永正12年(1515年)

第三百七十七話 状況確認

鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷


「俺が従五位下陸奥守?」


 年が明け、京から遣いが来たのだがなぜか俺が昇進したという報せだ。


「従五位下といえば昇殿が適うのだったな」


「そのようですが、昇殿の勅許は有りません。替わりに東宮の殿上人の宣旨を賜りましたが」


 これは春宮様にお礼を申し上げに上洛せねばなるまいか。今のごたごたした上方には行きたくないがそうもいかないな。


「ほぉ、あてが抜かれるのもそう遠くなさそうやな」


「たしか大宮様は従四位上でございましたね。流石に貴族でもない私がこれ以上の昇進はないかと思いますが」


「せやろか?阿曽沼はんなら公卿にもいけるんちゃうかな」


 普通に考えて地下家筆頭の小槻氏大宮家でも正四位までというから、俺の昇進もここまでだろう。これ以上となると足利に匹敵する権威権力をもた無きゃ無理だろうからあるとしてもだいぶ先かな。

 それはともかくこうやって貴族になってしまうとそのうち昇殿する機会もあるだろうから作法はまた大宮様にお願いして再確認しておこう。


「しかし困ったのがこれだな」


 朝廷と幕府から直接的な記述はないが寄付をよこせという文が添えられている。


「まあ昨年は凶作だったので秋まで待ってもらうよう返事を書いておくか」


 今年の端境期を乗り切れるかどうか。領民を餓死させるわけには行かないので他領や女真経由で明から食料を買うしか無い。むしろこちらが援助がほしいくらいだ。


「さて援助する余裕はないが、無いなら作るしか無い。ということで鉱山開発はどうなっている?」


「まず釜石の山ですが、出羽の民を受け入れたことから出鉱量は増えております」


 コークス炉がまだ少量しか作れないので鉄鉱石だけ取れても鉄の生産量には影響しないな。


「ついで田老の山ですが、こちらも順調に銅が出ておるようです」


 そういえば田老鉱山は硫化鉱なので石灰に硫黄を吸収させて硫酸カルシウムにすれば肥料に使えるか。どうやって硫黄を回収させるかな。


「釧路の炭も順調に掘れており、昨年は一万貫(約37.5トン)掘れましてございます」


 製鉄に使うには全然足りないな。銅の精錬にも必要だからもっと大量に必要だけど、鉱夫も足りなければ効率的な採鉱用機械もない。更には運搬手段は船なのは良いが荷役に時間がかかる。どうしたものか。


「うむ、山に関してはより労少なく益多くなるよう工夫をしてくれ。優秀な工夫には褒美を取らす」


「はは!」


 民の成果を奪うような悪い上司みたいなのが居なければいいし、そういう者を守る施策も考えねばな。


「最後に田畑の状況ですが、これは芳しく有りません。特に出羽と胆沢郡の被害が大きくおそらく今年の秋まではかなり苦しい状況になると見込んでおります」


「むぅ……わかっていたこととは言え辛いな。今年足りぬ分は明や他領から可能な限りでよいから買い付けてくれ。ところで葛西と大崎から奪った土地がある。あそこは土地が広いからなんとかなろう?」


「どうでしょうな。大崎はともかく葛西の土地は低くすぐに水が越してくる地だそうですしこれまで毎年のように戦や水害などが有ったようですので」


 そう言えば以前寺池に行ったときに水が越していたな。北上川河口付近はまず北上川の治水からか。そう思って来内新兵衛に顔を向けると、ツイとそらされる。


「新兵衛」


「すでに手一杯でございまする」


 街道整備も大変だしな。今年漸く笛吹峠で荷車がすれ違えるくらいに拡幅が出来そうなんだよな。その後は界木峠と仙人峠の拡幅が必要だからまあ忙しいな。


「むぅ困ったな。雪が溶けたら一度視察に行ってどうするか考えるか」


 ついでに新たな当家の民になった者たちの暮らしぶりを確認しておくのもまた重要だろう。


「北上川とそこに流れ込む川の整備、利用、利水についても考えねばならぬ。故に北上川総合整備計画と銘打って整備を行う。これが上手く行けば百万石に手が届くだろう」


 百万石は言いすぎたかな。しかし皆の目の色が変わったな。一年二年でできる工事じゃないから気長に進めていく必要はあるけどね。これが上手くいくようなら馬淵川と閉伊川の総合開発にも取り掛かろう。いずれは十勝川と釧路川に米代川も改修したいものだが余裕がないから仕方がない。


「畜産はどうか」


「は、馬は順調に牧場を増やしております。牛も近江から種牛を入れたりしてこれも増えてきておりますな。そして羊も女真から買い入れるなどして二十匹ほどになりました」


 羊は一回に一頭乃至二頭生まれるようで馬や牛に比べればまだ増えやすいがそれでもゆっくりとしか増えないな。


「うさぎはだいぶよく増えておりますな。ある程度はこいつでなんとかなりそうです」


 調子が良ければ毎月五羽ほど産んで、さらに産まれたうさぎも半年もすれば産み始めるのだから驚きだ。前世でどっかの国が食用にうさぎを飼うことを推奨していたがこれは思っていた以上だ。豚が手に入るまでは肉食用の主力に出来るかな。今年の沿海州への航海で豚を手に入れてきてくれないかな。


「うむ、であれば十勝や渡島にも野うさぎが居るだろうから、それを増やして肉にさせるのもよいな」


 うさぎ肉があればなんとか食いつなぐことは出来るだろうか。足りない分は栃、楢、ブナ、或いは野老なんかも美味くはないがそれで食いつないで貰うしかないか。

 俺も率先して栃や野老から食うようにし、米や麦はなるべく民に行き渡るようにしよう。戦になれば流石に食うけど、普段は節制するしかあるまいね。

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