第三百八十七話 小野寺を追い詰めます

角館城 阿曽沼遠野太郎親郷


 小野寺が稲庭城までの要所に砦を構築して徹底抗戦の構えを見せていることがもたらされる。


「これは思っていたよりも手を焼くかもしれませんな」


「手強い戦になるかもしれんが、なに大砲を使えば問題なかろう」


 守綱叔父上が事も無げにそういう。


「稲庭城までには大きな川が二つ、小さいものを含めるともういくらかありますので一つ一つ抜いていくとなればなかなか骨が折れるでしょう」


 さてどうしたものか。


「雪が積もるまでに落とし切るのは難しいと具申いたします」


「貴様は……」


「相去久広が一子、相去佐兵衛久高であります!」


「今年兵学校の四年生か」


「はっ!くじで参謀見習いを引き当てました!」


「そうか。では貴様の意見を聞こう」


 相去佐兵衛が目をキラキラさせる。


「ありがとうございます!逃げる敵を追わなれば良いのではないかと具申いたします!」


「どういうことか」


 守綱叔父上が睨めつける。


「わざわざ退くとなればそれは罠の可能性があります!」


「続けよ」


「横手城から退くのはいいのですが、追いかける我々は小野寺らが砦などにこもらぬうちに追撃したくなるかと思います!」


 それは当然そうなるな。


「となると足の早い騎馬や足軽はともかく、大砲や輜重などはついていけません」


「なるほど佐兵衛、その足の遅い大砲や輜重を狙って来るかもしれぬと言いたいのだな?」


 その可能性は当然あるが向こうにそれだけの兵力があるのか。


「大砲や輜重は大した武装も有りませぬし動きも遅うございます故、大人数で襲う必要はなく、少数の敵が狙ってくるかと考えます」


 ゲリラ戦か。たしかにそうされるとこちらは兵力を分散せねばならんから面倒くさいことになるか。


「それ故、深追いせぬのが良いと愚考いたします!」


「確かに佐兵衛、貴様の言うことにも一理ある。しかしそうすると逃げた小野寺が我らを迎え撃つ余裕を与えるのではないか?」


 それも確かにあるんだよねえ。


「ですので、殿が考案なさっておりました冬季戦、あれをやっては如何でしょうか?」


「しかしあれは未だ研究中のもの。実践で使えないだろう」


 そりゃあ冬季戦が出来るなら向こうも油断しているだろうけどそううまくいくだろうか。


「それとこの作戦を確実に実行するために銭を頂きたく」


「銭を?どうする気だ」


「なに、簡単なことですよ。我らが怖気づき追撃できぬと宣伝し、油断させ高く食料を買うのです。冬は雪で閉じ込められるこの地でございますから雪が溶ける頃には食うものもなくなっていることでしょう」


 飢え殺しでもやるつもりか。まあこの時代にまともな除雪機械なんて無いから有効だろうな。峠を越えようとする少数のものを追い返すくらいの兵がいればいいわけだから、少数でも精鋭が居ればなんとかなるかもしれん。


「それで冬季戦か。その案を容れよう。叔父上もそれでよろしいか?」


「構わんが、俺は貴様らの考える新しい戦が怖くてたまらんよ」


「そういうことだ。斯波には横手城攻略の先陣を切らせるが、追い詰め過ぎぬよう、わざと逃がすよう言っておかねばな」



横手城城下 阿曽沼遠野太郎親郷


「さて籠城されてしまいましたな」


「うまく逃げてくれれば良いんだがな」


 時折砲撃加えたり炮烙玉を打ち込んだりしてほどよく混乱してくれているようだ。


「今日の砲撃数に達した!今日の攻撃は終了するよう前線に通達!」


 参謀見習いらが冷静に状況を確認しその命令を聞いた伝令が走って行く。


「それにしても参謀とやらのお陰で細かいところを考えなくていいのは助かるな」


「今後は軍備計画や動員計画に補給計画など根幹となるものも順次任せていく予定です」


 こうすることできっと俺や叔父上などが出張らなくとも作戦遂行が可能になっていくだろう。


 日が暮れ城の各所に松明がともる。生憎と新月のため月の明かりは得られず松明だけが頼りだ。


「左近、敵の動きはどうなっている?」


「女子供を先頭に城を抜け出しているようで御座います」


 なかなかどうしてしっかり統制できているな。


 夜が明けると攻撃が再開されるが昨日ほど反撃が見られない。と、そのとき伝令が駆け込んでくる。


「申し上げます!搦手側から敵が南へと逃れており、斯波勢が追撃をかけております!」


「む、深追いはせぬよう伝えろ!城にはまだ敵兵が残っているかもしれんぞ!」


 別の伝令が本陣を出て斯波に深追いせぬよう走って行くが間に合わないかも知れない。


「本隊は引き続き城を確保しろ!砲は前へ!」


 斯波は放っておいて城を確保するよう指示を飛ばす。一刻ほどで本丸まで制圧したが足の悪いもの、怪我をしたもの以外は見当たらない。あっさりと引き払ったわけだ。


「逃げたか。いくら稲庭城に下がるとは言え随分あっさり退きましたな」


「罠かも知れぬ。井戸の水を汲んでこい!」


 守綱叔父上がそう言うと城にある井戸のそれぞれから水を汲んでくる。


「叔父上、もしや」


「毒が入っておるかも知れぬからな、そこで倒れておる奴らに飲ませてやれば分かろう」


 俺のことを極悪人の様に言ってたけど、叔父上も大概悪人だよな。そして水を飲ませたところ泡を吹いて死んだ。焼いたり爆破するだけの俺のほうがまだましじゃないかな。


 その後本堂山の敵の砦を落とし、成瀬川まで進出する。また別働隊を須川まで進出させたところで攻勢を止める。


「では佐兵衛、頼むぞ。上手くやって見せろ」


「はっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る