第四百八十一話 豚まん
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
親王と准三宮を上座に迎えて挨拶が始まる。
「陸奥守はよく治めておるようやな。天晴でおじゃる」
「有難きお言葉に存じまする」
俺と家族、そして一門に清之が同室、それ以外は一つ下がった部屋、あるいは其の先の庭にひれ伏している状況だ。
そこからいくつかのお言葉を頂戴したあと、このあたりの神楽や鹿子舞を披露したが意外と興味深そうにご覧になっていた。
「このあたりの神楽は獅子神楽なんやな」
「よくご存知で……」
俺も知らなかった。獅子神楽は山伏が広めたいわゆる獅子舞の一種で宮中に遺る御神楽や神人が各地を回っておこなう神楽とは違うものらしい。
そこそこ楽しんでもらったあとは食事だ。といったら親王と准三宮はもちろん、下々の地下人たちも飛び跳ねている。よっぽど腹をすかせていたのだな。
四条様が主菜、守儀叔父上が副菜を担当し、それぞれ料理の説明を行う。味付けは四条隆益様の指導で京風ぽくしているがこちらの味付けも堪能してもらうということで少し濃い目になっている。
「美味い!美味い!京におってもこんな良い物はまず食われへんぞ!」
親王も准三宮もお毒見を押しのけてバクバク飯を搔き込んでいる。
「ところで陸奥守、あれはないのか?」
「准三宮様、あれとは?」
「あれといったらあれや。肉や」
「じゅ、准三宮様、流石に親王が居られるところで四つ足のものを出すわけには……」
「ほぉ噂に聞く陸奥の薬食いか。構わんぞ。兄様に自慢が出来よう」
「し、親王殿下も……わかりました」
まあバレてもどうにでもなるか。最終的には肉食解禁するのだし。
「四条様、今から用意できますか?」
「こんなこともあろうかと用意をしております。少々お待ちくだされ」
そう言って四条様が持ってこさせたのは蒸籠。こんなのいつの間に手に入れてたんだろう。
「
雪によると酒造りが安定したので酒母をつかうことができるようになり、安定した味と量を生産出来るのだとか。
「いやあ豚まんって聞いてさ某チェーン思い出しちゃってさ。食べたくなっちゃたのよね」
と雪がいう。
「味付けはさすがは四条様ね。とても美味しいわ」
確かに。醤油と酒、そして砂糖かな。珍しい椎茸もあるぞ。
「椎茸か。栽培するの忘れていたな」
「
炭とかの需要の方が強いから仕方ないね。とそんなことを話していると親王と准三宮から歓声があがる。
「こらうまいな!」
「獣がこんなに美味いとはなあ。これは何の肉なんや?」
「お口にあったようで何よりで御座います。これは豚、山鯨を飼い慣らしたものでございます」
「山鯨がこうも美味くなるとは」
親王が四条隆重の説明に驚く。
「陸奥守や、この豚というのはたくさん増えるのか?」
「はい。これは一度に何頭もの子を生す畜生でございます。いまは北郡や津軽四郡(どちらも青森県)の米が育たぬ地で育てております」
「この豚というのは牛馬のように田畑を耕したりものを運ぶのには使うのか?」
親王から畜力として有用なものか聞かれる。
「生憎と田畑を耕したりする役には立ちませぬ。これは米や麦の代わりとなるものでございます」
「食うために育てるのか?」
「左様でございます」
「それは仏の教えに悖るのでは無いか?」
「それでは親王殿下は我らが民に仏法のために死ねと?」
「そ、そういうわけでは無いが」
「陸奥守、そのくらいにしとき」
「……失礼しました」
「いや、余としても奥羽の民のことを考えておらなんだ。許せ」
あっさり非を認めて謝ってくださったか。これが山門ならどうなっていただろうな。
「さあさあ皆、折角の宴じゃ。もっと飲んで楽しめ!」
清之が手を叩いて音頭を取って静かになった宴会に渇を入れる。
「それにしてもほんま美味いな……あてもここに残ろうかしらん」
「准三宮様……お役目も御座いましょう。って准三宮様もとは一体?」
「それはここではよう言えん。ところで鎌倉公方はどこや?」
ここでは言えぬことで親王を送り込んできただと?どういうことだ。
「左兵衛佐(足利高基)でございましたらいま施療院におりまする」
「先の戦での傷が癒えぬのか?」
「鉄砲を食らった足の傷が膿みまして高熱が続いて御座います」
貴重な石鹸を使って毎日洗っては膏薬を塗っているが抗生剤ではないので治っていない。それでも意識はあり飯も食えているから今しばらくは保つだろう。
「陸奥守、後ほど余を案内してくれぬか?」
「承知いたしました。では明日にでも」
しかし公方に用とは一体なんだ。それに准三宮様の発言……もしかしてこの奥州に居座るつもりなんだろうか。
「全く厄介なことになりそうだな」
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