む堤が出来ましたので」
「出来たか」
「早速水を入れ始めましたが雪解け水も流れ込んでいるのかなかなかいい具合に溜まってきております」
「わかった。其方は引き続き作業を」
「とは言いましても後は堰を石積みにしていく位ですので今やる必要も無いかと」
「それはそうだな。又三郎が越後に攻め入った知らせがいつ来るかだが」
「たしか旗を振って知らせるのでしたな」
狼煙では雲と混じって見分けがつかないかもしれない。その点赤く染め抜いた旗を振るだけなら見間違いようも無いだろう。
そして旗が振られたのを確認したら足利城に攻め寄せて砲撃を一斉射、そして三国峠で爆弾を使って雪崩を起こし退路を一時的に断つ作戦だ。
「ええと今回の作戦名は何でしたかな」
「雪中花作戦だ」
「水仙ではないのですね」
「雪中花のほうが格好がいいからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます