第三百九十五話 伊豆諸島探査 後
式根島沖 大槌十勝守得守
新島でチラリと聞いた式根島、一部の文献では新島とつながっているとされていたが、はっきり分断されている。しかしまあやっぱりずいぶん平たい作りの島だよな。水がないので新島の連中が庫として使っているだけで人は住んでいないらしい。
「上陸はするんですか?」
「いや先に進もう」
気にはなるんだが海況が安定しているうちに先に進んでおきたいので、式根島は通り過ぎる。次の島は式根島と一転して高い山が聳える島だ。
「この島は平らなところが少ないようですぜ」
「人は住んでいるようだから寄ってみるか」
島の南西にある浜に投錨する。この島は平地が少ないようだが砂浜はそれなりに発達していて着岸しやすい。
カッターを下ろして上陸すると島のものが集まってくる。
「俺は奥州阿曽沼家に仕える大槌十勝守得守と申す。この島の名主は居られるか」
「儂がその名主ですが、わざわざ奥州からこんな島に一体何用でございますかな?って潮も居るのか」
「おう爺さん。相変わらず元気そうだな」
潮からこれまでの経緯を説明してもらうと、態度が若干柔和する。
「わざわざ来られたのだ。儂等も奥州の話を聞いてみたいでな、集会所に案内いたしましょう」
半ば歓迎、半ば警戒と言った名主に続いて集会所に向かう。
「それではあんたらが奥州探題を奪い取ったのか!」
酒を飲ませて話し出すと途端に相好を崩した名主を始めとした島の者たちが素っ頓狂な声を上げる。
「いやいやうちの殿様は奥州探題ではない」
「何を仰るのです。奥州探題をよくわからん寒い土地に放り込んだのですから奪い取ったと言っても間違いではないでしょう」
まあ元々奥州探題に対した権威もなかったわけだが、今の奥州探題は輪をかけて何も無いから事実上殿が奥州のトップではあるか。
「しかしそうですか、奥州と豆州が誼を結ばれたと。そして十勝守様はこの辺りの島を検分するために遣わされたと」
勝手に来ただけなんだが指摘しても仕方がないのでそういうことにしておく。
「まあこんな島では米は作れませんからな。あるのはこの明日葉と魚、それにコーガ石だけです」
新島と大体同じようなものか。
「そう言えばこの島はなんというのだ?」
「ここは神津島、古くは神集島と読んでおったそうです」
「神の集まる島?」
「ええ、この辺りの島々が出来た際、最初に神様が降り立ったのがこの島の天上山です」
そこから神々、事代主神が島を作り、事代主神の妻である
「その様な伝えが有ったのか」
「そういやそういう話は俺も聞いたことがあるな」
「お前も何度も聞いとるはずなんじゃがなぁ」
島々の者は昔からそういう話を聞かされているそうだ。さらに年が明けた最初の二十四日の夜には二十五日様という神が海から上がってくるので、家々は厳重に戸締まりをしてさっさと寝てしまわねばならないという。もしその夜に出歩いて二十五日様に出会うと海に連れ去られてしまうとか目が潰されてしまうとか言っている。本当にそんな祟りがあるのかは知らぬが、その時期は風も強くて来ることもないだろうから日誌に記しておくだけとしておく。
「世話になった」
「いえ久しぶりに外の方をお迎えできて我らも愉しゅうございました」
「また来る、とは約束できぬが縁があればまた会おう」
「その日を楽しみにしております」
少し波が出てきたが航海には影響はなさそうなので錨を上げて船を出す。次に見えている三宅島と御蔵島に着く頃には波が高くなってしまい航海日誌に記録だけつけて航海を続ける。ちなみに三宅島はもくもくと噴煙が上がっており前世でもそうだがかなり活発な火山のようだ。
「見事な山だな」
朝日に煌めく山が見えてくる。できれば上陸したいが、波は昨日ほどではないがやや高いと言ったところか。
「カシラァ!船はつけられそうでぇす!」
ぐるっと一周していると西側の海岸は比較的波が落ち着いているようなので投錨する。
他の島と同じように名乗り、島の集会所に案内される。この島は比較的広いからかいくつかの集落があるそうだが飢饉は度々おこっているという。
「それで奥州の、あんたらは隣の小島にも行くんか?」
「いやそのつもりはなかったのだが、なにかあるのか?」
「行かねえならいいんだが、あそこはバクっちゅう悪霊が住んでる島でな、あの島に足を踏み入れると祟りでまず熱にうなされ、やがて足が腫れてしまうんだ」
なんか前世で聞いたことが有るような無いような。
「そんなことがあるんでな、儂等も余程のことがなければ近付かん」
この時代にそんな病気になっては治療も何もできんから近寄らないのが吉か。
「そうか。いや助かった。そうであれば小島には寄らぬことにしよう」
「それがええ」
そして島を挙げての歓待となり二日酔いでもう一日休んだ後に船を出す。
「しかしあの小島がねぇ」
「悪霊の祟りなんてまっぴらですぜ?」
普段は勇敢な船乗りたちや潮なんかは小島の話を聞いて震え上がっている。大方なんかの病気なのだと思うがこの時代には病気と祟りの違いなんてわからないだろうから仕方がない。
「そうだな。本当に祟りかどうかはわからんが、触らぬ神になんとやらという言葉通りにしよう」
そうして最後に残った青ヶ島へと進路を取ったが断崖絶壁の孤島で北側の崖に小舟が数隻置かれているが、この船を係留できそうな場所は見当たらない。小舟のある辺りに上陸することも考えたがすでに波浪が高くなってきたため上陸を諦める。
「人は住んでおるようだが、船をつけられぬようではどうしようもない」
「それでどうするんだ?帰るのか?」
「いやいや潮、探検というのはこれからだよ」
ここからはまだ誰も知らないはずの海なので、騒ぐ気持ちを抑えてしっかり緯度経度を確認し更に南へと向かう。
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