第四百七十五話 関東侵入
白河本陣 阿曽沼遠野太郎親郷
「それで佐竹は領内を素通りするだけなら手出ししないと」
「とりあえずは良かろう」
今はまず宇都宮と古河を落とすのが先決なので、佐竹が出てこないならそれでよい。
「それで那須は?」
「まだ返事は来ておりません」
「待っていても仕方がない。邪魔するなら押し通ればよい」
古河府を迅速果敢に落としたいからのんびり待っては居られないので白河の関をあとにして進軍を開始した。
警戒しつつ三蔵川の谷筋に沿って進んでいると谷から平野部へと移り変わる伊王野に差し掛かる。
「この先に敵がございます」
那須六家が一家、
「矢は降ってくるだろうか?」
「さてどうでありましょう?」
「守儀叔父上、申し訳ござらぬが斥候がてら一走りしてきてくださらぬか」
「ふむ、まあよかろう」
騎兵隊の中から百騎を抽出し駆けて行き、一刻ほどして出ていったよりも多くの軍勢が戻って来た。
「おう土産だ!」
そう言って出てきたのは伊王野、高増、大田原の当主たち。ずいぶんな土産だなあ。
「我らも陸奥守様のお供をさせていただきたく存じます」
「構わんが当家は各家に所領を与えておらずすべて禄払いとなっていることは知っておろう?」
「勿論でございます」
「ならば何も言うことは無い。ところで那須左衛門太夫(那須資房)は居らぬようだが?」
「御屋形様は大関美作守(宗増)の
大田原資清は苦々しいと言った表情だ。
「当家としては左衛門大夫がどう思っていようと関係ないがな。邪魔立てするなら滅ぼす。ここで下らぬなら後ほど取り潰すだけだ」
「そこを何とか!某が必ずや説得してみせますので平にご容赦願いたく!」
「であれば宇都宮城を落とすまでに参陣するように。せぬ場合は敵対したものとみなし後ほど滅ぼす故急いでな」
「有り難く存じまする!」
とりあえず那須のことは那須六家に任せて宇都宮へ向かう。途中大田原で兵を休め食料等を市価より良い値で買い上げて驚かれつつ塩谷氏の守る支城の御前原城と川崎城を討ち焼きにし、続いて宇都宮の家臣である氏家が守る御前城も燃やし鬼怒川を渡る。
そして宇都宮の北側を守る岡本城に迫るが、しかし岡本城を居城とする岡本宮内少輔重親は宇都宮忠綱に付き従って空にしており攻囲するや降伏を申し出てきた。
「城の者たちに手出しはせぬように。(袰綿)勘次郎、兵等の監督は出来て居るな?」
「無論です。早速盗みを働こうとした者を斬って参りました」
「ならよし」
規律の維持は後の統治に影響するからな。
一日休息させて宇都宮へと到達する。城は広いが平城で兵もまばらだ。
「よし!砲撃開始!」
降伏勧告は無しだ。ここさえ落とせば古河府まで一息、新九郎が出張ってくる前に到達せねばならん。
火薬節約のため少し普段より装薬量をへらして砲撃をしていく。基本的に木造なので焼き弾を撃ち込むだけで効果は抜群だ。
「普段より距離が近いためかずいぶんとよく当たりますな」
毒沢次郎は感心感心と言った様子。
「兄上、こんな城攻めで善いのですか?」
一方で又三郎は疑問顔だ。
「此方には損害はなく一方的に敵を倒せるのだこれほど良いことはないぞ」
人口は増えてきたとは言え武蔵一国ほどしかおらんし、手間暇を掛けた精兵を失わずに済むんだから安いもんだ。
「そうかもしれませぬが……」
「戦には銭が掛かるが銭はまた稼げば良いが、失った優秀な兵を再度得るには銭を稼ぐよりもずっと手間が掛かるのだ。失う者が少なくなればそれだけ国も銭も助かるのだ」
そんなことを話しつつも砲撃を続けていると那須の軍勢がようやく到着する。
「左衛門太夫(那須資房)は居らぬようだが?」
「御屋形様の首を縦に振らせられず……上那須家の者として謝罪申し上げる」
というのは那須壱岐守政資だ。上那須家と下那須家は左衛門太夫の謀略で纏まったと思っていたがまだ分裂していたのか。
「わかった。これより那須家の当主は壱岐守、其方が名乗れ。後ほど左衛門太夫は討ち滅ぼす故」
そして話し終わったところで、宇都宮忠綱の室である勝子姫が自ら降伏の使者として本陣に参上し開城となった。
一日休養したところで進軍を再開する。
「流石に古河まで無傷で手に入りはせぬか」
二手に分かれて祇園城を落とし、結城城を燃やしたところで
「冬で良かったなあ。夏だと一帯は湿地で大砲が使えなかっただろう」
「いや全くですな。関東が冬は雪も少なくよく乾いていて火の廻りもよう御座います!」
袰綿勘次郎が冗談を飛ばす。左をみればまだ結城城から煙が上っている。
「さて公方はどうでるだろうか?」
「使者でも……おっと宇都宮と結城の幟がこっちを目掛けてきておりますな」
まったく野蛮な。話し合いもできないじゃないか。
「那須勢を先鋒に、さあ関東の覇権を頂こうじゃないか」
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