第四百三十七話 サトウキビが無い!
たぶん南大東島 大槌海軍提督得守
「ここは人の気配がないな」
軽く島の周囲を確認してみたが、およそ船をつけられそうな場所はみあたらない。また島には一隻の小舟もないことから無人だろうと推測する。
「この島はずいぶんと平べったいようですな」
副長の言う通り山というものは無い。
「平べったいのは良いが船をつけられそうなところが無いのは困るな」
とは言えそろそろ水の確保はしておきたいので上陸してみるか。
「では艦隊は任せる」
「お気を付けて」
比較的風邪が穏やかな島の西側に艦隊を置いて上陸する。
「船同士の通信をなんとかせねばならんな」
このタイミングでは各船に伝令を送っているが艦隊行動中ではこうも行かない。信号旗と手旗信号は作っても良かろう。夜間用に信号灯でモールスも使いたいが行灯ではなあ。帰ったら殿か弥太郎にでも相談するか。
「人は居なさそうだが、一応気をつけろ」
岩の海岸に上陸し適当な岩に舫いをつないで、比較的登りやすい断崖を登ると一面のジャングルだ。
「これは……すごいな」
「しかしこれだけ木があると言うことは水も有るのでは無いでしょうか」
「井戸を掘れば或いはそうかもしれぬな」
そう言いながら内陸にすすんでいるとどうやらすり鉢状の地形のようだ。
「うわぁ!」
密林をすすんでいると何かの群れが飛んできた。
「こ、蝙蝠か」
吃驚したな。こんなのも居たのか。
「カシラァ!こっちに池がありまあす!」
先行していた権蔵が池を見つけてきた。鬱蒼とした密林の中で日が差し込む場所があると思えば所謂マングローブ林のようになっている。
「これで水はなんとかなりそうだな。各船に交代で休息と水運びを行うよう言ってきてくれ」
やがて縄をくくりつけた手桶と空になった水樽を担いだ者が到着する。
「ヒャッハッハァッ!水だぁ!」
この時代では珍しいモヒカンヘッドの男が池を見るや手桶で汲んだ水を頭からかぶる。
「気持ちはよく分かるが、これは飲み水でもあるからそれくらいにしておけ」
「ヘイ!スイヤセン!」
そこからは水を汲んでは船に運ぶのを繰り返しとりあえずこれでまたしばらく航海ができそうだ。
「よし、水汲みは終わったから水浴びでも好きにしろ。明日からはここでの荷役がやりやすいよう桟橋を作るぞ」
ヒャッホー!と言って大の男たちが一斉に池に飛び込んでいく。
「うわっ!ここ深くなってるぞ!危ねえ」
ほんの一間ほど入っていくといきなり深くなっているので、少し潜ってみたら底なし沼で真下に深くなっている。
「どうやら底なし沼のようだな。泳ぎに自信のないものは淵から離れぬようにしたほうが良かろう」
と言ったところで皆船乗りなので泳ぎに自信がないとは思われたくないのか、池の中ほどで泳ぎ回ったり中には潜ったりするものも居る。
まる二日、久しぶりの陸地を楽しみ、再びまっすぐ西を目指して船を出す。
「琉球とはどういうところなんでしょうなあ」
「さてなあ」
前世の沖縄なんかは当てにならんだろうが、砂糖が手に入ればいいな。
二日目の朝、黒潮によってやや北向きに流されていると久しぶりの大きな陸地が見えてきた。
「カシラ、あれが琉球ですかい?」
「知らん」
多分そうだとは思うが俺が知っているのは前世の沖縄だけだ。この時代の琉球など全くわからん。
「言葉が通じればいいんですが」
「なに漢語でやりとりすればなんとかなるさ」
珊瑚礁の隙間をすすんで穏やかな湾に入ると見慣れぬ我らの船を見て驚いたのか大量の小舟が集まってくる。その中で一隻、周りの小舟を押しのけて此方に向かってくる少し大きな船がある。
「あれはこのあたりの役人だろうか。出迎えの支度をしろ」
出迎えのために何人かを降ろすと同時に鉄砲の準備をさせる。最初の印象が大事だからな舐められないようビシッとやらねばならん。
「タラップを降ろせ」
役人と思しき少ししっかりした服装の男がタラップを登り、船に乗り込んでくる。
『お前等何処から来た』
何言っているのか分からんな。紙と筆を持ってこさせる。
『我々は奥州から来た阿曽沼の海軍だ』
『奥州?それは一体何処だ』
どうやら筆談は通じるようで助かる。
『ここからずっと北東、艮の方角にある』
『薩摩や倭寇らとは違うのか?』
『我らがここに来たのは初めてだ。薩摩とも倭寇とらとも縁が無い』
『それでは何をしに来た』
『砂糖の採れる竹が欲しいのだ』
確かサトウキビは竹のようだったかなと思いながらそう言うが、役人は少し腕を組む。
『砂糖が出来る竹など無い』
なんだと!え、沖縄ってサトウキビ畑が広がってるんじゃ無いのか。
『砂糖は我々も明から買っているのだ』
がーん!そんな……ではなんのために南洋開拓ではなく琉球にまで来たというのだ。まあないのは仕方が無いからここで商売が出来ないかな。
『商いとなると俺の一存ではどうにもならんな』
『そこをなんとかしてくれないかな?それはそうと折角会えたあんたにこれを贈ろう』
一振りの脇差しを贈るとあからさまに表情が良くなる。
『まあそうだな。倭寇ではないというのなら我が王も商いを拒む理由は無かろう』
そう言うと小役人は返事が来るまで待っていてくれと船を下りていく。
「カシラ大丈夫ですかい?」
「分からん。がここで荒立てるわけにもいかんだろう。まあしばらくはゆっくりさせて貰おう。各船に半舷上陸を認めると言ってくれ」
師走も半ばか。この時期に果たしてすんなり話が通るのだろうかね。もし余りに遅いようなら水と食料だけ分けて貰ってさっさと次に行くかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます