第四百九十一話 先祖の地
岩船山本陣 阿曽沼陸奥守遠野太郎親郷
佐野攻略戦を開始した。
しかし東から侵入しようとするも
「なかなかやるな」
「関東管領は病に伏したとか或いは死んだとか聞きますが士気が高いですな」
毒沢次郎が相手の動きに感心している。
ほぼ一冬の時間を稼がせてしまったということもあって佐野側に谷を抜ける最も狭い場所で土塁と堀が築かれ攻略を難しいものにしている。
「これならブルドーザーを持ってくれば良かったな」
「確かに。アレがあれば堀を埋めてしまえますからな」
「とはいえ今からではこの攻略戦には間に合わんな」
「もっと数があれば良いんですけどね」
何台か軍に装備させるか。となると工兵の養成が必要になるから工兵学校を軍内に作って使用と整備が出来るようにしておかないとな。
「三毳山の南側を迂回できればもう少し楽だろうが」
「あちらも柵と堀が御座いますからなあ。あまり変わりませんな」
「そうだな。まあ上遠野がそろそろ後方撹乱をはじめるはずだからそれまでは我慢だな」
時折赤く焼けた砲弾を土塁の向こうに放り込むと悲鳴と共に少しの間火の手が上がり、少し怯むのか此方への攻撃が緩む。その隙を突いて堀を少しずつ埋めていく。
怯むだけで時間をおけば再度矢を射ってくるのはよく統率がとれているなと感心する。
日が暮れると土塁の向こうで爆発音が鳴り響く。
「来たか!よし総攻撃かかれ!」
一部の堀を埋め立て終えて一番槍を買って出たのは箕輪衆を説得できなかった責を取ると言った塚原卜伝達抜刀隊だ。抜刀隊だが槍だとか長巻だとか薙刀を持っていたりするようだ。その抜刀隊を援護するために鉄砲隊と弓隊が続いて土塁から撃ちかけ援護射撃を行うと敵の後方で散発的に続く爆発音も相まって総崩れとなり漸く佐野の地になだれ込み、勢いのまま黒袴城と鐙塚城を制圧した。
「ここが御先祖様が有していた阿曽沼の地か」
そして翌日、掘割の後と思しき遺構以外ははっきりしない土地に到着した。
「今は浅沼と呼ばれているようです」
文和年間(1352年〜1356年)に小山に押領されて以来、漸く取り戻すことが出来そうだ。これだけでも今生の御先祖様に自慢できよう。
そして我らがなだれ込んだことを受けて佐野軍は唐沢山城に、関東管領の軍は家宰である長尾景長の岩井山城に退却して行った。
「さてこれからの事も考えると城を築かねばならぬがどこにするか」
御先祖様が城を作ったこの場所でもいいが。
「そうであらば兄上、あそこに見えます少し小高くなった場所は如何でしょうか」
浅沼からやや北西に見える小高い丘を又三郎が指さす。佐野という村だそうだ。
「そうするか。ではこの地には社を建てて先祖供養としよう」
武士らしく八幡社にでもするか。
「では佐野村に城を築いてじっくりと唐沢山城を攻略するか」
翌日から近隣の百姓を集めて早速城を構築していき、土塁だけだが七日で完成した。後は外堀と曲輪の構築をしつつ栃木城から物資を輸送、備蓄していく。
そして南西部に阿曽沼八幡社として鳥居と祠を作り、残りの荒れ地は駄馬用の牧と馬場にした。
「わずか半月での突貫工事だからこんなものか」
「とりあえずは十分で御座いましょう」
城も出来て補給の問題も解決されたため、唐沢山城攻略に取りかかろうとしたところで佐野が降参すると言ってきた。
「それでお認めになったのですか」
「そりゃあわざわざ降参してきた奴を追い返すわけにもいかんだろう」
又三郎はどこか釈然としない様子で自室に戻っていく。まあ俺もだが、何というか振り上げた拳の降ろしどころが急に消えてしまった感じだ。
「城攻めのために半月で城を作るような奴とは戦出来ぬとかなんとか言っておりましたね」
残った毒沢次郎と話を続ける。
「このあたりの百姓も戦続きで飯もろくに食えてない奴が多かったようだからな」
飯を食わせて多少の銭を与えるだけで働いてくれるんだ。楽なもんだ。
「まあ銭と言っても殿が作っている私鋳銭ですが」
「銭に変わりないさ」
なんなら恐らく今日本で出回っている銭の中でもピカイチの品質だろう。
「ところでそんなに銭を作って銅は足りるのですか?」
「問題は無い。なんならこの先にも大量の銅が眠っているからな」
「このあたりに銅が?」
「足尾銅山は知っているだろう?」
「ええ、公害の……って、ええ?足尾銅山ってこのあたりだったんですか」
「そうだよ。足利の奥にあるんだが、まだ発見されていないはずだ」
確か江戸時代に鉱床を発見していたはずだ。稼働中の田老、鋭意探索中の阿仁鉱山に日立鉱山、そしてこの足尾銅山を見つければ少なくとも銅が不足することは無くなる。そうすれば銭はいくらでも量産可能だな。汚染は心配だが。
あとはそろそろ銅線の製造も始めたいな。いい加減電気が欲しい。
「さて佐野に先鋒を任せて足尾銅山を確保しに行こうじゃ無いか」
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